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番外編
誰がために筆は舞う 二人旅編 1
しおりを挟むあろうことか、弟子の鶴毘が記憶を無くしてしまった。
我らには混沌という強敵がいるのだが、それと対決していた時、劣勢に追い込まれ私の命が危なくなり、鶴毘が金色の羽を覚醒させて守ってくれた。
しかし代償は大きかった。
混沌の封印には成功したものの、鶴毘は混沌に魂魄をかじられ、記憶を奪い去られてしまった。
自分が誰なのか、ここはどこなのか、そして愛妻紅葉すら覚えてない。
私は今回の戦いの詰めの甘さを思い知らされ、鶴毘の記憶を取り戻す旅に出た。
「魂魄をかじられたのなら、その魂魄を回復させる霊薬を作らねば。
問題は龍族の王族の牙が貰えるか・・・だが。」
龍族は、気性は荒いが話のわからぬ連中ではない。
「確か龍族の女王、羅迦は、あなたの恋人だったわよね?」
美蛇が冷たい目で睨んでくる。
「あ、ああ、その・・・。」
あまり美蛇とはしたくない話題だが、霊薬作りは彼女の右に出る者がいない。
たしかに羅迦は恋人の一人だった。
純情で、美しくて・・・、
「早い話しが手玉にとったのね?」
美蛇に、かかるとお手上げだ。
「とにかく、なんとか手に入れてきて。
紅葉がこの髪をちゃんと持ってきたわ。」
そこには、紅葉の長い髪の毛が一房置いてあった。
霊薬を作るのに必要だからだが、見ていると胸が痛む。
紅葉は、必死に鶴毘との時間を取り戻そうとしているが、当の鶴毘が紅葉を受け入れないそうだ。
あそこまで盲愛していた紅葉を忘れるだけでなく、拒絶させるとは、混沌も酷な真似をする。
「にゃおー。」
そこへ分神ムゥがきた。
「参りましょう。
急がねば、紅葉がかわいそうだ。」
私は分神ムゥを連れて、龍族の女王に会いに行くことになった。
なぜ分神がついてくるかと言うと・・・。
「どのツラ下げて来たのか、大天君。」
羅迦から手荒い歓迎を受けた。
私は今、彼女がかき混ぜる巨大な鍋の上に逆さまに吊るされている。
「ええっと、頼みがあってきた。
話し合おう。」
熱くて、苦しい。
「お前は私に何と言った?
お前ほど私を悩ませる女はいない。
苦しくてたまらぬこの渇きはお前でしか癒せない。
だから、今宵は何もかも捧げてくれと。」
羅迦は当時の私の言葉を淡々と語る。
あー、確かに言った。
というか、他の女にも言ってた。
「ところがお前は美蛇と結婚した。
何もかも捧げた私をさっさと捨てて!
どれほど苦しんだかわかるか!?」
ほんっとにすまん!
私の懐にひそむ分神ムゥが、呆れたように半目になっている。
「もう、悔しくてたまらぬ。
お前の血肉を食ってやることにした。
大人しく私の腹に入れ。
今度こそどこにも行けなくしてやるわ。」
鍋の中に向かって、縛られた縄が伸びていく。
「ま、まて。
私はまだお前の腹には入れぬ。
弟子のために、お前の牙が必要なのだ。」
私はとにかく頼み込む。
「私の牙?
誰かの魂魄でもやられたのか?」
「弟子の鶴毘が混沌に魂魄をかじられた。
その影響で、記憶を失ったままだ。
頼む、羅迦。
好きなだけ殴るとか、他の方法で恨みを晴らしてくれ。」
私の必死の説得に、羅迦が目を細める。
「鶴毘と言うと、あの絵師の女を娶ったという鶴から転身した仙人よな。
かなり美しい男だと聞いている。」
「ああ、そうだ。
私の可愛い弟子に免じてその牙を・・・。」
「お前の弟子になったのが運のツキだ。
諦めろ。」
そういうと、縄がさらに伸びていく。グツグツ煮える鍋が、髭に触ると一瞬で溶けた。
「だーっ!
待て!
待つのだ!
私が悪かった!
償いをしよう!」
私が叫ぶと、羅迦は面白そうにつついてくる。
「何をするのじゃ?」
「な、何をして欲しい?」
「美蛇と別れて私と結婚するか・・・。
私の代わりに神龍の宝玉を取ってくるのじゃ。」
神龍の宝玉・・・。
やはりそうきたか。
羅迦は龍族の中でも力が弱く、私と関係を持ってからさらに弱くなったと聞いた。
地位を不動のものとするには、神龍の加護が必要なのだ。
「宝玉を取ってくる。
牙を抜いていてくれ。」
私が言うと、長い爪でついと私の首筋を引っ掻き、血を数滴鍋の中に落とす。
「いいだろう。」
羅迦は意味深に笑った。
分神ムゥと、神龍の巣へと急ぐ。
「にゃうー。」
「わかっております。
若気の至りで、ひどいことをしました。」
分神ムゥにも道々叱られる。
「にゃおにゃー。」
「え?ああ、どうしても叶わぬ時は私が紅葉の面倒を見ましょう。
可愛い紅葉なら私も大事に・・・。」
「フー!!」
「・・・すみません。」
神龍の巣は真海の底にある。
龍族が支配する海のちょうど真ん中に、数刻だけ現れるという真海。
そこに素早く潜り、宝玉を奪わねばならない。
「時間が全てですな。
モタモタしていると、戻れなくなります。」
私がいうと、分神ムゥは目を光らせて頷く。
分神ムゥが帯びる神の気は、真海に入るときにどうしても必要になる。
これがないと潜ることさえ叶わぬ不思議の海なのだ。
そう言っている間に、真海が現れる。
「いざ、参る!」
一人と一匹で飛び込む。
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