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後編
水路にて
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ファイ様は、私とアイシスを両腕に抱えてかぶさってきた。
同時に、王太后様の寝台から部屋の四方八方に無数の針が飛んできて、床や壁に突き刺さる。
「ファイ!大丈夫?」
床に倒れた私たちにかぶさったファイに声をかけると、彼はすぐに起き上がる。
彼が動くたびにパラパラと針が落ちていくので、彼の体にどれだけ刺さったのかと心配でたまらない。
「・・・大丈夫、ほとんど防具に刺さってるから。アイスリーたちは大丈夫か?
さぁ、立つんだ。罠の発動を察して奴らがくるぞ。」
ファイは私たちを立たせると、部屋の外に飛び出して、中庭へと降りた。
時を同じくして、ヴィノガン様とその私兵が、王太后様の部屋へとなだれこむ。
「探せ!侍従たちが凍りついている!
やはり、レドリシアではない、アイスローズ妃が帰還しているのだ!」
ファイ様は、私たちを守るように肩を抱いて、中庭を身を低くしながら抜けていく。
「ファイ!ここじゃ、いつか見つかるわ。」
「大丈夫、私しか知らない抜け道がある。」
中庭の側溝の石を動かすと、地下へと続く階段が現れた。
私たちは、息を潜めながらその階段を降りていく。
「ここは・・・。」
水の流れる音が聞こえて、広い場所に出た。
薄暗いその場所は、水路であることがわかる。
「城の水は、この地下水を使っているんだ。
このまま歩けば・・・バーニスお義姉様の宮の裏へ出る。はぁ、はぁ・・・それで・・・。」
ファイ様が、膝から崩れるように倒れそうになり、私は慌てて彼を支える。
ツララと、ダイヤモンドダストも、驚いて飛び出してきた。
ファイ様の体が熱い!!
アイシスも気づいて、彼を一緒に支えてくれた。
私はファイ様を横に寝せてうつ伏せさせると、背中にまだ沢山の針が刺さったままなことに気づく。
必死に残った全ての針を、アイシスと一緒に抜いた。
ツララやダイヤモンドダストも、匂いを嗅いで細かい針を見つけては、口に咥えて抜いてくれる。
針は確かにほとんど防具に刺さってるけど、防具の隙間にも刺さっているので、これに毒が塗ってあるのかもしれない。
「姉上様、この人は?」
アイシスが、怪訝な顔で聞いてくる。
私は、手早くファイ様のサラマンダムの変装を解いて仰向けにしながら、
「あなたも、結婚式で会ってる。
ファイバーン皇太子よ。」
と、答えた。アイシスは驚いて彼を覗き込んだ。
「あ、義兄上?一体どうしたんです?この熱は。何が起こっているのですか?」
「多分毒じゃないかと思ってる。
ファイ!ほら、レマニカルよ。口を開けて!!」
私は、ファイ様の頬を軽く叩いて、声をかけた。
彼は朦朧として、口が開けない。
よく見ると、喉の近くにも針が刺さっていたのですぐに引き抜いた。
私は彼の頭を抱き抱えると、レマニカルを口に含んで、口移しでファイ様に飲ませる。
アイシスだけは、目を白黒させて私と彼を交互に見ながら説明を求めてきた。
私がファイ様の頭を膝に乗せて、かいつまんで説明すると、アイシスはガックリと肩を落とす。
「ボクのところに、ファイアストム国の王太后様の名前で、手紙がきたのです。
義兄上様には他に恋人がいて、姉上様の居場所がないので、慰めにきてくれないか、と。」
なんてことを!
この子はそれを信じたんだ。
「お父様には?」
「言いませんよ!言ったら憤慨して軍隊まで連れてきちゃいますよ。
私は姉上様が恋しいからと言って、無理を押してきたのです。あ、義兄上様をみんなの前で殴ってやろうと思って・・・。」
アイシスは、ポリポリと頭を掻いた。
私はフッと笑って、彼の頭を撫でる。
「ごめんね。でも、それは全部嘘。
私たちはちゃんと結ばれてるわ。」
私は氷の魔法で体を冷やしてあげながら、ファイ様の頭を撫でる。
「そのようですね・・・。」
アイシスが、少し拗ねたように横を向いた。
「・・・う、うう。」
その時、突然ファイ様が苦しそうに呻き始めた。
私は驚いて、膝の上にある彼の顔を覗き込む。
「ファイ!!」
私が声をかけると、ファイ様がうっすらと目を開けた。
「レドリシア・・・?いや、アイスリー?」
私は頷いてコンタクトと変声機を外すと、自分の瞳で彼を見つめた。
「ファイ、大丈夫?」
ファイ様は、まだ夢を見ているように、片手で私に触れてくる。
「アイスリー・・・来てくれたんだな。
俺・・・婚約が白紙になったと聞いた。アイスリーも俺もお互い違う相手との結婚になると言われて、せめて似ているレドリシアと付き合ったけど・・・彼女は去ってしまった・・・。」
レドリシア?・・・あぁ、そうか。
今の彼は、多分レドリシアと付き合っていた頃の彼なのね。
熱で記憶が混乱してるんだ。
「えぇ・・・。」
私は否定せずに合わせる。
「でも、もう心配いらないな・・・アイスリーはここにいる・・・あの日・・・離してしまった手を・・・また繋ぎたい・・・。」
掠れるように静かな声で言われて、胸が締め付けられてくる。
この国に生まれたかった。そうしたら、最初から一緒にいられた。ベロジュやスノウティにあんな目に遭わされることなく、昔の私のまま大きくなれたのに。
でも、そうはならなかった・・・ならなかったけど、だからこそ、彼の大切さが身に染みる。
愛しさを込めてそっと彼の顔に触れると、ファイ様が嬉しそうに、私の手を握る。
「真っ直ぐ俺を見てくれる綺麗な瞳だ・・・。
俺の・・・俺だけの最愛の女神、アイスリー。これからは、ずっと一緒だよな?」
いつもの彼とは違う、どこか縋るような声に私は頷いた。
「そうよ。ファイ、愛してるわ。大丈夫よ、私はあなたの隣でずっと手を繋いでいるから。」
彼の手に指を絡めて、優しく声をかけると、ファイ様は安心したように眠った。
あなたが私を守ってくれたように、私もあなたを守るからね。
まだ少し彼の呼吸が浅いから、薬が効くまで時間がかかるみたい。
それだけ、あの毒針の毒は強力だったんだ。
ホッとして顔を上げると、アイシスが顔を真っ赤にして私を見ている。
「うわー、な、なんだか、熱いですねぇ。
姉上様、女神なんて言われて凄いなあ。
ボクはお邪魔じゃないですか?」
「馬鹿言ってないで、見張りでもしなさい、アイシス。あなただって、来年はバーニスお義姉様と結婚でしょ?」
私に言われて、アイシスの顔が茹で上がる。
「わ、わかってます!
綺麗な人でしたよね。」
よかった。この子も彼女を気に入ってるんだ。
でも、これからどうしよう。
とりあえず、アイシスは取り戻したけど、王太后様がいないと話にならないし。
いつまでも、ここにいるわけには・・・。
その時、水路の奥から人の声と足音が聞こえてきた。
「こんなところがあったとはのう・・・。」
ヴィノガン様の声!!
どうしよう、隠れるところはない!
私はアイシスと、意識の戻らないファイ様を見て覚悟を決めた。
絶対に手出しはさせない!!
「声を出しちゃダメよ!」
私は水路を凍らせて、氷のソリを作り出すと、
アイシスとファイ様を乗せた。
「いい?アイシス。この水路を抜けたらバーニスお義姉様の宮の裏に出るそうよ。
事情を話して保護してもらいなさい!」
「あ、姉上は?姉上様は?」
「ここで食い止める。ファイをお願い。」
私は魔力を込めて、一気にソリを水路の出口へ向かって押し出した。
ソリはものすごいスピードで、水路の出口へと滑っていく。
アイシスとファイ様の姿が、あっという間に見えなくなった。
急いで、彼らの行った後の水路の氷を元に戻す。
どうか無事で・・・!!
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
読んでくださってありがとうございました。
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※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。
同時に、王太后様の寝台から部屋の四方八方に無数の針が飛んできて、床や壁に突き刺さる。
「ファイ!大丈夫?」
床に倒れた私たちにかぶさったファイに声をかけると、彼はすぐに起き上がる。
彼が動くたびにパラパラと針が落ちていくので、彼の体にどれだけ刺さったのかと心配でたまらない。
「・・・大丈夫、ほとんど防具に刺さってるから。アイスリーたちは大丈夫か?
さぁ、立つんだ。罠の発動を察して奴らがくるぞ。」
ファイは私たちを立たせると、部屋の外に飛び出して、中庭へと降りた。
時を同じくして、ヴィノガン様とその私兵が、王太后様の部屋へとなだれこむ。
「探せ!侍従たちが凍りついている!
やはり、レドリシアではない、アイスローズ妃が帰還しているのだ!」
ファイ様は、私たちを守るように肩を抱いて、中庭を身を低くしながら抜けていく。
「ファイ!ここじゃ、いつか見つかるわ。」
「大丈夫、私しか知らない抜け道がある。」
中庭の側溝の石を動かすと、地下へと続く階段が現れた。
私たちは、息を潜めながらその階段を降りていく。
「ここは・・・。」
水の流れる音が聞こえて、広い場所に出た。
薄暗いその場所は、水路であることがわかる。
「城の水は、この地下水を使っているんだ。
このまま歩けば・・・バーニスお義姉様の宮の裏へ出る。はぁ、はぁ・・・それで・・・。」
ファイ様が、膝から崩れるように倒れそうになり、私は慌てて彼を支える。
ツララと、ダイヤモンドダストも、驚いて飛び出してきた。
ファイ様の体が熱い!!
アイシスも気づいて、彼を一緒に支えてくれた。
私はファイ様を横に寝せてうつ伏せさせると、背中にまだ沢山の針が刺さったままなことに気づく。
必死に残った全ての針を、アイシスと一緒に抜いた。
ツララやダイヤモンドダストも、匂いを嗅いで細かい針を見つけては、口に咥えて抜いてくれる。
針は確かにほとんど防具に刺さってるけど、防具の隙間にも刺さっているので、これに毒が塗ってあるのかもしれない。
「姉上様、この人は?」
アイシスが、怪訝な顔で聞いてくる。
私は、手早くファイ様のサラマンダムの変装を解いて仰向けにしながら、
「あなたも、結婚式で会ってる。
ファイバーン皇太子よ。」
と、答えた。アイシスは驚いて彼を覗き込んだ。
「あ、義兄上?一体どうしたんです?この熱は。何が起こっているのですか?」
「多分毒じゃないかと思ってる。
ファイ!ほら、レマニカルよ。口を開けて!!」
私は、ファイ様の頬を軽く叩いて、声をかけた。
彼は朦朧として、口が開けない。
よく見ると、喉の近くにも針が刺さっていたのですぐに引き抜いた。
私は彼の頭を抱き抱えると、レマニカルを口に含んで、口移しでファイ様に飲ませる。
アイシスだけは、目を白黒させて私と彼を交互に見ながら説明を求めてきた。
私がファイ様の頭を膝に乗せて、かいつまんで説明すると、アイシスはガックリと肩を落とす。
「ボクのところに、ファイアストム国の王太后様の名前で、手紙がきたのです。
義兄上様には他に恋人がいて、姉上様の居場所がないので、慰めにきてくれないか、と。」
なんてことを!
この子はそれを信じたんだ。
「お父様には?」
「言いませんよ!言ったら憤慨して軍隊まで連れてきちゃいますよ。
私は姉上様が恋しいからと言って、無理を押してきたのです。あ、義兄上様をみんなの前で殴ってやろうと思って・・・。」
アイシスは、ポリポリと頭を掻いた。
私はフッと笑って、彼の頭を撫でる。
「ごめんね。でも、それは全部嘘。
私たちはちゃんと結ばれてるわ。」
私は氷の魔法で体を冷やしてあげながら、ファイ様の頭を撫でる。
「そのようですね・・・。」
アイシスが、少し拗ねたように横を向いた。
「・・・う、うう。」
その時、突然ファイ様が苦しそうに呻き始めた。
私は驚いて、膝の上にある彼の顔を覗き込む。
「ファイ!!」
私が声をかけると、ファイ様がうっすらと目を開けた。
「レドリシア・・・?いや、アイスリー?」
私は頷いてコンタクトと変声機を外すと、自分の瞳で彼を見つめた。
「ファイ、大丈夫?」
ファイ様は、まだ夢を見ているように、片手で私に触れてくる。
「アイスリー・・・来てくれたんだな。
俺・・・婚約が白紙になったと聞いた。アイスリーも俺もお互い違う相手との結婚になると言われて、せめて似ているレドリシアと付き合ったけど・・・彼女は去ってしまった・・・。」
レドリシア?・・・あぁ、そうか。
今の彼は、多分レドリシアと付き合っていた頃の彼なのね。
熱で記憶が混乱してるんだ。
「えぇ・・・。」
私は否定せずに合わせる。
「でも、もう心配いらないな・・・アイスリーはここにいる・・・あの日・・・離してしまった手を・・・また繋ぎたい・・・。」
掠れるように静かな声で言われて、胸が締め付けられてくる。
この国に生まれたかった。そうしたら、最初から一緒にいられた。ベロジュやスノウティにあんな目に遭わされることなく、昔の私のまま大きくなれたのに。
でも、そうはならなかった・・・ならなかったけど、だからこそ、彼の大切さが身に染みる。
愛しさを込めてそっと彼の顔に触れると、ファイ様が嬉しそうに、私の手を握る。
「真っ直ぐ俺を見てくれる綺麗な瞳だ・・・。
俺の・・・俺だけの最愛の女神、アイスリー。これからは、ずっと一緒だよな?」
いつもの彼とは違う、どこか縋るような声に私は頷いた。
「そうよ。ファイ、愛してるわ。大丈夫よ、私はあなたの隣でずっと手を繋いでいるから。」
彼の手に指を絡めて、優しく声をかけると、ファイ様は安心したように眠った。
あなたが私を守ってくれたように、私もあなたを守るからね。
まだ少し彼の呼吸が浅いから、薬が効くまで時間がかかるみたい。
それだけ、あの毒針の毒は強力だったんだ。
ホッとして顔を上げると、アイシスが顔を真っ赤にして私を見ている。
「うわー、な、なんだか、熱いですねぇ。
姉上様、女神なんて言われて凄いなあ。
ボクはお邪魔じゃないですか?」
「馬鹿言ってないで、見張りでもしなさい、アイシス。あなただって、来年はバーニスお義姉様と結婚でしょ?」
私に言われて、アイシスの顔が茹で上がる。
「わ、わかってます!
綺麗な人でしたよね。」
よかった。この子も彼女を気に入ってるんだ。
でも、これからどうしよう。
とりあえず、アイシスは取り戻したけど、王太后様がいないと話にならないし。
いつまでも、ここにいるわけには・・・。
その時、水路の奥から人の声と足音が聞こえてきた。
「こんなところがあったとはのう・・・。」
ヴィノガン様の声!!
どうしよう、隠れるところはない!
私はアイシスと、意識の戻らないファイ様を見て覚悟を決めた。
絶対に手出しはさせない!!
「声を出しちゃダメよ!」
私は水路を凍らせて、氷のソリを作り出すと、
アイシスとファイ様を乗せた。
「いい?アイシス。この水路を抜けたらバーニスお義姉様の宮の裏に出るそうよ。
事情を話して保護してもらいなさい!」
「あ、姉上は?姉上様は?」
「ここで食い止める。ファイをお願い。」
私は魔力を込めて、一気にソリを水路の出口へ向かって押し出した。
ソリはものすごいスピードで、水路の出口へと滑っていく。
アイシスとファイ様の姿が、あっという間に見えなくなった。
急いで、彼らの行った後の水路の氷を元に戻す。
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※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。
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