塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける

吉岡ミホ

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京香さん現る

京香さん現る④

「私は……自分の家庭環境が恋愛に適していないことを理解しています」

「え?」

「お母様から聞かれていませんか?」

「……」
 
 私は京香さんの目をまっすぐに見つめながら言った。
 同居しているのだ。
 私の家庭事情を聞いているかもしれないと思ったけれど、どうやらお母様は話していなかったようだ。
 では、あえて話す必要もないだろう。

「……でも汐宮先生は、何の問題もないように接してくださるので、私はそんなところを人としてとても尊敬していますし、……好きなんだと思います」

 言ってしまった……!

 口に出したことは全部事実だけど、最後のは言うべきじゃなかったかもしれない。
 私たちは偽恋人関係なのに、これは頼まれた以上のことをしてしまったかも。

 でも、あなたは知らないだろうけど、と含みを持たせた京香さんの言い方がどうしても嫌だったのだ。
 少なくとも、今現在付き合っている彼女に言う言葉じゃないと思うから。

「叶恋」

「……! 汐宮先生……」

「永真……」

 今日も濃紺のスクラブ姿にシールドグラスをかけた汐宮先生が、私の肩に手を置いた。

 どこから現れたのだろう。
 ひょっとして、今の聞かれていたんじゃ……!
 どうしよう、余計なことをするなって言われたら……。

 相変わらずシールドグラスが反射して表情が見えにくい。
 でも、一瞬口角が上がったような気がしたから、多分気分を害しては……ない?

「ここにいたのか。今医局に寄ったら、院内回りに出ていると言われた」

「あ、はい。何か……?」

「今朝、忘れ物を見つけたんだ。ピアス……」

「あ! やっぱり先生のところに落としてたんですね」

 あの食事会の日、家に帰ると右耳からお気に入りのピアスが消えていた。いつの間にか落としてしまったことに、ショックを受けていたのだ。

「ほら、寝室に落ちてた。ベッドの足もとで死角になっていて気づかなかったようだ」

「良かったー。ずっと探していたんです。これお気に入りだったから」

 寝室で着替えさせてもらった時に落としたのだろう。

「永真!」

 あ、そうだ。京香さんとお話し中だったんだ。

「私の存在は無視ってわけ?」

「……特に話すこともないだろう?」

「なにそれ……」

「俺は身内にはいつもこんな感じだ。兄嫁だからと言って気を遣うつもりはない」

「……」

 ムッとしている京香さん。
 これが塩対応……! 
 この状況はあまりにもいたたまれない。
 間にいる私にどうしろと……。

「きょ、京香さんは、お見舞いに来られたそうです。
お友達が出産されたそうで」

「……そうなの。佐野美鈴、覚えてる? 
昨日初めての子が生まれたの」

「佐野……ああ、先山の嫁さんか。
そうか、それはめでたいな」

「そうだ! あなたも今時間があったら一緒に産科病棟へ行く? 
私が病室に着いたら先山君も顔を出すって言ってたの。
解剖のメンバーが集まるのは久しぶりでしょう?」

「いや、俺はいい」

「でも、あんなに仲が良かったじゃない。
少しだけでも――」

「行くとしても、俺は別で顔を出すよ」

「永真……」

 汐宮先生のきっぱりと言い切る口調に、京香さんが傷ついた顔をする。
 良かれと思ってお友達の話を出したのは、逆効果だったようだ。

「悪いが時間切れだ。俺は病棟に戻る。
……叶恋、川崎がメッセージを送ったと言っていたが」

「え? あ、本当だ」

 スマホを見ると、7分前に受信していた。
 病棟にいる森下先生から書類を預かってきてほしいと。

「行くぞ」

「あ、はい! 京香さん、病棟に行かなくてはいけないのでこれで失礼します」

「……ええ。じゃあまた……」

 悲し気な京香さんを残して去るのは少し心が引けたが、莉久くんのこともあり、思いがけず時間を取ってしまっていた。

 私は汐宮先生の後ろを追うように、職員用エレベーターへと向かった。


 ◇ ◇ ◇
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