塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける

吉岡ミホ

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京香さん現る

京香さん現る③

「京香さん……」

「やっぱり叶恋ちゃんだ! 
 偶然ね。……今、お仕事中?」

「え、いえ……その、院内を回っているところです」

 仕事中だけれど、脱線していた。
 これはちょっと……気まずい。

「叶恋、また連絡するよ。俺は病棟に戻る」

「あ、うん! じゃあまた……」

 莉久くんは気を遣ってくれたのか、職員用エレベーターの方へ歩いて行った。

「……今の先生は?」

「脳外を回っている初期研修医の先生です。幼馴染で、ここで偶然出会ったんです」

「そう……」

「京香さんは、今日は……?」

「学生時代の友人のお見舞いに来たの。昨日出産してね」

「わぁ、おめでとうございます! 新生児、可愛いでしょうね」

「ふふふ、私も赤ちゃんに会うのが楽しみで飛んできちゃった」

 京香さんは今日もピンクベージュのふんわりしたスカートに襟の高い白のノースリーブブラウスを着て、くすんだピンクのカーディガンを肩にかけていた。

 ブラウスのあらたまった感じを、いい感じに打ち消す、ピンクの配色が完璧なコーディネートだ。

 お子さんのいるママというよりは、上流階級のお嬢様といった感じ。

 眼科の先生だと聞いているけれど、一見ではドクターに見えなかった。 

 それもそうか。お見舞いに来ているということは、今はプライベートなんだろうから。

「この前ホテルで叶恋ちゃんに会った日は、主人とその話題で持ち切りだったのよ」

「え、な、なんでですか……」

「だって、永真が初めて女の人を連れてきたんですもの! 
 あの日、本当はお義父さんも会いたがっていたのよ。でも自分まで出ていくと、きっと永真の彼女が恐縮して逃げ出してしまうかもしれないから、また改めてにするって言ってらしたの」

「そう、だったんですか……ハハハ……」

 確かにその通りだ。ご両親が揃っていたら……と思うとゾッとする。
 偽装恋人なのに、さらに嘘をつく相手が増えてしまうことになるから。
 喜んでくださっていたお母様のことを考えると、今でも心が痛むのよね。

「……永真のこと、よろしくね。
ちょっとぶっきらぼうで口の悪いところもあるし、女の子にはとことん塩対応だから優しくないと感じるかもしれないけど、そんなことないの。
本当は困っている人を放っておけない思いやりのある人で、面倒見もいいし、頼りになるし、誰よりも優しい人なの。
私、そっけない態度が叶恋ちゃんに誤解されないか心配で――」

「わかっていますよ」

「え……」

「口は悪いし、塩対応の汐宮先生なんて言われているけど、とっても思いやりのある優しい人だって」

「あ、そう……そうよね。叶恋ちゃんはお付き合いしているんだものね……」

「はい」

 汐宮先生を褒めているのになぜかもやもやした。
 京香さんが彼のことをよく知っているのは当たり前のことなのに、京香さんの口から聞きたくなかったのだ。

 やっぱり二人の間には何かがある。
 同級生、義姉弟以上の何かが。

 今の京香さんの言葉はそれを裏付けるに十分なものだった。
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