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近づく想い

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朝の光に目を覚ました。

目の前には、腕枕をしたまま眠るライオネルの顔がある。

もう、驚かない。

怖い夢もあれから見なかった。

私は、ほっとして目の前のライオネルの顔に触れる。

こうして見ると、本当に端正な顔立ちしてる。
目鼻立ちははっきりしてるし、唇の形もいいし。

片目でなければ、確かにケルフェネス王子とよく似ている。

この人も、美形キャラの一人なんだよね。

ヒロインパートでは、攻略対象でないことを、惜しむ声の多かったキャラクターだ。

着痩せするからわからなかったけど、体つきもがっちりしてたな・・・。
喧嘩も強そう。

元左大臣に怒ってた時は怖かったけど、私に触れてくる時はとても優しい手つきになる。

昨夜もしっかり抱き締めてくれて、その温もりはとても安心できた。

優しくて強い・・・素敵な人・・・。

その時、ライオネルが目を覚まして、心配そうに見つめてきた。

「ありがとう、ライオネル。
もう、大丈夫。」

その言葉に、ライオネルが安心したように笑い、片手で私の頬に触れてくる。

いつも、この人こういう触れ方をする。

癖・・・?

そう思っていると、じっと見つめられていることに気づいて、緊張してしまう。

目が逸らせなくなって、見つめ返していると、
顔が近づいてきた。

え・・・。

そのまま唇を重ねられて寝ぼけた頭が、一気に覚めた瞬間、

「おはようございます!」

と、シャーリーンが大声で部屋に入ってきた。

慌てて、ライオネルと互いに離れて、シャーリーンを見る。

「はい、朝です。
ライオネル、さあ、レディは朝の支度があります。
部屋を出てください。
レモニー様、昨夜のあやまちは目を瞑りますので、ご支度を!」

「あ、あやまち?」

「はい、良家のご息女としての振る舞いを、忘れてはなりません!
ライオネル、さあさあ、出たでた!」

はきはきと言うシャーリーンに促されて、私も彼もおろおろしながら、従う。

ライオネルが部屋を出るのを確認すると、シャーリーンが手早く朝の支度をさせてくる。

「シャーリーン・・・、あの・・・。」

「・・・わかってます。
レモニー様が彼を好きなことくらい。
でもね、レモニー様。

彼は世間的には脱獄犯なんです。
おまけにこの国では亡命者。

その問題を解決しない限り、レモニー様は結局引き離されてしまう。

二人の間にある愛はそこを気にしないでしょうが、周囲は違います。

それに、またレモニー様自身も魔女疑惑までかかってるし。」

シャーリーンはそう言いながら、髪をといてくれる。

「ただでさえ、レモニー様のお父様は、ライオネルをよく思っていません。
当たり前ですよね、娘の醜聞を作り出して、広めていた人だから。」

私もそれを聞いて頷く。

このゲームの世界はよくできてる。

まるで本物のよう。

「最後には、彼とちゃんと結ばれて欲しいとは思ってます。
もちろん、私はどこまでもお供しますけど?」

シャーリーンが明るい声で、私の髪を結い上げる。

「ええ、もちろん。
あなたは、ずっと私の一番のメイドよ。
いえ、仲間だわ。」

と、私は嬉しくなってシャーリーンに言った。

「はい!」

シャーリーンの元気な声が響く。

そう、問題は山積み。

ヒロイン効果を用いても、全部解決するわけではない。

今度のキーアイテムはどこにあるのか・・・。

私はIDを持つプレイヤーではないから、メニュー画面も見られない。

ライカと会えればいいのにな・・・。
こちらがライカの言葉を聞くには、彼女のアバターのところへ行かないといけない。

ここは中世の世界観が強いから、電話なんてないし、手紙?

時間がかかるな・・・。

「あら、窓に伝書鳩。」

シャーリーンの声がして、窓を見ると、鳩がコツコツと窓を叩いている。

私は慌てて窓に駆け寄り、伝書鳩から手紙を受け取る。

それは、ライカからの手紙だった。

開くと、達筆な文字で書いてある。

『ごきげんよう。

見てるわよー。
あなたを操作できないから、本当に映画を見てるみたいに、あなたたちを見てる。

あなたは、自立稼働のキャラクターだから、ある意味楽できるわ。

ネットの情報を見ると、他のプレイヤーのレモニーは、普通に操作できちゃうみたい。

やっぱりあなたは不思議な存在。
そうか、転生してるんだもんね。

あ、あなたたちの考えもセリフも、テロップで見えてるわ。

私はメニュー画面開けるから、ナビゲートしてあげられるわよ。

私はアバターが国に残ってるから、私の言葉はこうして手紙で読めるようにするわね。

世界観としてタブレットにはできないのよ。
この紙は無くさないで。

ずっとここに私からの言葉が載るから。

この紙がタブレット画面だと思って、スワイプすればいいのよ。

ゲームて、いいね!

元左大臣はさておき、ライオネルと良い仲になってるね!
もう、ドキドキしながら見てたよ、昨夜。
朝もなかなか良い雰囲気。』

う・・・、そりゃ向こうがプレイヤーだから仕方ないけど、全部見られてると思うと恥ずかしい。

『二人の間には確かに、シャーリーンが言う問題があるけど、いざって時には駆け落ちよ!
ここは、恋愛ゲームよ?
現実的な解決うんぬんはナンセンスよ。』

それは、そうなんだけど・・・。

『あ、あなたのお父様には、うまく誤魔化してるの。
私からのたっての頼みで、そこにいることになってる。
気にしないでね。』

何から何まで、ありがとう。
ライカ。

『あと、あなたの悪夢は何かしらね・・・。
他にもこのトゥルーエンディングルートに入ったプレイヤーがいるけど、どのレモニーもそんな悪夢は見てないの。
あなただけの現象よ。』

そ、そうなんだ。

『で、キーアイテム?
まだ、その画面はでてないわ。
おそらくイベントが起こって、それで必要になると思う。
出たらすぐ教える。
ま、ほら、RPGあるあるよ、話を進めるには、街に出て情報収集。
体が動くなら変装でもして、外出したら?』

なるほどね。

「シャーリーン、街に溶け込めるような衣装、ないかしら。」

シャーリーンがクローゼットの中から、該当する衣装をさっと、取り出す。

・・・本当に都合のいい世界。

さっさと着替えて、ライオネルを部屋に呼び、3人で今後について話し合う。

「レモニー様には、できればすぐ帰国してほしいが・・・、あの噂の嫌疑が晴れない限り国境辺りで捕まえられる危険性が高い。」

ライオネルが難しい顔をする。

「私は、パム村に行ってみたいな・・・。」

私はつぶやく。

「パム村に?
レモニー様、なんの御用です?」

シャーリーンが首をかしげる。
そこで、彼女にも悪夢の話を伝える。

「変な夢ですが、何度も見るということは何かありますねー。」

「でしょ?
はっきりさせないといつまでも見る気がするの。」

「・・・俺は、レモニー様は魔女かもと言う噂がある以上、あの悲劇が起きた村に、あなたを連れていくのは気が引ける。
だが、ちょうどあそこへいく用事もできたからな。」

ライオネルが腕を組んでため息をつく。

「と、言うと?」

「パム村は交易都市『カチャガチャ』のすぐ隣だ。
そこに元左大臣が、王室の急進派のペヤパヤ大臣と一緒によく現れるという話をケルフェネスから聞いた。

ペヤパヤ大臣は末の弟カチャリナの後見人だ。
幼い弟を即位させて、摂政政治を取る気でいる。

何か企んでいて、それにレモニー様を利用する気だ。」

私は胸を押さえて、ライカからもらった手紙を開く。

『イベントが起こるマークがついた。
彼と一緒に行動して。』

私はライオネルの方を見て、

「行きましょう。
交易都市『カチャガチャ』へ!」

と、言った。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

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※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。



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