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優しい手

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私は夢を見た。

故郷の夢。

それから、かちゃかちゃとパソコンのキーボードを押す音。
・・・あれ、ここは現実の世界?
誰かパソコンで、プログラムコードを打っている。

「・・・、せめて無事で。
君が戻れる時が来たら、またここへ戻っておいで・・・。
レモニー・ケル。」

と、誰かが言っている。

誰・・・?

と、思いながら、意識が暗闇に沈む。
それから、ゆっくりと意識が浮上してきた。

冷たい海水の中にいたはずなのに、今はとても温かい。

誰かが優しく顔を撫でてる・・・。
この手は知ってる。
この手は確か・・・。

ゆっくり目を開けると、知らない部屋の天井が見えた。
・・・また、どこかに転生した?

頬に人肌の感触をぼんやり感じて、顔を向けると、目の前にライオネルの顔があった。

ええ!?

一気に目が覚めて、彼を見つめる。

ライオネルも、こちらに気づいて嬉しそうに微笑んだ。

「気分は?」

至近距離で優しく言われて、私の顔がみるみる真っ赤になる。

ち、近い!
顔がすごく近い!!
静かに尋ねられて、何か言おうにも状況が呑み込めずに、思考が空回りする。

色々な感覚が戻ってくるにつれ、嫌が上でもわかってしまう。

ここはベットの中よね?

つまり、私たち一緒に入ってるのよね?
なんだか、しっかり抱き締められてるよね?

しかもなんだか、服を着てない。
彼も私も・・・!

まだ、こ、恋人同士にもなってないはず!?

「あ、これ?
濡れた服のままだと命に関わるから、脱がさせてもらったよ。
大丈夫。
見てないし、見えてない。
君を脱がせたのは、シャーリーンだから。」

ライオネルの、なんでもないことだといわんばかりの声に、逆に混乱する。

えっと・・・えっ・・・と?

この状況は、心配するな、と?

ライオネル、なんでそんなに冷静なの?
慣れてるのかな。
体が貧相で女と見られてない、とか?
ゲームの中とは思えないくらい、生々しい感覚。
私もゲームのキャラクターだから、直に感じるんだろうけど。
わ、私は冷静になんて無理よ・・・。
ライオネル、私は無理。
これが私の初体験なのに・・・。

たまらなくなって、両手で顔を覆う。

「怒らないでくれ。
ずっとあなたはガタガタ震えていて、体温が下がりすぎて危険だった。
急場凌ぎで俺の体温で温めた。
もう、大丈夫みたいだから、離れるよ。」

ライオネルはそういうと、目を閉じてさっと離れ、毛布を素早くかけると、ベットを降りていった。

お、怒るなんて・・・。

ただ・・・ドキドキしてるだけ・・・。

温もりが離れた肌は、急に冷えて逆に心細くなってくる。

ライオネルが服を着る音がして、扉を開いて部屋を出て行った。

あ、あたりを見回して、状況をつかもう!
ここは、どこかのお屋敷?
それともホテル?

必死に気を逸らそうとしていると、ライオネルと入れ替わりに、シャーリーンが飲み物を持って入ってくる。

「レモニー様!」

「あ、シャーリーン!
無事でよかった・・・。」

顔が見られて、心底ほっとするわ。

「ええ、目が覚めたんですね?
まずはこの白湯をお飲みください。
ゆっくりと・・・。
私はもうダメかと思ってました。
レモニー様、全身冷えて、唇が真っ青で。
私はスラム育ちだから、路上の死体なんかも見たことあるんですけど、それに近かった。」

「シャーリーン・・・。」

「私が泣いてレモニー様をさすっていたら、ライオネルが、絶対助けると言ってここに連れてきたんです。
部屋に入るや否や暖炉に火をくべて、濡れた服を脱いで、レモニー様も脱がせてベットでずっと抱きしめてましたよ。
何度もレモニー様の名前を呼んで、目を覚ましてくれと言ってました・・・。」

「え!?
シャーリーンが脱がせてくれたんじゃないの?」

どういうこと!?
ライオネルは、そう言ったのに!

「・・・?
はい。
だってライオネルは、誰にもレモニー様を触らせないんですもの。
私も隣の部屋で着替えて、お医者様を呼んだんですけど、ライオネルはその間もレモニー様から離れなくて。
お医者様に、助けないと許さないとか脅すものだから、流石さすがに注意しましたけど・・・あれ?
レモニー様、耳まで顔が真っ赤ですよ。
熱が出てきたのかしら。」

「ちが・・・だって・・・。」

なに・・・?
誰にも触らせない、て・・・。
ま、まるでそれじゃ・・・。

シャーリーンは混乱している私を見て、

「あ、レモニー様の考えてるようなことはないですよ。
今回は本当に危なかったんですから。
もし、そんなつもりでレモニー様に触れていたのなら、私が成敗しています。」

と、あっさり言い、私は逆に複雑な気分になった。

「こ、ここはどこ?」

とりあえず話題を変えよう。

「シャトラ国です。
あれから大変でした。嵐の中漂流して、助けられて。
ここは、ライオネルの知り合いの家だそうです。」

「彼は外国人だったのね。」

「はい、見直しました。
元侍従だけあって、テキパキしてるんです。
そして、彼は喧嘩強かったですよ。
私も腕に覚えがありますが、それ以上です。
あれは監獄の中の喧嘩でも、全員倒したかもしれません。
それに泳ぎがうまかった。
何者なんでしょうね、彼。」

「わからない。
助けに来てくれた時も、別人みたいに見えたし。」

「あれが素みたいですね。
あの元左大臣が、レモニー様を狙うことがわかってたから、来るなと手紙を出してたんでしょうね。」

「そう!
手紙の話!
きてないよね?」

「ええ。
見ていません。
あの元左大臣が看守を買収して、手紙を奪ったかも。」

「元左大臣・・・。」

あの好色そうな顔を向けられて、本当に気持ち悪い。

ライカの件で少しはりたかと思ったのに、全然わかってない。

力ずくでものにすれば、それでいいと考える彼の思考は、おそらく永遠に変わらないだろう。

肩に触れられた時も、気持ち悪さで吐きそうだった。

ライオネルには、さっきのように抱き締められていても、少しも嫌じゃないのに。

そういえば初対面の時も、顔を撫でられたけど、不快には感じなかった。

・・・なぜ?

「ライオネル、捕まったレモニー様見て、凄い殺気出してましたよね。
元左大臣殺されるかと思いました。
あいつ、どこに行ったのか。
散々レモニー様利用しといて、妻にするとかあり得ない発想ですよね。」

と言って、シャーリーンが腕まくりをしながら、顔をしかめる。

「冗談じゃないわ。」

私も即答する。

「同じく。
今度あんな真似したら、私が殴ります。
元左大臣は、どこに行ったのかわかりません。
でも、生きてると思います。」

とシャーリーンは、遠くを見るようにして、言った。

そうだろうな。
あいつは私と違って性根の腐った悪人。
最後まで立ち塞がりそう。

「お手伝いしますから、お召し替えしましょう。
ライオネルが、いつまでも部屋に入れませんから。」

シャーリーンが、にこにこと笑いながら、手伝ってくれる。

か、顔合わせられるかな。

自分で軽く体に触れて、まだ残る彼の温もりと感触にますます顔が赤くなった。
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