高嶺の花も恋をしたい!

吉岡ミホ

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副社長秘書になりました③

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「その様子だと、全く覚えていないみたいだな」
「え? す、すみません。以前どこかでお会いしたのでしょうか? 私はつい先日まで本社の受付にいたのですが、その時に……?」
「いや、もっと前だよ。こうしたらわかるかな?」

 そう言って、副社長が眼鏡をはずした。そして前髪をくいっと上に上げる。

「……あっ! え、設計士さん⁉」
「思い出した? あの時はまだ眼鏡をかけてなくて、新入社員だからスッキリ見えるように前髪を上げていたからね」

 そうだ。言われてその姿を思い出した。彼は高嶺の実家を建てた時の担当設計士だった。

「俺が初めて一人で設計を担当したのが高嶺邸だったんだ。だから今でもよく高嶺家のことは覚えているよ。花緒ちゃんは当時も美少女だなぁと思っていたけど、さらに美しさに磨きがかかったね。もう立派な大人だし」
「私はあの時小学6年生でしたから。あれから11年経ってますし、もうすっかり大人ですよ」

 名前までは覚えていなかったけれど、私が設計士になりたいと思ったきっかけがこの人だった。

 サラサラと目の前で図面を書き、私たち家族の要望をくみ取って間取りを変更していく様子は、まるで魔法のようだったのを今でも覚えている。

 まさかあの時の設計士さんが副社長になって目の前に現れるとは思ってもみなかった。しかも私がこの人の秘書だなんて――

「あの……副社長が私を秘書に抜擢してくださったと聞きました。それは昔のことがあったからなんですか?」
「いや、それは後で気づいたんだ。名前とエントリーシートの自宅住所を見て。君のことはあいつから……って、あれ? 聞いてないのか?」
「……? なにがですか?」
「あ、いや……そう、秘書というより助手を探しているってことを」
「それは人事課長から伺っています。でも私、一級建築士の一次試験は合格しましたが、実技の方は……。それに実務経験が全くないのに、本当によろしいのでしょうか?」

 私が一番気にしていることだ。真っ先に副社長本人に確認しておきたかったことを、この機会にぶつけてみる。

「……聞いたよ。君が最初の人事で不当な扱いを受けたこと、夏成の役員として申し訳なかったと思っている」

 副社長が頭を下げた。

「ちょっ……やめてください! 副社長おひとりのせいではありません。それに私は院卒でもないし、一級の二次試験も落ちてしまったので、実力を考えたら不当とも言えないんです」
「でも君と同じ学歴の者は皆、設計か施工の職務についているよ。資格ももちろん君と同じように取得前だ。それでも不当じゃないとは言えないだろう?」
「……」
「花緒ちゃん、これからは副社長秘書という肩書ではあるけど、実務経験も積んでもらうから」
「――! 本当に?」
「ああ、君に来てもらったのは、これから始まるプロジェクトのためなんだ」
「新プロジェクト、ですか?」
「詳しいことは入社式が終わってから話すよ。とりあえず、今日は社長に話があって来ただけなんだ。まだ東京での引き継ぎがあるからね。でもせっかく来たのだからついでに花緒ちゃんの顔も見ておこうと思って」

 そう言ってにっこりと笑う副社長がとても眩しく思えた。
 久しぶりに再会した憧れの設計士さんの新プロジェクトに、私が携われるかもしれない――!
 副社長秘書という慣れない肩書きへの不安を大きく上回る期待に、私は胸の高鳴りを抑えることができなかった。

 この期待感を高野にも聞いてほしかったのだけれど、和歌山のプロジェクトが本格的に始動した今、高野は大阪と和歌山を往復する日々が続いていた。

 先週からついに和歌山支社の方に行ったきりになっており、ウイークリーマンションを借りて長期滞在が確定している。

 もちろん夜になると電話をくれたりメッセージを送ってくれたりするけれど、出来れば直接会って話を聞いてほしいと思っていた。

 私の原点である副社長に再び会えたことを――。


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