高嶺の花も恋をしたい!

吉岡ミホ

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副社長秘書になりました①

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 3月も半ばになり、私は新年度を待たずに秘書課へ異動した。

 4月1日に就任される副社長をお迎えするため、一足先に秘書業務に慣れておく必要があるからだ。

 役員フロアは夏成ハウスコーポレーション本社ビルの8階にある。そこには社長、副社長、常務取締役それぞれの部屋が並んであり、給湯室を挟んで秘書課の事務室があった。

 事務室には各役員秘書をまとめる秘書課長を筆頭に、役付きでない秘書2名の机がある。
 
「総務部受付から来ました、高嶺花緒です。よろしくお願いします!」
「秘書課長の末永です」

 秘書課長の末永さんは、眼鏡をかけ、撫でつけた七三分けがいかにも真面目そうな五十代前半の男性だった。
 
「あなたのデスクは副社長室の前室にあります。今日の午前中にはシステム情報部から専用PCが届くはずですから、届いたらこの仲野から業務内容を教えてもらってください」
「仲野です。突然副社長秘書に抜擢されるなんて大変だと思うけど、頑張ってね。私と氏家もサポートするから」
「氏家です」
「高嶺です。よろしくお願いします!」

 仲野さんは四十代前半とみられる落ち着いた感じの女性だ。左の薬指に指輪をされているから、既婚者でおそらく子供もいるのだろう。
 氏家さんは30代前半の若い男性だ。小柄で誠実そうな、ほわっとした笑顔の持ち主。
 どちらもとても感じが良さそうな方なのでホッとした。

「まったく……顔がいいだけの受付嬢を副社長秘書に抜擢するなんて、翔多坊ちゃんも何を考えているのか……」

 末永課長がぶつぶつと文句を言いながら眼鏡のブリッジを上げた。
 前半はいかにも言われそうな内容だったけれど、翔多坊ちゃんって……?

「課長、失礼ですよ! それに坊ちゃんって言うと怒られますよ。もう副社長なんですから」
「わかってますよ! ですが夏崎副社長だと社長とかぶってしまうでしょう」
「たしかに。では副社長だけでよろしいのでは?」
「あの……」
「なんですか、高嶺さん」
「新しい副社長はナツサキショウタさんとおっしゃるのでしょうか……?」
「おや? 人事課長から聞いてなかったのですか?」

 聞いてない。あの時点では多くは言えないって言ってたし、そもそも全てはオフレコだと釘を刺されていた。

 夏成ハウスコーポレーションの『夏』は創始者である『夏崎』から取った会社名だ。夏成の社員であればだれでも知っていることだった。

 そして、現社長の名前も夏崎社長。
 つまり――

「新副社長は夏崎社長のご長男、夏崎翔多氏です。御年37歳。本社から東京支社へ転勤されて10年経ち、この度副社長として本社へ戻られることになりました」
「そ、そうでしたか」
「副社長は東京で数々の実績を上げられた、名の通った設計士でもあります。正直、社会人二年目の、それも受付出身のあなたのような人に副社長秘書が務まるとは思えないのですがねぇ……」

 それは秘書課長に言われなくとも私自身が一番心配していることだ。

 でもこの嫌味な口調から私を良く思っていないことが伝わってきて、この先が思いやられる。
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