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(10) 2078年夏、北海道

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ミロが脱走した、という話はすぐにホーム中に伝わった。トオルは、
「すぐに確保しろ」
とだけ言ったが、普段まったく表情を表さないその顔は怒りに青ざめていた。

アキラがミロを見つけたとき、ミロは、夕暮れの網走海岸をだらだらと歩いていた。北海道の、短すぎる夏が終わろうとしていた。まるでミロはアキラが来るのがわかっていたかのように、彼を見た。
ミロが立ち止まる。アキラは、ゆっくりとミロに近づいて言った。
「戻ろう」
と、アキラが言った。ミロは泣いていた。鼻水と涙をぬぐいながらアキラを見た。アキラの胸が締め付けられる。アキラは、ミロがトオルと寝ているのを知っていたから、尋ねた。
「トオルと寝たくないの?」
「…わからない」
「何がそんなにつらい?」
「忍に会いたい。忍のところに戻りたい」
ミロはそう言いながらも、涙がさらにあふれだす。アキラは、いつも無表情なミロしか見たことがなかったから、感情をあらわにして泣き続けるミロに戸惑っていた。
「忍に会いたい。忍に会いたい」
ミロは何度も何度も言い続けて、泣き続ける。
アキラは、思わずミロを抱きしめた。
「脱走は重罪だよ。でも、ミロはトオルのお気に入りだから……」
アキラがそう言いかけたが、ミロはさらに激しく泣きながら大声で続ける。
「忍に会いたい。忍のところに行きたい、忍でなきゃダメなの」
アキラは、泣き続けるミロの背中をさすり続けた。
その夜、アキラは初めてミロと寝た。アキラはそうせずにはいられなかったし、ミロはそのとき誰かに抱かれる必要があった。アキラの下に組み敷かれてミロは何度か絶頂に達したが、そのたびに「忍、忍」と言い続けた。
脱走は重罪だ。トオルの折檻がどのぐらい辛いかは、アキラには想像もつかない。ミロがトオルと寝ているのは公然の秘密だったし、ミロがトオルの一番のお気に入りなのは誰の目から見ても明らかだった。だから、アキラは深く考えないようにした。
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