誰が為に筆は舞う〜仙人と絵師〜時々猫 〜2

たからかた

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番外編

誰がために筆は舞う 二人旅編 1

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あろうことか、弟子の鶴毘かくびが記憶を無くしてしまった。

我らには混沌こんとんという強敵がいるのだが、それと対決していた時、劣勢に追い込まれ私の命が危なくなり、鶴毘かくびが金色の羽を覚醒させて守ってくれた。

しかし代償は大きかった。
混沌こんとんの封印には成功したものの、鶴毘かくび混沌こんとん魂魄こんぱくをかじられ、記憶を奪い去られてしまった。

自分が誰なのか、ここはどこなのか、そして愛妻紅葉もみじすら覚えてない。

私は今回の戦いの詰めの甘さを思い知らされ、鶴毘かくびの記憶を取り戻す旅に出た。

魂魄こんぱくをかじられたのなら、その魂魄こんぱくを回復させる霊薬を作らねば。
問題は龍族の王族の牙が貰えるか・・・だが。」

龍族は、気性は荒いが話のわからぬ連中ではない。

「確か龍族の女王、羅迦らかは、あなたの恋人だったわよね?」

美蛇めいしぁが冷たい目で睨んでくる。

「あ、ああ、その・・・。」

あまり美蛇めいしぁとはしたくない話題だが、霊薬作りは彼女の右に出る者がいない。

たしかに羅迦らかは恋人の一人だった。
純情で、美しくて・・・、

「早い話しが手玉にとったのね?」

美蛇めいしぁに、かかるとお手上げだ。

「とにかく、なんとか手に入れてきて。
紅葉もみじがこの髪をちゃんと持ってきたわ。」

そこには、紅葉もみじの長い髪の毛が一房置いてあった。

霊薬を作るのに必要だからだが、見ていると胸が痛む。

紅葉もみじは、必死に鶴毘かくびとの時間を取り戻そうとしているが、当の鶴毘かくび紅葉もみじを受け入れないそうだ。

あそこまで盲愛していた紅葉もみじを忘れるだけでなく、拒絶させるとは、混沌こんとんも酷な真似をする。

「にゃおー。」
そこへ分神ムゥがきた。

「参りましょう。
急がねば、紅葉もみじがかわいそうだ。」

私は分神ムゥを連れて、龍族の女王に会いに行くことになった。

なぜ分神がついてくるかと言うと・・・。

「どのツラ下げて来たのか、大天君だいてんぐん。」
羅迦らかから手荒い歓迎を受けた。

私は今、彼女がかき混ぜる巨大な鍋の上に逆さまに吊るされている。

「ええっと、頼みがあってきた。
話し合おう。」

熱くて、苦しい。

「お前は私に何と言った?
お前ほど私を悩ませる女はいない。
苦しくてたまらぬこの渇きはお前でしか癒せない。
だから、今宵は何もかも捧げてくれと。」

羅迦らかは当時の私の言葉を淡々と語る。

あー、確かに言った。
というか、他の女にも言ってた。

「ところがお前は美蛇めいしぁと結婚した。
何もかも捧げた私をさっさと捨てて!
どれほど苦しんだかわかるか!?」

ほんっとにすまん!

私の懐にひそむ分神ムゥが、呆れたように半目になっている。

「もう、悔しくてたまらぬ。
お前の血肉を食ってやることにした。
大人しく私の腹に入れ。
今度こそどこにも行けなくしてやるわ。」

鍋の中に向かって、縛られた縄が伸びていく。

「ま、まて。
私はまだお前の腹には入れぬ。
弟子のために、お前の牙が必要なのだ。」

私はとにかく頼み込む。

「私の牙?
誰かの魂魄こんぱくでもやられたのか?」

「弟子の鶴毘かくび混沌こんとん魂魄こんぱくをかじられた。
その影響で、記憶を失ったままだ。
頼む、羅迦らか
好きなだけ殴るとか、他の方法で恨みを晴らしてくれ。」

私の必死の説得に、羅迦らかが目を細める。

鶴毘かくびと言うと、あの絵師の女を娶ったという鶴から転身した仙人よな。
かなり美しい男だと聞いている。」

「ああ、そうだ。
私の可愛い弟子に免じてその牙を・・・。」

「お前の弟子になったのが運のツキだ。
諦めろ。」

そういうと、縄がさらに伸びていく。グツグツ煮える鍋が、髭に触ると一瞬で溶けた。

「だーっ!
待て!
待つのだ!
私が悪かった!
償いをしよう!」

私が叫ぶと、羅迦らかは面白そうにつついてくる。

「何をするのじゃ?」

「な、何をして欲しい?」

美蛇めいしぁと別れて私と結婚するか・・・。
私の代わりに神龍の宝玉を取ってくるのじゃ。」

神龍の宝玉・・・。
やはりそうきたか。

羅迦らかは龍族の中でも力が弱く、私と関係を持ってからさらに弱くなったと聞いた。

地位を不動のものとするには、神龍の加護が必要なのだ。

「宝玉を取ってくる。
牙を抜いていてくれ。」

私が言うと、長い爪でついと私の首筋を引っ掻き、血を数滴鍋の中に落とす。

「いいだろう。」

羅迦らかは意味深に笑った。

分神ムゥと、神龍の巣へと急ぐ。

「にゃうー。」

「わかっております。
若気の至りで、ひどいことをしました。」

分神ムゥにも道々叱られる。

「にゃおにゃー。」

「え?ああ、どうしても叶わぬ時は私が紅葉もみじの面倒を見ましょう。
可愛い紅葉もみじなら私も大事に・・・。」

「フー!!」

「・・・すみません。」

神龍の巣は真海しんかいの底にある。
龍族が支配する海のちょうど真ん中に、数刻だけ現れるという真海しんかい

そこに素早く潜り、宝玉を奪わねばならない。

「時間が全てですな。
モタモタしていると、戻れなくなります。」

私がいうと、分神ムゥは目を光らせて頷く。
分神ムゥが帯びる神の気は、真海に入るときにどうしても必要になる。

これがないと潜ることさえ叶わぬ不思議の海なのだ。

そう言っている間に、真海しんかいが現れる。
「いざ、参る!」

一人と一匹で飛び込む。





















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