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後編
信頼と愛情と
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少し斜め上から見下ろす彼の顔。
ふと迎賓館の庭での思い出が脳裏に蘇る。あの時の・・・男の子の顔。
6歳の彼と、4歳の私はここで初めて出会った。
彼と喧嘩する大きな男の子たちを追い払ったあと、私は不安そうに俯く彼の方へと振り向いた。
私があげた幸運のキャンディを恐々口に入れる彼は、なかなか笑顔を見せない。
それならと、王妃様のいるところまで、一緒に行こうと手を繋いだあの時。
引っ張っても、下ばかり見てなかなか歩いてくれないので、彼の隣まで戻り、歩調を合わせてゆっくり歩いた記憶が蘇る。
もう目の前に、あの大きな男の子たちはいないのに、彼は何故か怯えていた。
よく見ると、彼の足元は芝生が焼け焦げていて、彼が足を踏み出すたびに、足跡のように芝生が焦げていく。
「私も時々あちこち凍らせちゃうの。
同じだね。」
私は気にせずに、手を繋ぎ直した。
彼は私をチラリと見て、
「熱くない?怖くないの?
兄様たちは、気味が悪いと言って嫌うんだよ?」
と、聞いてくるので、私は首を横にふった。
「平気!冷やすの早いもん。
それに私、あなたのその瞳の色大好きだもの。
一緒に歩いてくれたら、嬉しいなぁ。」
私はそう言って、彼を安心させるために、数を数えて歩くことにした。
「いーち、にー、さーん・・・」
彼が立ち止まれば私も止まる。
また進み出せば一緒に歩く。
カウントもまた1からやり直し。
それを何度も繰り返す。
弟がいたから、怖がってる時は叱って無理に引っ張るより、安心させて一緒に歩いた方がいいことは知っていた。
でもあの時、4歳になったばかりの私は、数を10までしか数えられなくて、彼に助けを求めるように見上げた。
「きゅーう、じゅーう、・・・じゅう、じゅう・・・?んんー?いーち?」
その時彼は、私の手をぎゅっと握り返して、初めて顔を上げた。
『・・・じゅういーち、じゅうーにー、13、14、15・・・!』
彼の声に合わせて、私も一緒に数えて歩く。
次第に彼の足元の芝生は焦げなくなって、彼は嬉しそうに歩く速さが速くなり、最後は二人で笑ったんだ。
「ほらね?大丈夫だよ。
このまま手を繋いで数を数えて歩いたら・・・、」
幼い時の私は、そう言って彼を見上げたのを思い出して、思わず口に出した。
ファイ様も嬉しそうに、私の言葉に合わせながら息を吸い、
「「二人で、どこまでも行けるね。」」
私たちは同時に言った。
そうだ・・・そこが私たちの原点。
あの日、彼を救うために木の棒を振り回して、幸運のキャンディをあげて、王妃様の前で彼にプロポーズしただけじゃないんだ。
忘れていた・・・今の今まで私・・・。
「あなたは、ずっと覚えていたの?」
ファイ様は頷く。
「もちろん。初めて会ったあの日以来、心の奥に焼き付けた。明るい太陽の下を二人で歩いた時、このままずっと手を離したくないと思ったから。
アイスリーは無理ないよ、小さすぎた。」
「ごめんなさい。」
「いいって。アイスリーの『大丈夫』という言葉とあの無垢な笑顔は、その後の私を何度も救い、考え方も変えてくれた。
アイスリーのおかげで、いいことがたくさん起きたんだよ。素敵な初恋だった。」
ファイ様は立ち上がって、私も手を引いて立たせてくれる。
あの時と違って、彼の手はこんなに大きくて逞しくなったんだ。
でも、あの時の私は、彼の中でかなり神格化されている気がして、心配になってくる。
「あ・・・その、あなたは、本当に今の私に幻滅してない?
あの時とは私も変わったし、気を遣ってくれてるだけ・・・とか。」
「全くない。私は今のアイスリーも心から愛してる。理屈じゃないんだ。
何をしても、可愛く見えて仕方ない。これでも、理性で抑えてる方だ。」
・・・心臓がもちそうにないくらい、ドキドキしてる。
そのまま私は彼に顎を優しく持ち上げられて、じっと熱い視線で見つめられた。
体は離れているのに熱が伝わってきて、逃がさない、と言われてるみたい。
「どれほど愛しているか、これからも惜しまずこの想いを注いでいきたい。ただし、この愛を全部伝えるには、一生かかるからな?」
「も、もう、わかりました。
私の疑問はなくなったから・・・。」
顔を真っ赤に染めた私に、彼は悪戯っぽい笑みを浮かべて、顔を近づけてくる。
「お世辞抜きに、兄様たちまでアイスリーを気に入って、私が浮気すればすぐ寝取ると宣言されてる。ファイリアお義姉様だってわからない。」
え!?お義兄様たちまで?
そんな素振りなかったけど、本当に?
「ど、どうして『こんな』・・・あ!」
また、『こんな私』と、言いそうになって口を閉じる。
自信がないから、出てくる言葉。
そして、“そんなことない”と、言わせて安心しようとする。
「ごめんなさい、『こんな』といえば、私を愛してくれるファイまで貶めるね。」
それを聞いたファイ様は、笑顔でキスをしてくれる。
優しくて甘いキスに、今度は私の方が酔ったようにぼーっとなる。
彼はゆっくり唇を離すと、また触れそうな距離で見つめてきた。
もうダメ・・・のぼせてしまう。
目がトロンとなっているのが、自分でもわかる。パッチリと開けないもの。
「知ってた?『こんな』アイスリーがそばにいないと、ファイアストム国の皇太子は、もう一日も生きていけないんだって。」
彼は至近距離で片目を閉じて、はっきりと言った。
あぁ・・・。
こんなに私を愛してくれる人は、きっともう現れない。
「ファイ・・・。」
彼に愛されてよかった。彼を愛してよかった。
そう思えるのは、『信頼』があるから。
聞けば応えてくれる。手を握れば握り返してくれる。見つめれば見つめ返してくれる・・・。
『する』、『返す』こちらも相手に同じことができる。この当たり前の道が繋げられない人もいる世の中で、愛した人と道が繋がる奇跡。
彼とは、この先喧嘩することもあるかもしれない。それでも、決してその道だけは断たれることがないと思う。
理屈ではない強い直感が、今の私にはある。
例え聞きにくいことでも、ちゃんと話し合えば、彼も応えてくれる。
この人となら、やっていける。
「好きよ・・・愛してる、私のファイ。」
考えなくても、口から自然と言葉が溢れる。
ファイ様も嬉しそうに、微笑んでくれた。
「愛してる、私のアイスリー。」
もう一度、背伸びをして彼とキスを交わす。
さっきから何度もしてるのに、すぐに恋しくなってしまうなんて・・・こんなになるなんて。
お互い鎧を着てるから少し遠いけど、腕を伸ばして抱き寄せ合った。
気持ちを確かめ合った後のキスは、とても甘くて、激しくて、情熱的。
声も呼吸も、互いに自分の中に取り込むように、奪い合う。
何度も、何度も。
次の戦いが始まる前に、今だけは・・・。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
読んでくださってありがとうございました。
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※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。
ふと迎賓館の庭での思い出が脳裏に蘇る。あの時の・・・男の子の顔。
6歳の彼と、4歳の私はここで初めて出会った。
彼と喧嘩する大きな男の子たちを追い払ったあと、私は不安そうに俯く彼の方へと振り向いた。
私があげた幸運のキャンディを恐々口に入れる彼は、なかなか笑顔を見せない。
それならと、王妃様のいるところまで、一緒に行こうと手を繋いだあの時。
引っ張っても、下ばかり見てなかなか歩いてくれないので、彼の隣まで戻り、歩調を合わせてゆっくり歩いた記憶が蘇る。
もう目の前に、あの大きな男の子たちはいないのに、彼は何故か怯えていた。
よく見ると、彼の足元は芝生が焼け焦げていて、彼が足を踏み出すたびに、足跡のように芝生が焦げていく。
「私も時々あちこち凍らせちゃうの。
同じだね。」
私は気にせずに、手を繋ぎ直した。
彼は私をチラリと見て、
「熱くない?怖くないの?
兄様たちは、気味が悪いと言って嫌うんだよ?」
と、聞いてくるので、私は首を横にふった。
「平気!冷やすの早いもん。
それに私、あなたのその瞳の色大好きだもの。
一緒に歩いてくれたら、嬉しいなぁ。」
私はそう言って、彼を安心させるために、数を数えて歩くことにした。
「いーち、にー、さーん・・・」
彼が立ち止まれば私も止まる。
また進み出せば一緒に歩く。
カウントもまた1からやり直し。
それを何度も繰り返す。
弟がいたから、怖がってる時は叱って無理に引っ張るより、安心させて一緒に歩いた方がいいことは知っていた。
でもあの時、4歳になったばかりの私は、数を10までしか数えられなくて、彼に助けを求めるように見上げた。
「きゅーう、じゅーう、・・・じゅう、じゅう・・・?んんー?いーち?」
その時彼は、私の手をぎゅっと握り返して、初めて顔を上げた。
『・・・じゅういーち、じゅうーにー、13、14、15・・・!』
彼の声に合わせて、私も一緒に数えて歩く。
次第に彼の足元の芝生は焦げなくなって、彼は嬉しそうに歩く速さが速くなり、最後は二人で笑ったんだ。
「ほらね?大丈夫だよ。
このまま手を繋いで数を数えて歩いたら・・・、」
幼い時の私は、そう言って彼を見上げたのを思い出して、思わず口に出した。
ファイ様も嬉しそうに、私の言葉に合わせながら息を吸い、
「「二人で、どこまでも行けるね。」」
私たちは同時に言った。
そうだ・・・そこが私たちの原点。
あの日、彼を救うために木の棒を振り回して、幸運のキャンディをあげて、王妃様の前で彼にプロポーズしただけじゃないんだ。
忘れていた・・・今の今まで私・・・。
「あなたは、ずっと覚えていたの?」
ファイ様は頷く。
「もちろん。初めて会ったあの日以来、心の奥に焼き付けた。明るい太陽の下を二人で歩いた時、このままずっと手を離したくないと思ったから。
アイスリーは無理ないよ、小さすぎた。」
「ごめんなさい。」
「いいって。アイスリーの『大丈夫』という言葉とあの無垢な笑顔は、その後の私を何度も救い、考え方も変えてくれた。
アイスリーのおかげで、いいことがたくさん起きたんだよ。素敵な初恋だった。」
ファイ様は立ち上がって、私も手を引いて立たせてくれる。
あの時と違って、彼の手はこんなに大きくて逞しくなったんだ。
でも、あの時の私は、彼の中でかなり神格化されている気がして、心配になってくる。
「あ・・・その、あなたは、本当に今の私に幻滅してない?
あの時とは私も変わったし、気を遣ってくれてるだけ・・・とか。」
「全くない。私は今のアイスリーも心から愛してる。理屈じゃないんだ。
何をしても、可愛く見えて仕方ない。これでも、理性で抑えてる方だ。」
・・・心臓がもちそうにないくらい、ドキドキしてる。
そのまま私は彼に顎を優しく持ち上げられて、じっと熱い視線で見つめられた。
体は離れているのに熱が伝わってきて、逃がさない、と言われてるみたい。
「どれほど愛しているか、これからも惜しまずこの想いを注いでいきたい。ただし、この愛を全部伝えるには、一生かかるからな?」
「も、もう、わかりました。
私の疑問はなくなったから・・・。」
顔を真っ赤に染めた私に、彼は悪戯っぽい笑みを浮かべて、顔を近づけてくる。
「お世辞抜きに、兄様たちまでアイスリーを気に入って、私が浮気すればすぐ寝取ると宣言されてる。ファイリアお義姉様だってわからない。」
え!?お義兄様たちまで?
そんな素振りなかったけど、本当に?
「ど、どうして『こんな』・・・あ!」
また、『こんな私』と、言いそうになって口を閉じる。
自信がないから、出てくる言葉。
そして、“そんなことない”と、言わせて安心しようとする。
「ごめんなさい、『こんな』といえば、私を愛してくれるファイまで貶めるね。」
それを聞いたファイ様は、笑顔でキスをしてくれる。
優しくて甘いキスに、今度は私の方が酔ったようにぼーっとなる。
彼はゆっくり唇を離すと、また触れそうな距離で見つめてきた。
もうダメ・・・のぼせてしまう。
目がトロンとなっているのが、自分でもわかる。パッチリと開けないもの。
「知ってた?『こんな』アイスリーがそばにいないと、ファイアストム国の皇太子は、もう一日も生きていけないんだって。」
彼は至近距離で片目を閉じて、はっきりと言った。
あぁ・・・。
こんなに私を愛してくれる人は、きっともう現れない。
「ファイ・・・。」
彼に愛されてよかった。彼を愛してよかった。
そう思えるのは、『信頼』があるから。
聞けば応えてくれる。手を握れば握り返してくれる。見つめれば見つめ返してくれる・・・。
『する』、『返す』こちらも相手に同じことができる。この当たり前の道が繋げられない人もいる世の中で、愛した人と道が繋がる奇跡。
彼とは、この先喧嘩することもあるかもしれない。それでも、決してその道だけは断たれることがないと思う。
理屈ではない強い直感が、今の私にはある。
例え聞きにくいことでも、ちゃんと話し合えば、彼も応えてくれる。
この人となら、やっていける。
「好きよ・・・愛してる、私のファイ。」
考えなくても、口から自然と言葉が溢れる。
ファイ様も嬉しそうに、微笑んでくれた。
「愛してる、私のアイスリー。」
もう一度、背伸びをして彼とキスを交わす。
さっきから何度もしてるのに、すぐに恋しくなってしまうなんて・・・こんなになるなんて。
お互い鎧を着てるから少し遠いけど、腕を伸ばして抱き寄せ合った。
気持ちを確かめ合った後のキスは、とても甘くて、激しくて、情熱的。
声も呼吸も、互いに自分の中に取り込むように、奪い合う。
何度も、何度も。
次の戦いが始まる前に、今だけは・・・。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
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