高嶺の花も恋をしたい!

吉岡ミホ

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柏原邸の下見へ①

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 それからすぐのこと、私たち柏原邸プロジェクトチームは大阪府郊外の柏原邸現地へ下見に向かった。

 高速を下りてすぐのところにそのお屋敷はあった。
 住宅街の少し開けたところに突如として現れたのは、大正時代に建てられた三階建てレンガ造りの洋館だ。

 隣には昭和初期の近代和風建築が建っており、その奥には茶室のある回遊式日本庭園が広がっている。

「素晴らしいですね、このレトロな外観……。それにお庭がまたすごい」

 回遊式日本庭園の池には、今もたくさんの錦鯉が気持ちよさそうに泳いでいた。

 ここを見ただけでも、このお屋敷が生きていると感じることができる。

「今回リノベーション予定なのはこの庭園を含む和風建築の方だ」

 田村部長が庭園を見ながら目を細めた。

「日本庭園もですか? どこも変える必要はなさそうですが」

 これだけ手入れが行き届いているのに?

「ご当主はご高齢とはいえまだまだお元気だが、ここはバリアフリーとは言い難い。先々のことを考えると、せめてご当主が毎朝鯉に餌をあげられるルートくらいは確保しなければならない」

 なるほど、それは住む人のために大切なリノベーションだ。

 それから私たちは、間もなく一般公開予定だという本邸の方を見学させていただいた。

 案内してくださったのは、ご当主の柏原源蔵氏ご本人で、ご高齢とは聞いていたけれど口調はしっかりとされていて、見た目の厳格さとは異なりとてもフランクな話し方をされる方だった。

 本邸は1階から3階まで和洋折衷の部屋があり、それぞれに素敵なインテリアが施されていて、どのお部屋を見ても私はキュンキュンし通し。
 ご当主の屋敷への愛情がお話の節々から窺えて、彼の誇りが伝わってきた。

 そして本邸見学の次は昭和初期に建てられた離れの方へ。

 ここは平屋の和風建築で、縁側からは飛び石を渡って日本庭園へ出られるようになっていた。

「飛び石……」
「な? 改装が必要じゃろう? 昔はこの飛び石でケンケンして遊んだもんじゃが、こんな爺さんにはきつくてな」
「遊び心があってとても素敵ですが……そうですね。たしかに危ないです」

 田村部長の言っていた通りだった。これはバリアフリーとはほど遠い。

「先のことを考えると、車いすでも庭に出ることができて、環境になじむような手すりも必要だな」

 副社長がぶつぶつと改善点を挙げながら縁側から庭を何度も往復していた。

 その後、ご当主は少し疲れが出たのかお付きの方とタワーマンションの方へ帰っていかれた。
 私は今後の資料のため、写真と動画をたくさん撮らせていただいた。

 今回同行したのは副社長と田村部長、そしてオペレーターが二人と私だ。

 こういう歴史的建築物を前にすると、やはり経験がものを言うのか、私たちは引率の先生に連れてきてもらった生徒のように、田村部長の改善案を聞きながら後をついて回った。

「花緒ちゃん楽しそうだな」 
「楽しいです! 引率の田村先生に連れてきてもらった生徒みたいで、お仕事なのに申し訳ないですけど」
「ハハ、田村先生! 違いない。俺も田村先生に教わることがいっぱいあったよ」
「おいおい……勝手に先生にするなって。まあ年齢的にこの中じゃそうなるか」
「やっぱり田村部長の知識、半端ないっすね!」

 CADオペレーターで、男性の中では一番若い20代の島本さんが、田村部長に尊敬の目を向ける。私も島本さんの気持ちがよくわかった。

「よし、今日は直帰だし、この後みんなで食べて帰るか?」
「お、いいっすね! 決起会ですか。行きます!」

 田村部長の提案に島本さんが真っ先に手を挙げた。

「あ、すみません……私は子供たちが待っているので……」

 同じくCADオペレーターで30代前半の佐藤さんが申し訳なさそうに手を挙げる。

「無理することはないですから。佐藤さん、今日はお疲れさまでした。貸会議室もセッティングできたことだし、次は弁当を取ってランチ会でもしましょう」
「副社長……ありがとうございます!」

 なんと卒のない対応だ。上司の神対応にひたすら感心する。

 直帰する予定だったのだが、副社長と部長の車を置くため一度社まで戻り、会社近くの居酒屋へ行くことになった。

 そこは田村部長の行きつけのお店らしく、豪快な大将がお酒も料理もたくさんふるまってくれて、私たちはいい具合に酔っぱらいに。

 でも、今日一日で皆さんとかなりお近づきになれた気がした。

 その後、田村部長はもう一軒行きつけのお店に寄っていくと言って、夜の街へ消えていった。
 
「二人ともタクシーで送るよ」
「いえ、僕はこのまま彼女の家へいくので電車で帰ります」
「そっか。じゃあまた木曜日に」
「はい、お疲れさまでした」

 島本さんが帰ってしまい、副社長と私が残ってしまった。私は電車で帰ろうとしたのだけれど、ふらふらしている女の子を送らないというのは礼儀に反すると押し切られ、仕方なくタクシーで送ってもらうことになった。

 現在、会社には実家の住所で届を出している私。こんなことなら私も友達の家に寄ると言って、島本さんと一緒に電車に乗ればよかったと後悔した。
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