塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける

吉岡ミホ

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永真の過去

永真の過去⑧

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「な、なに……っ」

「…………礼だ」

「へ?」

「……晩メシを作ってくれた礼だ」

「れ、礼って、どうしてキスが」

「不満か? なら日を改めてカラダで」

「カラダっ!? い、いいですっ。キスで充分です!」

「フッ……そうか、充分か」

「ああっ! しまった……」

「ハハハ……ご馳走様」

 してやったりと笑う汐宮先生はいたずらっ子のようだった。
 
「もう行かないと……」

「ハッ……は、はいっ! 
じゃあ後片付けして戸締りしたら私も出ますね。
か、鍵は明日お返しします」

 お、落ち着け、私! 何が起こった!?
 
「いや、持っててくれていい」

「え」

「じゃあ行ってくる。……気をつけて帰るんだぞ」

 親指で私の頬をスっと撫で、汐宮先生はあっという間に出ていってしまった。

 キスをしたり、カードキーを渡されたり、突然の展開に頭が追いつかない。

 あの日から、少しでも接触したのは今日が初めてだった。
触れるだけのキスなんて、あの時のキスとは比べものにならないのに、どうしてこんなにドキドキするの。

 本当は2人っきりになるといつもあの時のことを思い出してしまう。
 今は同じ医局にいるんだもの。絶対に顔に出さないようにしているけど。

 うぅ……心臓がいくつあっても足りないじゃない! 

 ニヤッと笑った、からかうような汐宮先生の笑顔を思い出す。
 そこにはいつもと違う甘さが含まれていた気がする。

 どうしよう、私……。
 偽装恋人なのに、汐宮先生のことどんどん気になり始めている。
 お礼でキスなんてするの? 
 お、大人過ぎない!? 
 いや、既にもう大人の関係にはなってるんだけど。

 でもあの時はお互いを全く知らなかった。
 今日みたいに、過去を共有して、手料理を振舞ったりなんかした後だと、状況も気持ちも全く違うのよ!

 早くこの部屋を出ないと、余計なことをいっぱい考えてしまいそうだ。

 私は大慌てで後片付けをし、多めに作った肉じゃがを冷蔵庫にしまった。
 残ったご飯は冷凍庫へ。
 とにかく早くこの部屋を出なきゃ!

 
 それにしても、やっぱりお医者さんって大変なんだな。本当にこうやって突然呼び出されるんだ。

 菜々ちゃんの話ではもっと楽な科もあると言っていた。それに比べて、脳外科のお医者さんは緊急で呼び出される確率が高いそうだ。

 でもプライベートを犠牲にしても手術をしてくれるお医者さんのおかげで、多くの人が助かってるんだ。
 こうやって実際に呼び出しを受けているところを目の当たりにすると、頭が下がる思いだ。

 手術、うまくいくといいな。

 私にはどんな患者さんかわからないけれど、願わくば父のように社会復帰して、生きてほしいと思った。


 
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