塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける

吉岡ミホ

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莉久と会う

莉久と会う④

「まあいいけど。
あんな面倒な兄嫁がいるならやめといたら?」

「面倒な兄嫁……」

「その点、俺なら面倒事はない」

「はい?」

「俺、一人っ子だし」

「待って待って、何の話?」

「子役してた頃、俺が叶恋のこと好きだったの、気づいてた?」

「ええっ?」

 そんなの気づくわけないでしょう!
 確かに、莉久くんがいつも事務所で話をするのは、私だけだった。
 それは同年代の中で私たちだけがいわゆる『売れっ子』だったからだ。
 あの頃は、周りから距離を置かれるのは仕方ないと思っていた。

 私も気安く喋れるのは莉久くんだけだったけれど、そこに甘い感情はなかった。
 どちらかと言うと、同志というか戦友というか、莉久くんが頑張っているのを見ると私も頑張らなきゃって思える唯一の仲間だったのだ。

「ごめん、全く……」

「だよなー。あの頃の俺、チビだったし。
昔も今も、全く意識されていないのがひしひしと伝わるよ」

 莉久くんが芝居がかって泣いている振りをする。
 どう考えても本気じゃなさそうに見えるけど、莉久くんの真意が見えない。

「まあ……昔好きだったのは本当。
それに、今ここで叶恋から本気の告白をされても、受け入れられるくらいには本気 」

「莉久くん……」

 これは、告白されているのだろうか?

「あれ、妙な雰囲気になったかな。
まあいいや、俺のことは気にしないで。
それより汐宮先生の話な」

「う、うん……」

「叶恋はどう思っているんだ?」

「私? 私は……」

 改めて聞かれると困る。
 初めは一夜限りの関係のはずだった。
 でも医局で再会して、偽装関係を強要されて、気づけば家族ぐるみの関係になっていて……。

 それにこの前のあのキス。
 全く嫌じゃないどころか、ドキドキした。

 今はもう、私の生活の一部に汐宮先生がいる。
 心の中にも、汐宮先生は汐宮先生だけの割り当てられた場所がある。
 それは――。

「好きなのか?」

「………………うん」

「なんだ。あっさり認めるんだな」

「自覚……したところだから」

「そっか……うん……」

 ハァーっと大きなため息を吐いた莉久くんが私の頭をポンポンとした。

「なら仕方がない。応援してやろう」

「プッ……なにそれ」

「正直気持ちは、負けない自信はある。
俺には今までの想いってやつがあるから。
でもそれは叶恋の望むことじゃない。
下手して、叶恋の幼馴染で一番の理解者って立場までなくしたくはないからな」

「莉久くん……」

 あまりにも引き際が良すぎて、やっぱり数あるかけひきの一つなのかと一瞬思ったが、たった今莉久くんが言ってくれた言葉は純粋に嬉しかった。

 それはプライドを守るための言葉ではなく、本当に私を想って言ってくれた言葉だと感じたからだ。

 だから私は、言葉通りに受け取るべきなのだ、きっと……。
  
「フッ……気にするな。
それよりあの人、病棟では塩対応で有名だけど、医師としての評価はめちゃくちゃ高い。
まあその塩対応だって、女性がちな職場で武装しているだけの事だし、真剣に付き合う分には申し分ないんじゃないかと思うよ」

「……うん」

 俺の話はおしまいとばかりに、莉久くんは優しい言葉をくれる。
 
「付き合ったら独占欲強そうだけど、大切にしてもらえるんじゃないか?」

「…………うん、そう、だね……」

「なんだ? 何か心配なのか? あの兄嫁?」

「ううん、違う。なんでもないよ……」

 京香さんのことが問題なんじゃない。
 問題は私の方にある。

 ずっと私の心に巣食っているのは、あの時の理沙の言葉だ。

 私は恋愛してもいいのだろうか。
 好きな人を、我が家に巻き込んでいいのだろうか。

 どうしてもその事が頭をよぎり、尻込みしてしまう。

 そう思うと、今の偽装関係はとても居心地のいい関係なのだと感じた。
 
 本当に私のことを思いやってくれている人の前で、こんな逃げは、とても言えることではないけど……。

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