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24.クローゼット
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柏木の自宅の住所を告げられたタクシーは15分ほどで目的地へ到着した。
そこはこの地域では目立つ豪勢な住宅だった。
柏木は玄関前に車を停めさせ未だ眠り続ける朔を抱え家へと入る。そのまま柏木は自室へと向かい、部屋のベッドの上に朔を下ろした。
家には人の気配は無い。
柏木の両親は共に医者だ。父と母はそれぞれ開業医と勤務医として勤めている。そのせいで家族が揃うことはほとんど無い。
ベッドに寝かせると、朔は眉間に皺を寄せ寝返りを打つ。
「起きるかな?起きる前にやっちゃうか…」
独り言を呟くと、柏木は部屋の棚とクローゼットの中からガムテープと手錠をそれぞれ持ってくる。そのまま寝かされている朔の口にガムテープを何重にも貼り付けた。着ていた制服も剥ぎ取り下着姿の朔を後ろ手に手錠をかけガムテープでさらに固定する。両足も同じくガムテープをグルグルと巻き付け固定した。朔は意識の無いまま、身体中をガムテープで拘束されていく。
そして動けない朔を部屋のクローゼットの中へと運んだ。
「明日からの土日は、俺の家で沢山愛し合おうね…。それじゃあ学校戻るから大人しく待ってるんだよ」
眠る朔の頬にキスをして柏木はクローゼットの扉を締め、クローゼットには珍しい鍵をかけて部屋を出た。
「…ん……」
意識がゆっくり覚醒する。
朔は重い瞼を持ち上げる。しかし、眼前には何も映らない。正確には、真っ暗で何も見えなかった。
何だこれ…と呟こうとした口が何かに覆われていると気づいた時には、自分の置かれた状況が異様な状況だということに薄々気づいた。
手も足も動かず、口の自由も奪われていた。
「ン゛ーー」
声を出そうとすると唸り声が漏れる。その感覚でこれが夢ではなく自分は意識があるんだということが明確になる。
(…ここは何処だ…)
朔は不安になる気持ちを落ち着かせるように、ここに来る前の記憶を思い返そうとする。
(確か……学校……)
そう、学校にいた。学校に行って哲史と話していた。ホームルーム前だった。それから……そうだ。柏木に話しかけられて…………
思い出した。屋上で──
嫌悪感に鳥肌が立つ。
朔は慣れてきて見えるようになってきた目で辺りを見渡す。どこか狭い空間だった。何故か服は着ていなかったが寒くは無い。そして、頭上に衣服がぶら下がっている。
(クローゼット…?でも何で…。どこの……)
そう疑問符が浮かぶとほぼ同時にサッと寒気がした。
(もしかして……)
ここは、柏木の家だ。
朔は直感で気づいた。そしてそれに強い確信を持っていた。クローゼットの服から香る柔軟剤の匂いが、嫌でも朔の記憶をくすぐった。
甘さの中にムスクの香りが混じったようなこの柔軟剤…
記憶はないのにやはり嗅覚の情報は脳にこびりついている。同じ匂いだった。拓先生と。
朔を支配したのは恐怖だった。
「んンっー!っん゛んーー」
動かない足を大きく揺する。ドアにドンと当たるが、そこは固く閉ざされていて開きそうになかった。
朔が暴れ始めても、クローゼットの外の気配に変化はなかった。
(柏木は、居ないんだ…。逃げなきゃ…)
朔はできる限り身体を揺すり、捻り何とか拘束を解こうと試みる。
(早く…早く!逃げないと…あいつが……)
焦れば焦るほど恐怖心は増長する。
思い通りにならない身体や状況に朔は泣きそうになる。必死に身体を動かしていると足が今度はダンボールにぶつかる。そのダンボールが大きくズレたことでその上に積んであった荷物がドサドサと朔の足元に落ちてきた。
物が辺りに散乱して足が動かしにくくなる。朔は少し慣れてきた視覚を凝らしてその物体に視線を向ける。
そこには暗くて見えなくても分かるような、如何わしい形状をした所謂大人の玩具と呼ばれる器具や、大きなハサミ、縄や首輪などが散乱していた。
朔は目を疑う。
そして程なくしてこれらの使用用途を想像してしまい、さらに身体が恐怖で震えた。
(嫌だ!…助けて……誰かっ)
朔は唸りながらずっと身体を動かし拘束を解くことに集中する。
するといきなり目の前に光が射し込んだ。いきなりの光に目が開けていられなくてぎゅっとつぶる。
「野坂ただいま。あーあ、ぐちゃぐちゃにされちゃったなー」
視覚よりも先に聴覚に、受け入れたくない現実が入り込んでくる。朔は拘束された身体を丸め、現実逃避のようにあえて目を瞑ったままいた。
近くで柏木の気配がする。朔の足元の荷物を箱にしまっているようで、1つずつ足元に触れていた物体が取り払われていく。
「これだけ暴れられるなら元気有り余ってるね。今日は俺の家でこれらも使って死ぬ程セックスするよ」
その言葉が朔にとっては大袈裟に聞こえなかった。本当に死ぬかもしれない。そう思うと閉じたままの目に熱いものが込み上げてくる。
柏木は朔の口を塞いでいたガムテープを剥がしていく。
「──助けてくれ!!誰かーッ!!」
朔は自由になった口で開口一番助けを求め叫ぶ。勿論目の前の柏木に対してでは無い。家の中、はたまた近所の住民に、誰かに聞こえるように人生で一番と言っていい程の大声で叫んだ。
「あはは、元気そうで良かったよ」
柏木は動じることなく朔の頭を撫でる。
「やめろ!触るなッ!解けよ!!」
「野坂ー、もうそういうの聞き飽きたよ。もう分かってるだろ?俺が野坂の願いをそのまま叶えるような人間じゃないってこと」
「ッ…」
「覚えが悪いのは嫌いなんだよ。今日から1泊2日で躾なおしてあげるからね」
「……は?……1泊って……」
朔は思わず聞き返す。柏木の言葉を受け入れられなかった。
「泊まりがけで野坂を躾けるセックス合宿だよ」
柏木がいつもの優しげな笑顔で信じられないような言葉を朔に告げた。
そこはこの地域では目立つ豪勢な住宅だった。
柏木は玄関前に車を停めさせ未だ眠り続ける朔を抱え家へと入る。そのまま柏木は自室へと向かい、部屋のベッドの上に朔を下ろした。
家には人の気配は無い。
柏木の両親は共に医者だ。父と母はそれぞれ開業医と勤務医として勤めている。そのせいで家族が揃うことはほとんど無い。
ベッドに寝かせると、朔は眉間に皺を寄せ寝返りを打つ。
「起きるかな?起きる前にやっちゃうか…」
独り言を呟くと、柏木は部屋の棚とクローゼットの中からガムテープと手錠をそれぞれ持ってくる。そのまま寝かされている朔の口にガムテープを何重にも貼り付けた。着ていた制服も剥ぎ取り下着姿の朔を後ろ手に手錠をかけガムテープでさらに固定する。両足も同じくガムテープをグルグルと巻き付け固定した。朔は意識の無いまま、身体中をガムテープで拘束されていく。
そして動けない朔を部屋のクローゼットの中へと運んだ。
「明日からの土日は、俺の家で沢山愛し合おうね…。それじゃあ学校戻るから大人しく待ってるんだよ」
眠る朔の頬にキスをして柏木はクローゼットの扉を締め、クローゼットには珍しい鍵をかけて部屋を出た。
「…ん……」
意識がゆっくり覚醒する。
朔は重い瞼を持ち上げる。しかし、眼前には何も映らない。正確には、真っ暗で何も見えなかった。
何だこれ…と呟こうとした口が何かに覆われていると気づいた時には、自分の置かれた状況が異様な状況だということに薄々気づいた。
手も足も動かず、口の自由も奪われていた。
「ン゛ーー」
声を出そうとすると唸り声が漏れる。その感覚でこれが夢ではなく自分は意識があるんだということが明確になる。
(…ここは何処だ…)
朔は不安になる気持ちを落ち着かせるように、ここに来る前の記憶を思い返そうとする。
(確か……学校……)
そう、学校にいた。学校に行って哲史と話していた。ホームルーム前だった。それから……そうだ。柏木に話しかけられて…………
思い出した。屋上で──
嫌悪感に鳥肌が立つ。
朔は慣れてきて見えるようになってきた目で辺りを見渡す。どこか狭い空間だった。何故か服は着ていなかったが寒くは無い。そして、頭上に衣服がぶら下がっている。
(クローゼット…?でも何で…。どこの……)
そう疑問符が浮かぶとほぼ同時にサッと寒気がした。
(もしかして……)
ここは、柏木の家だ。
朔は直感で気づいた。そしてそれに強い確信を持っていた。クローゼットの服から香る柔軟剤の匂いが、嫌でも朔の記憶をくすぐった。
甘さの中にムスクの香りが混じったようなこの柔軟剤…
記憶はないのにやはり嗅覚の情報は脳にこびりついている。同じ匂いだった。拓先生と。
朔を支配したのは恐怖だった。
「んンっー!っん゛んーー」
動かない足を大きく揺する。ドアにドンと当たるが、そこは固く閉ざされていて開きそうになかった。
朔が暴れ始めても、クローゼットの外の気配に変化はなかった。
(柏木は、居ないんだ…。逃げなきゃ…)
朔はできる限り身体を揺すり、捻り何とか拘束を解こうと試みる。
(早く…早く!逃げないと…あいつが……)
焦れば焦るほど恐怖心は増長する。
思い通りにならない身体や状況に朔は泣きそうになる。必死に身体を動かしていると足が今度はダンボールにぶつかる。そのダンボールが大きくズレたことでその上に積んであった荷物がドサドサと朔の足元に落ちてきた。
物が辺りに散乱して足が動かしにくくなる。朔は少し慣れてきた視覚を凝らしてその物体に視線を向ける。
そこには暗くて見えなくても分かるような、如何わしい形状をした所謂大人の玩具と呼ばれる器具や、大きなハサミ、縄や首輪などが散乱していた。
朔は目を疑う。
そして程なくしてこれらの使用用途を想像してしまい、さらに身体が恐怖で震えた。
(嫌だ!…助けて……誰かっ)
朔は唸りながらずっと身体を動かし拘束を解くことに集中する。
するといきなり目の前に光が射し込んだ。いきなりの光に目が開けていられなくてぎゅっとつぶる。
「野坂ただいま。あーあ、ぐちゃぐちゃにされちゃったなー」
視覚よりも先に聴覚に、受け入れたくない現実が入り込んでくる。朔は拘束された身体を丸め、現実逃避のようにあえて目を瞑ったままいた。
近くで柏木の気配がする。朔の足元の荷物を箱にしまっているようで、1つずつ足元に触れていた物体が取り払われていく。
「これだけ暴れられるなら元気有り余ってるね。今日は俺の家でこれらも使って死ぬ程セックスするよ」
その言葉が朔にとっては大袈裟に聞こえなかった。本当に死ぬかもしれない。そう思うと閉じたままの目に熱いものが込み上げてくる。
柏木は朔の口を塞いでいたガムテープを剥がしていく。
「──助けてくれ!!誰かーッ!!」
朔は自由になった口で開口一番助けを求め叫ぶ。勿論目の前の柏木に対してでは無い。家の中、はたまた近所の住民に、誰かに聞こえるように人生で一番と言っていい程の大声で叫んだ。
「あはは、元気そうで良かったよ」
柏木は動じることなく朔の頭を撫でる。
「やめろ!触るなッ!解けよ!!」
「野坂ー、もうそういうの聞き飽きたよ。もう分かってるだろ?俺が野坂の願いをそのまま叶えるような人間じゃないってこと」
「ッ…」
「覚えが悪いのは嫌いなんだよ。今日から1泊2日で躾なおしてあげるからね」
「……は?……1泊って……」
朔は思わず聞き返す。柏木の言葉を受け入れられなかった。
「泊まりがけで野坂を躾けるセックス合宿だよ」
柏木がいつもの優しげな笑顔で信じられないような言葉を朔に告げた。
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