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親愛なる坂本葵様 (3)
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葵も知っているとおり、私と忍さんは、ずっと小さい頃からいとこ同士として付き合ってきました。実際の血縁関係はないけれど、私の母と、徹男おじさまの戸籍上の妻である雅子さんは姉妹です。うちの坂本と、坂本の本家であるあなたのおうちは、家族ぐるみのお付き合いをしていたわね。あなたのお母様のジョディさんがどういう気持ちだったのか、私には想像することもできないけれど。あなたのおうちと私のおうちと、お互いに行き来して遊んでいた。海に行ったり家族でバケーションに出かけたり。あなたのところの松濤のお屋敷は、とても広いから私たちが遊ぶには楽しい場所だった。私が小学校の4年生か5年生ぐらいの頃…そのぐらいから、私は忍さんのことばかり考えるようになっていました。彼に心惹かれるようになっていたのです。忍さんは、私にとても優しかったし、私にとっては一緒に過ごすことがとても自然なことだった。私より3歳年上で、忍さんはその頃、中学生でしたけれど、とても大人びて見えました。黒い学生服の詰襟がすごくよく似合っていて、私の同級生にも、忍さんに憧れている女の子がたくさんいました。忍さんが、中学校を2年で修了して士官学校へ入学しても、忍さんの私への態度は変わりませんでした。相変わらずとても優しくて、何よりも私の気持ちを第一に考えてくれた。女の子のためにドアを開けてくれる男性なんて、忍さん以外にはいませんでした。家族で食事に行けば、忍さんはいつも私の隣に座って、料理を取り分けてくれたり、ウェイターに注文したりしてくれた。私の話を黙って聞いてくれた。
覚えているかしら? あなたのご家族とバケーションを過ごすために、忍さんとあなたが一緒に、学期の最終日に私の中学校まで迎えに来てくれたことがあるでしょう? あのとき、忍さんを目撃した同級生たちは、ほとんど全員が忍さんに心を奪われてしまったようなものでした。夏休み中も、その後も、忍さんの話題で持ち切りだったの。今だから言いますけれど、何人かの女子は、忍さんに告白していました。私には、とてもそんな勇気はなかったし、親戚の一人として付き合いを続けていくほうを選んだのです。
私が、第一志望の高校に合格したとき、忍さんがお祝いをしてくれると言って、買物に誘ってくれました。私が、どれほど有頂天になったかは容易に想像できるでしょう。デートのようなものです。何週間も前から、何を着ていくのかどんなことを話せばいいのか、悶々として悩んで、当日の前の夜は一睡もできないぐらい興奮していました。
忍さんは、当時からすごくもてましたし、いろいろな女性と噂になっていることも知っていました。その頃、忍さんは、忍さんの中学時代の同級生のお姉さんとお付き合いしていたと思います。確か大学生で、忍さんより3歳か4歳、年上の人。忍さんはその頃、もう既にかなり背が高かったし、体格も雰囲気も十分に大人でした。忍さんとその女性が一緒に歩いているところを目撃した人によれば、何の不自然さもなく、羨ましいほど仲の良い美しいカップルだったそうです。
だから、少しでも大人っぽく、少しでも忍さんに気に入ってもらえるようにと、今思えば、本当に笑い出したくなるほどの背伸びをして、精一杯のおしゃれをして努力をして「デート」に出かけたのです。忍さんは、お父様のメルセデスを運転して迎えにきてくれました。喜びに一杯になりながらも、彼が本当に私の恋人だったらどんなに良かっただろうと、胸が潰れるような痛みを同時に味わっていました。
忍さんとの「デート」は夢のようでした。彼は、まず衣類やバッグを買ってくれました。うちの両親が当時買ってくれていたものと比較すると、かなり高価なものだったと思います。本当は、指輪が欲しかったのだけれど、恥ずかしくてお願いすることもできませんでした。買物をするほかにも私をいろいろなところへ連れて行ってくれました。美術館、公園、コーヒーショップ…午後も遅くなった頃、私たち家族がよく一緒に出掛けていた海岸までドライブして、食事をとりました。私は喜びと緊張でボーっとしてしまい、何を食べても味がわからない始末です。忍さんは、運転があるからとビールを1本飲んで、私にはクリームソーダを注文しました。覚えていますか、私は子どもの頃からクリームソーダ、それも普通の緑色のではなくてピンク色のが好きだったのです。忍さんはちゃんとそれを記憶していて、わざわざピンク色のを作らせました。忍さんは、今もそうですが、そのころからたいへんな健啖家ですね。ボウル一杯のサラダや、ジャガイモの料理、肉の揚げ物など随分いろいろなものを注文して、どんどん平らげていきました。しかもとてもきれいに。私は、胸がいっぱいで、ほとんど喉を通りません。最後は、私の注文した分まで、忍さんが食べてしまいました。「健啖家の男性は、ベッドでもとても積極的なのよ」と、早熟なお友達の間ではひそかに囁かれていましたから、「こんな風に食事をする人は、ベッドではどんなふうなのだろう」と思わず考えてしまい、一人で顔を赤くする始末です。
覚えているかしら? あなたのご家族とバケーションを過ごすために、忍さんとあなたが一緒に、学期の最終日に私の中学校まで迎えに来てくれたことがあるでしょう? あのとき、忍さんを目撃した同級生たちは、ほとんど全員が忍さんに心を奪われてしまったようなものでした。夏休み中も、その後も、忍さんの話題で持ち切りだったの。今だから言いますけれど、何人かの女子は、忍さんに告白していました。私には、とてもそんな勇気はなかったし、親戚の一人として付き合いを続けていくほうを選んだのです。
私が、第一志望の高校に合格したとき、忍さんがお祝いをしてくれると言って、買物に誘ってくれました。私が、どれほど有頂天になったかは容易に想像できるでしょう。デートのようなものです。何週間も前から、何を着ていくのかどんなことを話せばいいのか、悶々として悩んで、当日の前の夜は一睡もできないぐらい興奮していました。
忍さんは、当時からすごくもてましたし、いろいろな女性と噂になっていることも知っていました。その頃、忍さんは、忍さんの中学時代の同級生のお姉さんとお付き合いしていたと思います。確か大学生で、忍さんより3歳か4歳、年上の人。忍さんはその頃、もう既にかなり背が高かったし、体格も雰囲気も十分に大人でした。忍さんとその女性が一緒に歩いているところを目撃した人によれば、何の不自然さもなく、羨ましいほど仲の良い美しいカップルだったそうです。
だから、少しでも大人っぽく、少しでも忍さんに気に入ってもらえるようにと、今思えば、本当に笑い出したくなるほどの背伸びをして、精一杯のおしゃれをして努力をして「デート」に出かけたのです。忍さんは、お父様のメルセデスを運転して迎えにきてくれました。喜びに一杯になりながらも、彼が本当に私の恋人だったらどんなに良かっただろうと、胸が潰れるような痛みを同時に味わっていました。
忍さんとの「デート」は夢のようでした。彼は、まず衣類やバッグを買ってくれました。うちの両親が当時買ってくれていたものと比較すると、かなり高価なものだったと思います。本当は、指輪が欲しかったのだけれど、恥ずかしくてお願いすることもできませんでした。買物をするほかにも私をいろいろなところへ連れて行ってくれました。美術館、公園、コーヒーショップ…午後も遅くなった頃、私たち家族がよく一緒に出掛けていた海岸までドライブして、食事をとりました。私は喜びと緊張でボーっとしてしまい、何を食べても味がわからない始末です。忍さんは、運転があるからとビールを1本飲んで、私にはクリームソーダを注文しました。覚えていますか、私は子どもの頃からクリームソーダ、それも普通の緑色のではなくてピンク色のが好きだったのです。忍さんはちゃんとそれを記憶していて、わざわざピンク色のを作らせました。忍さんは、今もそうですが、そのころからたいへんな健啖家ですね。ボウル一杯のサラダや、ジャガイモの料理、肉の揚げ物など随分いろいろなものを注文して、どんどん平らげていきました。しかもとてもきれいに。私は、胸がいっぱいで、ほとんど喉を通りません。最後は、私の注文した分まで、忍さんが食べてしまいました。「健啖家の男性は、ベッドでもとても積極的なのよ」と、早熟なお友達の間ではひそかに囁かれていましたから、「こんな風に食事をする人は、ベッドではどんなふうなのだろう」と思わず考えてしまい、一人で顔を赤くする始末です。
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