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百鬼夜行編
卑劣な罠
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「ようこそ、お越しくださいました。海中ホテル“セイレン”のフロントでございます」
美しい人魚が、丁寧な応対をしてくれる。に、人魚なんて、お話しするのは初めて。
おまけに中は海水が抜けていて、普通に歩けるわ。
「あ、あの、これ……」
「はい、ありがとうございます。クローディア・リゴ・ストロベリ様、イシュラヴァ・ヤシャ・クリガー様でございますね」
彼女は、私から星屑のつまったランプを受け取ると、名前をスラスラと伝えてくる。
な、名前まで、わかるの? このランプを渡しただけなのに。
「鍵はこちらです」
「あ、はい」
鍵を受け取ろうとしたその時だ。
「イシュラヴァ」
後ろからルガリオンの声がして、シュラがさりげなく私を背後に庇う。
「なんだ? ルガリオン」
「イシュラヴァ、あの戦い方はなんだ?」
「あ?」
「かつての君と違う。力押しで、無鉄砲なこれまでの君と」
「……」
「私のシナリオでは、君は私のスピードに翻弄されて、情けなく倒されるはずだった」
「知らねーよ」
「私が倒されるなんて、あり得ない!」
「実際、負けたろ」
「く! 認めんぞ。こんな恥を晒して……」
「話はそれだけか? 俺たちはもう行くからな」
「……君も失え」
「!?」
ルガリオンの後ろから、ものすごい数の美女たちが現れて、あっという間にシュラとルガリオンを取り囲んだ。
私とシュラも引き離されて、彼の姿を見失う。
「シュラ様」
「シュラ様、素敵よ」
「シュラ様、遊びましょう」
───何? 何しているの?
甘えるような、扇状的な声に、思わず不安になって背伸びをした。
あらゆる種族の美女たちが、シュラとルガリオンにまとわりついて、ベタベタしている。
え、そんな。
やめてよ……シュラにそんなに触らないで!!
前に進もうにも、彼女たちはびくともしない。
私の周囲も美女たちがきて、羽を広げることもできなかった。
「どうだ? イシュラヴァ。お前は、こういうのが好きだろ」
ルガリオンは、勝ち誇ったように言う。
なんのつもりなの?
シュラは肩をすくめて、彼女たちを見回す。
「あー、まあ確かに。悪い気はしないねぇ」
「毎年寄ってきた美女たちと、朝まで過ごす。私もお前も、そうやってきた」
「おう、だな」
二人の会話に、私は驚きを隠せない。毎年ですって? こ、この人数を?
シュラの恋人というか、関係した数は、一体どれくらいなの?
嫉妬を通り越して、困惑しかない。
ルガリオンは、頷きながらシュラに話し続ける。
「このために、百鬼夜行に参加する種族もいるくらいだからな」
「まあ、俺も節操なかったな。毎年楽しいから、文句はないんだが」
「なら、今年も好きなだけやれ」
「じゃ、遠慮なく」
え……シュラ?
私がいるのに、他の女性と遊ぶ気なの?
胸が苦しくなって、思わず胸を抑える。
ルガリオンは、声高らかに笑い出した。
「ははは! それでいい。君の本質は変わらないのだから」
「お前に、俺の本質がわかんのかよ」
「浮気者で遊びでしか付き合わない、淫蕩な奴」
「あ、そう」
「伴侶を捨てるのも、時間の問題だ」
「ふーん」
「いい女ばかり、よりどりみどりだ。よく見回してみろ」
「どれどれ?」
それを聞いた周りの女性たちは、自分を選んでもらおうと色めき立っている。
「シュラ様!」
「私はここよ! シュラ様あ!」
……なんなの? シュラ……私、ここにいるのに。悲しくなってきて、一人集団から抜け出る。
シュラを、すごく遠くに感じていた。早く部屋に篭りたい。いつまでも、こんなところにいたくない。
「そんなにショックなんだ」
私の目の前に、ルガリオンが立ち塞がっている。高速移動で、回り込んできたのかしら。
「彼の伴侶でいたいなら、こんなこと受け入れて当たり前だよ?」
「……」
「君一人で、シュラを満足させ続けることなんてできない。いずれ、他の女たちが彼を満たすことになる。今のうちから割り切ることだよ」
「やめて!」
「辛いなら、君も別の男と付き合えばいい」
「!?」
「私の元へおいで」
ルガリオンが、私に手を差し出す。傷ついた心を彼で癒やせというの?
でも……。
「私はシュラが好きなの」
「奴は女漁りで忙しい。君なんかもう忘れられてる」
「そんなことない」
「奴に捨てられた女は、みんなそう言うよ」
「はーあ? 誰が捨てたって?」
シュラの声が聞こえて、大きな手が私の手を握る。え? 嘘……。
「シュラ!」
「お待たせ、俺のお姫様」
「あ、あなた、彼女たちと遊ぶんじゃないの?」
「は? なんで?」
「な、なんで、て」
「もう、お断りしてきたぜ」
お断りを?
ふと、女性たちの集団を振り向くと、みんなハンカチを噛んで、悔し涙を流している。
「シュラ? なんて言ったの?」
「ん? さようなら、て」
「それだけ?」
「俺の伴侶に敵う女はいないから、時間の無駄だよ、て」
「え……」
そんなことを言ったの?
ドン!!
ルガリオンは、納得できないと言わんばかりに、床を踏み鳴らした。
「ふざけるな! イシュラヴァ!!」
「ふざけてねぇよ」
「遠慮なく、好きなだけやるんだろ!?」
「遠慮してねぇし、好きにしてるだろ?」
「な……! どうせ続かないくせに!!」
「愛してるよ、クローディア。俺の永遠の愛しい伴侶」
「聞けよ! このバカ鬼!!」
「外野は引っ込め」
シュラは、頬を私の頭に乗せて擦り付けてくる。時間がかかってたから、てっきりもう戻ってこないと覚悟していたのに。
「シュラ」
「ごめんな。どこが敵わないのか、みーんな聞いてくるから、全部に答えてやった。そのせいで、時間がかかっちまったけど」
シュラは頬を離すと、笑顔で私を見た。な、なんて答えたんだろ。
「あんな女に敵うなんて無理よ……」
「完璧すぎるわ……」
「あれじゃ、女神じゃない」
そんな声が聞こえてくる。
なんて言ったの? 不安になってきちゃった。
「シュラ……? 話を盛ってないよね?」
「思ってる通りを言ったよ。こういう時に嘘つくと、後から面倒だから」
「そ、そう。あの、なんて言ったの?」
「綺麗で、可愛くて、頑張り屋さんで、頭も良くて、夜は俺をゾクゾクさせるほどセクシーで、他にもこれができて、あれもできて、それから……」
シュラが延々と語り出す。
そ、そんなに沢山?
なかなか終わらないので、私は真っ赤になって俯いた。
シュラは、話を止めて私を覗き込む。
「不安にさせて、ごめんな」
「う、ううん、大丈夫」
正直、さっきまでの不安が消し飛んじゃった。
シュラは、軽く私の頬にキスをする。
「後から埋め合わせするよ、クローディア。その前に……」
彼はゆっくりとルガリオンを見た。その表情は、恐ろしいものだった。
「汚ねぇ手を使いやがったな、クソ狼」
「な、なんの話だ」
「俺に他の女を選ばせて、失意のクローディアを奪う気だったろ?」
「知らないね」
「なーにが“辛いなら、他の男と付き合えばいい”だ! 他の男とは、お前のことだろーが!!」
「き、聞こえていたのか?」
「当たり前だ! てめぇなんざ、もっとぶちのめしておけばよかったぜ!!」
「野蛮な低能鬼が……」
「負けた腹いせにしちゃ、やることが陰険なんだよ、ルガリオン」
「な!?」
「後ろにいる彼女たちに、てめぇのその陰険さがバレれば、最後のプライドまで失うぞ?」
「な……な、なな」
「耐えられるのか? その綺麗なツラが泣くぜ?」
「き、貴様」
「ねぇーみんなぁ」
シュラは大きな声で、後ろの女性たちを呼ぶ。
何事かと彼女たちは、近づいてきた。
ルガリオンは大慌てで、シュラを睨む。
「覚えてろよ! イシュラヴァ!!」
そのまま、彼は女性たちを言いくるめて、自分の部屋に引き上げていった。
美しい人魚が、丁寧な応対をしてくれる。に、人魚なんて、お話しするのは初めて。
おまけに中は海水が抜けていて、普通に歩けるわ。
「あ、あの、これ……」
「はい、ありがとうございます。クローディア・リゴ・ストロベリ様、イシュラヴァ・ヤシャ・クリガー様でございますね」
彼女は、私から星屑のつまったランプを受け取ると、名前をスラスラと伝えてくる。
な、名前まで、わかるの? このランプを渡しただけなのに。
「鍵はこちらです」
「あ、はい」
鍵を受け取ろうとしたその時だ。
「イシュラヴァ」
後ろからルガリオンの声がして、シュラがさりげなく私を背後に庇う。
「なんだ? ルガリオン」
「イシュラヴァ、あの戦い方はなんだ?」
「あ?」
「かつての君と違う。力押しで、無鉄砲なこれまでの君と」
「……」
「私のシナリオでは、君は私のスピードに翻弄されて、情けなく倒されるはずだった」
「知らねーよ」
「私が倒されるなんて、あり得ない!」
「実際、負けたろ」
「く! 認めんぞ。こんな恥を晒して……」
「話はそれだけか? 俺たちはもう行くからな」
「……君も失え」
「!?」
ルガリオンの後ろから、ものすごい数の美女たちが現れて、あっという間にシュラとルガリオンを取り囲んだ。
私とシュラも引き離されて、彼の姿を見失う。
「シュラ様」
「シュラ様、素敵よ」
「シュラ様、遊びましょう」
───何? 何しているの?
甘えるような、扇状的な声に、思わず不安になって背伸びをした。
あらゆる種族の美女たちが、シュラとルガリオンにまとわりついて、ベタベタしている。
え、そんな。
やめてよ……シュラにそんなに触らないで!!
前に進もうにも、彼女たちはびくともしない。
私の周囲も美女たちがきて、羽を広げることもできなかった。
「どうだ? イシュラヴァ。お前は、こういうのが好きだろ」
ルガリオンは、勝ち誇ったように言う。
なんのつもりなの?
シュラは肩をすくめて、彼女たちを見回す。
「あー、まあ確かに。悪い気はしないねぇ」
「毎年寄ってきた美女たちと、朝まで過ごす。私もお前も、そうやってきた」
「おう、だな」
二人の会話に、私は驚きを隠せない。毎年ですって? こ、この人数を?
シュラの恋人というか、関係した数は、一体どれくらいなの?
嫉妬を通り越して、困惑しかない。
ルガリオンは、頷きながらシュラに話し続ける。
「このために、百鬼夜行に参加する種族もいるくらいだからな」
「まあ、俺も節操なかったな。毎年楽しいから、文句はないんだが」
「なら、今年も好きなだけやれ」
「じゃ、遠慮なく」
え……シュラ?
私がいるのに、他の女性と遊ぶ気なの?
胸が苦しくなって、思わず胸を抑える。
ルガリオンは、声高らかに笑い出した。
「ははは! それでいい。君の本質は変わらないのだから」
「お前に、俺の本質がわかんのかよ」
「浮気者で遊びでしか付き合わない、淫蕩な奴」
「あ、そう」
「伴侶を捨てるのも、時間の問題だ」
「ふーん」
「いい女ばかり、よりどりみどりだ。よく見回してみろ」
「どれどれ?」
それを聞いた周りの女性たちは、自分を選んでもらおうと色めき立っている。
「シュラ様!」
「私はここよ! シュラ様あ!」
……なんなの? シュラ……私、ここにいるのに。悲しくなってきて、一人集団から抜け出る。
シュラを、すごく遠くに感じていた。早く部屋に篭りたい。いつまでも、こんなところにいたくない。
「そんなにショックなんだ」
私の目の前に、ルガリオンが立ち塞がっている。高速移動で、回り込んできたのかしら。
「彼の伴侶でいたいなら、こんなこと受け入れて当たり前だよ?」
「……」
「君一人で、シュラを満足させ続けることなんてできない。いずれ、他の女たちが彼を満たすことになる。今のうちから割り切ることだよ」
「やめて!」
「辛いなら、君も別の男と付き合えばいい」
「!?」
「私の元へおいで」
ルガリオンが、私に手を差し出す。傷ついた心を彼で癒やせというの?
でも……。
「私はシュラが好きなの」
「奴は女漁りで忙しい。君なんかもう忘れられてる」
「そんなことない」
「奴に捨てられた女は、みんなそう言うよ」
「はーあ? 誰が捨てたって?」
シュラの声が聞こえて、大きな手が私の手を握る。え? 嘘……。
「シュラ!」
「お待たせ、俺のお姫様」
「あ、あなた、彼女たちと遊ぶんじゃないの?」
「は? なんで?」
「な、なんで、て」
「もう、お断りしてきたぜ」
お断りを?
ふと、女性たちの集団を振り向くと、みんなハンカチを噛んで、悔し涙を流している。
「シュラ? なんて言ったの?」
「ん? さようなら、て」
「それだけ?」
「俺の伴侶に敵う女はいないから、時間の無駄だよ、て」
「え……」
そんなことを言ったの?
ドン!!
ルガリオンは、納得できないと言わんばかりに、床を踏み鳴らした。
「ふざけるな! イシュラヴァ!!」
「ふざけてねぇよ」
「遠慮なく、好きなだけやるんだろ!?」
「遠慮してねぇし、好きにしてるだろ?」
「な……! どうせ続かないくせに!!」
「愛してるよ、クローディア。俺の永遠の愛しい伴侶」
「聞けよ! このバカ鬼!!」
「外野は引っ込め」
シュラは、頬を私の頭に乗せて擦り付けてくる。時間がかかってたから、てっきりもう戻ってこないと覚悟していたのに。
「シュラ」
「ごめんな。どこが敵わないのか、みーんな聞いてくるから、全部に答えてやった。そのせいで、時間がかかっちまったけど」
シュラは頬を離すと、笑顔で私を見た。な、なんて答えたんだろ。
「あんな女に敵うなんて無理よ……」
「完璧すぎるわ……」
「あれじゃ、女神じゃない」
そんな声が聞こえてくる。
なんて言ったの? 不安になってきちゃった。
「シュラ……? 話を盛ってないよね?」
「思ってる通りを言ったよ。こういう時に嘘つくと、後から面倒だから」
「そ、そう。あの、なんて言ったの?」
「綺麗で、可愛くて、頑張り屋さんで、頭も良くて、夜は俺をゾクゾクさせるほどセクシーで、他にもこれができて、あれもできて、それから……」
シュラが延々と語り出す。
そ、そんなに沢山?
なかなか終わらないので、私は真っ赤になって俯いた。
シュラは、話を止めて私を覗き込む。
「不安にさせて、ごめんな」
「う、ううん、大丈夫」
正直、さっきまでの不安が消し飛んじゃった。
シュラは、軽く私の頬にキスをする。
「後から埋め合わせするよ、クローディア。その前に……」
彼はゆっくりとルガリオンを見た。その表情は、恐ろしいものだった。
「汚ねぇ手を使いやがったな、クソ狼」
「な、なんの話だ」
「俺に他の女を選ばせて、失意のクローディアを奪う気だったろ?」
「知らないね」
「なーにが“辛いなら、他の男と付き合えばいい”だ! 他の男とは、お前のことだろーが!!」
「き、聞こえていたのか?」
「当たり前だ! てめぇなんざ、もっとぶちのめしておけばよかったぜ!!」
「野蛮な低能鬼が……」
「負けた腹いせにしちゃ、やることが陰険なんだよ、ルガリオン」
「な!?」
「後ろにいる彼女たちに、てめぇのその陰険さがバレれば、最後のプライドまで失うぞ?」
「な……な、なな」
「耐えられるのか? その綺麗なツラが泣くぜ?」
「き、貴様」
「ねぇーみんなぁ」
シュラは大きな声で、後ろの女性たちを呼ぶ。
何事かと彼女たちは、近づいてきた。
ルガリオンは大慌てで、シュラを睨む。
「覚えてろよ! イシュラヴァ!!」
そのまま、彼は女性たちを言いくるめて、自分の部屋に引き上げていった。
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