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番外編 シャーリーン視点(本編)

レモニー様のメイド

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「何も盗まれていない、そんなにお腹が空いてるなら、私のメイドになればいいじゃない。」

ある日、私はこの人にこう言われて、彼女付きのメイドとしてこのお屋敷で働くようになった。

スラム育ちで、その日を生きるお金欲しさになんでもしてきた日々が、急に3食寝床付きの生活に変わった。
お給金も出る。

夢のような日々の始まりだった。

「シャーリーン!!
どこなの!?」

あの人から、怒鳴りつけるように呼び出される。

周りのメイド仲間は、

「お気の毒。
適当にあしらいなよ。
あの人、気分屋だからさ。」

「そうそう。
わがままで、気まぐれ。
あんまり関わりたくない。」

と、言ってる。

んー、確かに性格は問題あるけど、そんなにひどくないんだよね、私に言わせると。

偽善的なやつよりよっぽど正直だし、悪事働くほど度胸のある方でもないし。
ぎゃあぎゃあ騒いで、思い通りにいかないと不貞腐れる手のかかる人、てくらい。

面倒くさい人ではあるよ。
でも、私には恩人。
ここのお給金で、弟や妹たちがお腹いっぱい食べられる。
病気のおじいちゃんの薬が買える。

・・・ご飯がいっぱい食べられて、屋根のあるうちで寝起きできるのはね、とても幸せなことなんだよ。

「シャーリーン!」

「はい。」

「ライカ姫に下剤でも飲ませたい!」

私はこのベットに突っ伏したまま、顔もろくにあげないレモニー・ケルのメイドをしてる。

「今朝は、一昨日ワインをぶっかけたいとおっしゃってたのを慌ててお取り消しになったのに、今度は下剤ですか?」

「ティモシー王子の前で、恥ずかしくお腹でも鳴らせばいいのよ!
ゴロゴロ・・・それからっ・・・!」

「レモニー様・・・、そこから先は良家のご息女としていかがなものかと。」

「・・・!
んもう!!
シャーリーン、じゃ、どうすればいいの!?
ティモシー王子が取られちゃうわ!
私のものなのに!」

この辺りから徐々にヒートアップして、最後は喚き散らし始める。

今日も今日とてこんな感じ。

それから部屋中のものが飛び交い、羽毛の枕が破れてその辺一帯が羽まみれになる。

途中退室できないから、最後までいてあげる。

「なんでこんなに散らかってるの!?
この部屋!!」

と、最後の締めの言葉。
あんたが暴れたからね、とは言えない。

昔からこんな感じのこの人。
何も進歩せず、何も学ばない。

でも、容姿は驚くほど美しい。
彼女より綺麗なのは、最近ティモシー王子の恋人として現れたライカ姫くらい。

レモニー・ケルはこの国では有名な性格の悪い女。

ちまたでは、何やら尾ひれがついた話が闊歩かっぽしてる。

それでも、私に言わせればただのわがまま娘よ。

この人より悪人なんてその辺にゴロゴロいるわ。
なのに、何故かよく悪評の的になる。
それが最近、どんどんひどくなるの。

・・・誰か何かやってるね?

直感的にそれを感じる。

あのスラムを生き抜いてきた私に言わせると、ここまでの悪評は、人為的だとわかるもの。

その後もレモニー・ケルの仕業とされる、ライカ姫に対する執拗な嫌がらせが行われて、それが全部この人が愚痴として吐いた内容ばかり。

これには流石さすがに私も恐ろしさを感じたよ。

だって誰も実行なんてしてないんだよ?

この愚痴は私しか聞いてないし、もちろん翌日の朝にびびって彼女は取り消すから、私も何もしない。

やろうと思えばできるけどさ。

でもしてないのに、愚痴の通りのことが起きて、それを王子が防ぐ。

そしてレモニー様が批判される。

ここまでくると、気持ち悪くてたまらない。

なんかレモニー様が気の毒でさ。

私は、みんなほど彼女嫌ってないもん。

私が言い返しても、クビなんて言わないし、

「シャーリーンのおじい様が病気?
なら、町一番のお医者様に診せなさい!
お金?
あなたのお給金で足りないなら上乗せしてあげるわよ!
さっさと診せてきなさい!
グズは嫌いよ!!」

と、言われて無理矢理家に返されて、その足でおじいちゃんをお医者様に診せてあげられた。

「なに?
弟や妹たちの学費?
一括して払ったわよ!
納付済みよ!
いいから、さっさとドレスを出して!」

と、変に親切。

恩着せがましく、そのことを言うこともない。

ほどこしというより、自分のことをして欲しいからお金で解決している感じなんだけど、

「仕事しやすいでしょうが!!」

と言い切る人。

お陰で私は伸び伸びと働けてる。

仕事仲間もいい人ばっかりだし、未払いの給料もない。

レモニー様は知れば知るほど可愛い人よ?

私は変に親切の皮を被って、腹の底で人を笑う人より、彼女みたいな人が好き。

だから、私にはレモニー様は大切な人。

怒鳴ろうがわめこうが、こんなものスラムの喧騒に比べたらそよ風よ。

私と家族を助けてくれた恩人で、それを親切とも思ってない。

大金持ちにありがちな、ケチさもない。

「シャーリーン・・・昨日はごめんね。」

なんてことも言ってくる人。
本当だよ?

そんな彼女が、ある日変わった。

ティモシー王子とライカ姫の婚約パレードの日に、変わったの。

なんていうの?

昨日まで赤ちゃんだった人が、急に成人したみたいな。

本当だってば。

新しいレモニー様。
なんだかびっくりしたけどさ。

でも、こんなに話が通じるレモニー様もいいよ?

そんなレモニー様と、私はこれからいろんな事件に巻き込まれるんだ。



~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

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※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。








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