不遇弓使いの英雄譚ー無敵スキル『絶対反転』を得て救世主となる

たからかた

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二章

フィオの告白

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俺が後ろを振り向くと、悪霊たちがまた群がりだしていた。

全部で五体か。

俺は彼女を背に庇って、改めて弓矢を床に打ち込む。

カッと床が光って、悪霊たちは動けなくなった。

一回、エナジードレイン、ニ回、装備破壊スキル全て攻撃抑止により不発。

三回目は?

そう思っていると、悪霊たちは攻撃そのものをやめて退散していった。

まるで、どうなるか理解しているかのよう。

「イッチャッタ! ガー!」

フェイルノが嬉しそうに喋る。
俺は改めてフィオを振り返った。

あちこち汚れていて、手や顔に擦り傷がある。

初めての冒険で、沢山怖い目にあったみたいだな。

でも、俺が来るまで、みんなをマジックシールドで守り続け、自分に群がる悪霊たちも散らしてきた。

すごいことだ。

「フィオ、遅くなってごめん。もう大丈夫」

それを聞いた彼女の手足はガタガタと震えていて、必死に口を引き結ぶ姿がいじらしく見えた。

「……来て……くれた……」

彼女の震える唇が、掠れながらも言葉を紡ぐ。

「あぁ、来たよ。フィオが呼んでくれたから」

俺が言うと、彼女は俺に近づいてくる。
そのまま俺の胸にコツンと頭を当ててきて、動かなくなった。

え、えーっと、こういう時は───。

「ギュー、ヤサシク、ギュウ」

「わ、わかってるよ」

フェイルノに言われるまま、フィオの肩に手を置くと彼女はそのまましがみついてきた。

「!!」

柔らかくて、あったかい……。
変な気持ちになってきて、顔が熱くなってきた。

「ヤサシク、ギュウ!」

「わかってるって!! な、慣れてないんだよ」

体がガチガチになりながら、ぎこちなく抱き締める。

力を入れたら、壊れてしまいそうなくらい、柔らかくて脆い。

そんなふうに考えてしまう。

でも、微かに聞こえる泣き声に、思わずハッとなった。

俺の馬鹿野郎! 自分のことばかり考えやがって! 俺は改めて彼女を抱き締めた。

「怖かったの……」

フィオが腕の中で、絞り出すように呟く。

そうだよな。

仲間は石化し、たった一人で必死に耐えていたのだから。

「よく頑張ったよな。フィオ」

「ううん、そんなことない」

「フィオ?」

「……みんなが石化したの、私のせいなの」

「え」

「私が入り口の仕掛けに驚いて、慌てて走ってしまって」

「そうか……」

「悪霊に追われて、オメガゴーレムにも襲われて……みんな、私を守ろうとして、石化してしまったの」

「うん」

「私……必死でシールドを張って、悪霊を散らして……それでも、このままじゃいつかやられてしまうこともわかってた……」

「それで、俺にメッセージをとばしたんな?」

「ええ、ごめんなさい」

「謝ることじゃないよ」

「なんとかしようとしたのに、できなくて……そんな時、あなたのことが思い浮かんだの。あなたを危険に巻き込むのに、私……」

「いいんだ、頼ってくれて嬉しかった」

それは本当だ。呼ばれてここに来ることを、少しも嫌だとは思わなかった。

「あなたは、優しい言葉ばかりくれる……こんな私のためを思って」

「そうじゃない。自分を責めるな、て。フィオは新人なんだ、できないことの方が多いんだよ」

「冒険に出たら、新人もベテランもない、て、オベリア様に言われたのに……行動に責任をもてと言われたのに」

それは事実だ。けれど、新人は新人。何も知らずにたった一人で、なんとかできるはずがない。

それでも苦しむのは、溜め込んだ感情で心がはち切れそうになっているからだ。ちゃんと、気持ちを吐き出させないと。

「フィオ、それから?」

「え」

「ちゃんと聞いてる。まだ、言い足りないだろ? 話して」

「んぅ……」

彼女は、苦しそうに喉を鳴らすと、堰を切ったように気持ちを話し出した。

「自分をどうしても許せないの。わ、私、自分が情けなくて……初めての冒険とはいえ……仲間を危険に晒して……」

「ん……苦い経験したな」

「悔しい……」

肩を震わせる彼女に、思わず俺の腕にも力が入る。できることを必死でやったのだから、それでいいのに。

俺は抱き締めたまま、片手で彼女の頭を優しく撫でた。

逃げ出さずに踏みとどまった自分を、もっと誇りに思っていい。

いや、ここは口に出さないと、伝わらないよな。

「そうだな。でも、逃げなかったフィオはすごいよ。仲間は誰も死んでない。石化は治せるから、大丈夫。これ以上、自分を責めるな」

そう……仲間はちゃんと守れてるんだよ、フィオ。誰も失ってはいないんだ。

「うん……うん!」

彼女は、夢中で頷いている。よかった。心に届いたんだな。

「よしよし……元気が出てきたな」

「……ありがとう。あなたには、助けられてばかり」

「これからも、助けるよ」

「え!? それじゃ……?」

「俺も行く、この旅に参加する」

「あ、う、それって、う、嬉しいけど、私が頼りないから?」

「違う、違う。行きたいから行くんだ。それに、フィオが自分を頼りなく思うのは、今だけだと俺は思う」

「……?」

「いつか、俺の方がフィオに助けられる時がくる。フィオはきっと強くなるさ」

「アーチロビン……」

「それまでは、この弓使いに、あなたを助ける格好いい役目をいただけませんか?」

「ええ?」

「今のうちに恩を売って、後から堂々と『フィオ、助けてー』て、言えるようにしておきたい」

「ぷっ、クスクス」

「あてにしてる」

「ふふふ……わかった」

……笑ってくれた。
よかった。

彼女が落ち着いたら、仲間たちの石化を解かないとな。

そう思っていたら、それまで顔を上げなかったフィオが、不意に顔を上げて至近距離で見つめてきた。

ドキ! 心臓が跳ね上がりそうなほど、その表情に驚いてしまう。

暗い地下室の中で、暗闇に慣れた目が彼女のほんのりと上気した顔を捉えた。

な、な、なんだ? この胸の高鳴り。
目が逸らせず、彼女の瞳に吸い込まれそうになる。

「アーチロビン」

彼女の可愛い声が、耳に響いてきた。

今更ながら、腕の中の温もりと感触、そして不思議と香る彼女の甘い体臭を実感して、クラクラし始める。

膝から力が抜けていきそうだ……。
ドクン、ドクンと、心臓の音だけが喧しく聞こえて、彼女に聞こえないかと心配になった。

「……き」

彼女の唇が、微かな声を漏らす。
何? なんだ? 聞こえない。

「フ……フィオ?」

何を言う気だ?
『……き』て、“嫌い”か?
それとも……。

期待しすぎるなと、頭の中で警告音が鳴る。
わかっているけど、一言も聞き逃したくない。

俺の腕の中で、みるみるフィオの瞳が潤んでいった。
早く……早く言ってくれ、でないと。

あまりの可愛いさに、このまま抱き潰してしまいそうになる。

腕に力を入れまいと、身体をこわばらせていたその時、

「私、あなたが好き」

「え!」

はっきりと告白されて、俺はそのまま動けなくなった。

『あなたが、好き』。彼女のセリフが頭の中で、何度も再生されて、俺の思考は完全に停止してしまった。





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