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伊集院司令官篇 (4)
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常夏の南方戦線とは異なり、東京は、すっかり日が短くなり冷たい風が吹きつけている。ほとんど日が暮れかけた中、忍はようやく自宅にたどり着いた。怒りのためにアドレナリンが噴き出しており寒さを感じない。忍には自分の感情以外の何を感じることもできなくなっていた。
キーロックを自分で解除してメインゲートから敷地にジープを乗り入れる。
玄関のドアを開けると、パタパタという足音が聞こえてくる。
「忍様、おかえりなさいませ」
いつも通り満面の笑顔を浮かべる瀬川に迎えられたが、忍は適当な愛想を言う余裕もなかった。
「ミロはどこだ」
「ミロ様でしたら、少し前にお帰りになって…」
「ミロはどこにいる?」
瀬川には何の非もないのはわかっているが、押し込めた感情が噴き出てくるのを抑えることができなくなっていた。
瀬川は、いつもと様子の違う忍に驚いた様子で言った。
「……ミロ様は、お部屋でお休みになっていると思います」
忍は、一言も発することなく大股でミロの部屋に向かった。ノックもしないでそのままドアを開けた。
ミロは、シャワーを浴びたばかりで、髪の毛はまだ濡れており素肌にガウンを着ていた。ソファの傍のサイドテーブルには、ウィスキーの瓶と氷の入ったグラスがある。忍を見るとすぐに、大輪の花が咲いたような笑顔が広がった。
「忍。今、帰ったの?」
忍は、無表情のままつかつかとミロのところへ歩み寄り、ミロの二の腕をつかみ、静かな声で尋ねた。
「なぜ、叔父貴と寝た?」
ミロは、二の腕を強くつかまれ、かなりの痛みを感じた。
「え…?」
「叔父貴と寝たのはなぜだ? 俺の身内と寝るのだけはやめろと言ってあるはずだ」
と忍は繰り返した。つかまれた腕がひどく痛み、忍の無表情な顔を見て、ミロはこれまでにないほど激しい忍の怒りを理解した。だから、嘘をついたり誤魔化したりするのは無理だとすぐに察知した。
「…支援部隊を出さない、と言われた」
と正直に答えた。
「どういうことだ?」
「サイパン戦線で、四谷第7、第8中隊は沖縄からの支援部隊を待っていたでしょう。そして、四特を含む四谷のその他の部隊と南方第6師団は沖縄で四谷中隊に対する支援命令を待っていた。……出撃の前の晩、司令官は、自分と寝なければその命令を出さないと言った」
今度は、忍が言葉を失う番だった。
「沖縄からの支援がなければ、四谷部隊であっても壊滅的な損害を受けていたでしょう。あなたが死んでいたかもしれない。だから伊集院司令官と寝た」
「…」
「伊集院司令官の命令が無くては、出撃することはできない。四特だけならば、わたしの命令で動く。しかし、命令違反を冒して出撃したとしても、あの時点での敵機全数に太刀打ちするのは無理だと判断した。司令官は、サイパンを失っても……、むしろそうなれば、インドネシアの支援を受けられると考えていた。インドネシアが動けばフィリピンは中立を保てず、米軍に…現実的には日防軍に頼るしかない。わたしも…今でもその読みは正確だと考える。」
忍の目をまっすぐに見て説明するミロの顔は、軍人のそれだった。
キーロックを自分で解除してメインゲートから敷地にジープを乗り入れる。
玄関のドアを開けると、パタパタという足音が聞こえてくる。
「忍様、おかえりなさいませ」
いつも通り満面の笑顔を浮かべる瀬川に迎えられたが、忍は適当な愛想を言う余裕もなかった。
「ミロはどこだ」
「ミロ様でしたら、少し前にお帰りになって…」
「ミロはどこにいる?」
瀬川には何の非もないのはわかっているが、押し込めた感情が噴き出てくるのを抑えることができなくなっていた。
瀬川は、いつもと様子の違う忍に驚いた様子で言った。
「……ミロ様は、お部屋でお休みになっていると思います」
忍は、一言も発することなく大股でミロの部屋に向かった。ノックもしないでそのままドアを開けた。
ミロは、シャワーを浴びたばかりで、髪の毛はまだ濡れており素肌にガウンを着ていた。ソファの傍のサイドテーブルには、ウィスキーの瓶と氷の入ったグラスがある。忍を見るとすぐに、大輪の花が咲いたような笑顔が広がった。
「忍。今、帰ったの?」
忍は、無表情のままつかつかとミロのところへ歩み寄り、ミロの二の腕をつかみ、静かな声で尋ねた。
「なぜ、叔父貴と寝た?」
ミロは、二の腕を強くつかまれ、かなりの痛みを感じた。
「え…?」
「叔父貴と寝たのはなぜだ? 俺の身内と寝るのだけはやめろと言ってあるはずだ」
と忍は繰り返した。つかまれた腕がひどく痛み、忍の無表情な顔を見て、ミロはこれまでにないほど激しい忍の怒りを理解した。だから、嘘をついたり誤魔化したりするのは無理だとすぐに察知した。
「…支援部隊を出さない、と言われた」
と正直に答えた。
「どういうことだ?」
「サイパン戦線で、四谷第7、第8中隊は沖縄からの支援部隊を待っていたでしょう。そして、四特を含む四谷のその他の部隊と南方第6師団は沖縄で四谷中隊に対する支援命令を待っていた。……出撃の前の晩、司令官は、自分と寝なければその命令を出さないと言った」
今度は、忍が言葉を失う番だった。
「沖縄からの支援がなければ、四谷部隊であっても壊滅的な損害を受けていたでしょう。あなたが死んでいたかもしれない。だから伊集院司令官と寝た」
「…」
「伊集院司令官の命令が無くては、出撃することはできない。四特だけならば、わたしの命令で動く。しかし、命令違反を冒して出撃したとしても、あの時点での敵機全数に太刀打ちするのは無理だと判断した。司令官は、サイパンを失っても……、むしろそうなれば、インドネシアの支援を受けられると考えていた。インドネシアが動けばフィリピンは中立を保てず、米軍に…現実的には日防軍に頼るしかない。わたしも…今でもその読みは正確だと考える。」
忍の目をまっすぐに見て説明するミロの顔は、軍人のそれだった。
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