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数日後。
エリシアは屋根裏部屋が脱出するチャンスを伺っていた。
今日まで調べたが付いた事は、食事は日に二回の朝と昼。
夕飯を抜いているのは、あのセーナの所為であることは予想が付く。
食事を運んでくれるのは、屋敷で働いているメイドの中から二人が持って来てくれる。
今日も朝食を持って来てくれたメイドが屋根裏部屋に入ってきた。
「エリシアお嬢様。朝食をお持ちしました」
もう一人は部屋の外から鍵を掛けて、扉の窓から中を見つめている。
彼女はメイド長であり、セーナの母の友人でもあるのだ。
「マリー。いつもありがとう」
「いいえ…………」
朝食を手渡すマリーは、ちらっと視線を下に向ける。
その視線に気付いたエリシアは小さく頷く。
後ろのメイド長からは見えないはずだ。
「では昼食もお願いね」
「はい。昨日の皿は下げます」
「ええ。お願い」
マリーが昨日の食器や皿を持って屋根裏部屋を出る。
最後までメイド長の目が光っていたが、廊下を歩く音が次第に小さくなり、二人がいなくなったことを確認するエリシア。
すぐにマリーが持って来てくれた食事の中から、小さな錠剤を一つ確認する。
(マリー! 本当にありがとう! これで作戦通りに行けばいいんだけど……)
不安を覚えながら、ここ数日で目線だけで言葉を交わしたマリーとの作戦。
朝食を取り、太陽の位置で時間を測れるようになったエリシアは、昼食30分前に錠剤を飲み込んだ。
暫くすると身体の内部から熱いモノを感じ始める。
少しして息が苦しくなり、座っているのもやっとの状態になる。
扉が開く音がして、マリーの悲鳴が聞こえる。
しかし、エリシアは既に気を失っており、マリーの声を聞く事は出来なかった。
◇
エリシアが目を覚ますと、隣には心配そうに見つめているマリーといつものメイド長が冷たい視線で見つめていた。
「ん……」
「エリシアお嬢様! 気が付きましたか!?」
「ま……りー?」
「はい! マリーでございます!」
ということは、作戦は成功したという事だ。
ただ、いくら作戦だったとはいえ、人が少し飲んだだけで高熱を出す薬を服用したのだ。
一歩違えば、命すら危ない薬を仕方なく服用したエリシアを心配せずにはいられなかったマリー。
「だい……じょうぶ……よ。マリー」
「良かった……きっとあの部屋の暮らしの所為です!」
「マリー。滅多な事を口にするんじゃありません」
後ろから睨んでいるメイド長から冷たい言葉が放たれる。
だが、ここに来れたらエリシアの勝利でもあるのだ。
「そう言えば、気が付いたら先生が呼んで欲しいと仰っていました! 今すぐ呼んできますね!」
「ええ……」
そう。
ここまでエリシアのシナリオ通りである。
これで医者に自分の婚約者である第三王子まで連絡をして貰う予定だ。
メイド長の焦る表情を見ながら、少し待っていると歩いてくる音が聞こえ、マリーと一緒に少し白髪が目立つ医者がやってきた。
「エリシア嬢。ご気分は?」
「ええ……あまり…………よくないですわ」
「ふむ。かなりの高熱でしたからな」
「先生」
その言葉にメイド長の顔色が青くなる。
「はい?」
「殿下を…………婚約者の……マシュー殿下を……呼んで……くださいまし…………」
「分かりました。すぐに使いを出しましょう。エリシア嬢はゆっくり休んでいてください」
「はい……おねがい…………します」
そう言い残したエリシアはまた気を失った。
ただ、婚約者であるマシュー王子を呼ぶ事に成功したエリシアは少し安堵した表情であった。
エリシアは屋根裏部屋が脱出するチャンスを伺っていた。
今日まで調べたが付いた事は、食事は日に二回の朝と昼。
夕飯を抜いているのは、あのセーナの所為であることは予想が付く。
食事を運んでくれるのは、屋敷で働いているメイドの中から二人が持って来てくれる。
今日も朝食を持って来てくれたメイドが屋根裏部屋に入ってきた。
「エリシアお嬢様。朝食をお持ちしました」
もう一人は部屋の外から鍵を掛けて、扉の窓から中を見つめている。
彼女はメイド長であり、セーナの母の友人でもあるのだ。
「マリー。いつもありがとう」
「いいえ…………」
朝食を手渡すマリーは、ちらっと視線を下に向ける。
その視線に気付いたエリシアは小さく頷く。
後ろのメイド長からは見えないはずだ。
「では昼食もお願いね」
「はい。昨日の皿は下げます」
「ええ。お願い」
マリーが昨日の食器や皿を持って屋根裏部屋を出る。
最後までメイド長の目が光っていたが、廊下を歩く音が次第に小さくなり、二人がいなくなったことを確認するエリシア。
すぐにマリーが持って来てくれた食事の中から、小さな錠剤を一つ確認する。
(マリー! 本当にありがとう! これで作戦通りに行けばいいんだけど……)
不安を覚えながら、ここ数日で目線だけで言葉を交わしたマリーとの作戦。
朝食を取り、太陽の位置で時間を測れるようになったエリシアは、昼食30分前に錠剤を飲み込んだ。
暫くすると身体の内部から熱いモノを感じ始める。
少しして息が苦しくなり、座っているのもやっとの状態になる。
扉が開く音がして、マリーの悲鳴が聞こえる。
しかし、エリシアは既に気を失っており、マリーの声を聞く事は出来なかった。
◇
エリシアが目を覚ますと、隣には心配そうに見つめているマリーといつものメイド長が冷たい視線で見つめていた。
「ん……」
「エリシアお嬢様! 気が付きましたか!?」
「ま……りー?」
「はい! マリーでございます!」
ということは、作戦は成功したという事だ。
ただ、いくら作戦だったとはいえ、人が少し飲んだだけで高熱を出す薬を服用したのだ。
一歩違えば、命すら危ない薬を仕方なく服用したエリシアを心配せずにはいられなかったマリー。
「だい……じょうぶ……よ。マリー」
「良かった……きっとあの部屋の暮らしの所為です!」
「マリー。滅多な事を口にするんじゃありません」
後ろから睨んでいるメイド長から冷たい言葉が放たれる。
だが、ここに来れたらエリシアの勝利でもあるのだ。
「そう言えば、気が付いたら先生が呼んで欲しいと仰っていました! 今すぐ呼んできますね!」
「ええ……」
そう。
ここまでエリシアのシナリオ通りである。
これで医者に自分の婚約者である第三王子まで連絡をして貰う予定だ。
メイド長の焦る表情を見ながら、少し待っていると歩いてくる音が聞こえ、マリーと一緒に少し白髪が目立つ医者がやってきた。
「エリシア嬢。ご気分は?」
「ええ……あまり…………よくないですわ」
「ふむ。かなりの高熱でしたからな」
「先生」
その言葉にメイド長の顔色が青くなる。
「はい?」
「殿下を…………婚約者の……マシュー殿下を……呼んで……くださいまし…………」
「分かりました。すぐに使いを出しましょう。エリシア嬢はゆっくり休んでいてください」
「はい……おねがい…………します」
そう言い残したエリシアはまた気を失った。
ただ、婚約者であるマシュー王子を呼ぶ事に成功したエリシアは少し安堵した表情であった。
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