[R-18]あの部屋

まお

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13.過去の記憶

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翌日、柏木が怖くて朔はボロボロの身体を引きずってでも学校へ行こうと決めていた。

また家に来られてあんなことをされてはたまらない。そしてもし今日来られてしまえば、母親が休みで家にいる。

一瞬、もし柏木が家に来たとしても親が居ればあんな凶行に及ばないだろうと安心したが、あの異常者であればお構い無しに行動を起こすだろうと考え直した。
それならまだ学校という人目のある場所の方が安全だと判断した。柏木は表向きは優等生。さすがに不特定多数の学校内の人間に自分の裏の顔を曝け出すのは柏木にとっても本意では無いはずだと朔は考えた。だから学校に絶対に行く。


しかし、それは叶わなかった。


朝起きると酷い仕打ちを受けたことが原因か、朔は高熱で身体が動かなく本格的に病欠せざる得ない状況に陥っていた。
身体が鉛のように重く動けない。おまけに食欲もなく、全身は体調不良と昨日の陵辱が掛け合わさって痛みは昨日より酷かった。
散々な状況に朔は泣きたくなった。


昨日の汚れたシーツや破られた服等は後でバレないように片付けようと思いクローゼットにしまったままになっている。
母親は夜勤後朝家に帰ってきて起きてこない朔を起こしに部屋へ上がって来て驚愕した。


柏木に打たれて腫れる頬や首筋に付く鬱血痕。さらに高熱で弱っている朔を目の前に本気で救急車を呼ぼうとしたのを何とか止めた。
顔の怪我は喧嘩と言いなんとか納得してもらえたが、首筋の鬱血痕にはさすがに怪訝そうな表情を向けられた。よく見ればキスマークだとわかる。

朔は最初どうにか誤魔化す方法を考えていたが途中から、喧嘩の傷とキスマークを見れば女絡みで揉めたと偽装出来そうだと思った。事実とは大幅に異なるが朔にとってはそっちの方が都合が良かったので、息子の恋愛に首を突っ込むなと話の流れをそっちの方へ持っていき母親に追求してこないように牽制した。

母親は渋々引き下がり薬と簡単な軽食を残し部屋を後にした。朔はひとまず病院への搬送を免れて内心ほっとした。顔以外の傷や痕を見られてしまえば、さすがに「喧嘩」で言い逃れは出来ない。正直に男に犯されヤられました、なんて言えるわけ無い。そしてそんなことがもし母親にバレてしまえば、またあの時みたいに焦燥しきった母親を見ることになってしまう─


先生との事が親にばれた、その瞬間ときの記憶。

朔はその前後の記憶は所々しか覚えていなく、殆どが抜け落ちていて、そして思い出したくない一心から忘れていることも多かったが、あの日のあの瞬間ときの記憶だけは覚えていた。





「何してるんですかッ!!」


そう怒声が部屋に響きわたり、朔と、拓人は凍りついたように動けなくなった。


その日も家庭教師の日でいつも通り勉強を少し早く切り上げ、拓人は朔を部屋で抱いた。それが2人の暗黙の了解となっていた。

朔は声を押し殺しいつも通り、まだ幼さの残る小さい身体で拓人を受け入れていた。


「……ッ…ア………ぅっ…」

「はじめ…。もう少し声抑えて…」


困ったように笑う拓先生の笑顔。
優しく撫でられる頬と頭。
でも止めるつもりは全くなく行為は続けられた。
朔は必死に言われた通り声を押し殺す。

その狭い密室での出来事は絶対に他の人に知られてはいけない。知られてしまえば、みんなを、自分自身を傷つける。そして今自分はみんなを裏切っている。朔はそこに重苦しい罪悪感を抱いていた。
だから言われた通り、自分が我慢をして事を丸く収める為にも朔は血が滲みそうな程唇を噛み締め必死に声を押し殺す。


それでもバレた。

どのタイミングだったか、何故急に母親が部屋に入って来たのか、その辺の記憶は曖昧だった。

それでも全てが暴かれた。それだけが現実だった。

母親は見たことない剣幕で拓先生に詰め寄り、思いっきり頬に平手打ちを入れた。朔は母親が誰かに暴力を奮う姿は後にも先にもこの1回しか見た事が無かった。母親に毛布を被せられ抱き寄せられる。母親が取り乱したように泣きながら朔を抱きしめて何か叫んでいた。その様子を目の当たりにしてから、糸が切れたように朔も震えと涙が止まらなくなった。

そこから、暫くするとサイレンの音が家の近くに響いた。拓先生がパトカーに乗り込む後ろ姿を朔はぼんやり見つめていた。


そこから何度も色んな大人の人と話をした……気がする。この後の記憶は本当にぼんやりしか朔の中には残っていなかった。そしてそこから何日か、何ヶ月か忘れてしまったが警察や病院の先生等色んな人と話すことが何度もあった。その人達と話をした後に家に帰ると、毎回母親がやつれた泣きそうな力のない笑顔で朔を出迎えてくれていた。今普通に働いてて明るくて優しい母親とその時の母親の雰囲気はまるで違うようだった気がする。

そして朔は、一度夜中に母親が1人で泣いている姿を見た事があった。それは、もう事件から半年以上経っていた。何で泣いているのか、その時の朔はもう荒れ始めの頃だったので追求する事も無く興味無さそうに無視をした。





昔の事を思い返すとやはり気分が悪くなった。あの時の母親は多分相当精神的に辛かったのだろうと想像できた。

朔はその事を思い出し、今回の柏木との事は絶対に隠し通さなければいけないと思った。ましてや、家庭教師の弟なんて知られてしまえばまた、母さんをあの時のように精神的に追い詰めてしまうことになる。


朔は考えた。
高校進学は自分の為というより母親への恩返しという思いが強かった。だけど、柏木がいる高校に通い続ける自信がない。かといって辞めてしまえば表には出さないだろうが、また母親を悲しませる。でも柏木には会いたくない……


朔はベッドの中で1人葛藤していた。
そして、これからの事と、今日どうやって柏木から逃れようか。朔はベッドの中で熱に魘されながら頭を抱えた。

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