記憶を無くした最強魔王の復活劇

ロペスへの復讐（５）

　ロペスはデヒルを自ら飲み込んだ次の瞬間ダンジョンの壁に吹き飛ばされており、壁に激突したロペスの視線には、蹴りの体制になっていたミスクが映る。

「小賢しい事をしても無駄ですよ。貴方の魔法でデヒルを覆って活動できないようにしたつもりでしょうが、そのデヒルは特別製。その程度の魔法では制御する事は不可能です。あまり自分の力を過信しない事ですね」

　口の中だけに闇魔法を展開し、デヒルを完全に覆うようにして飲み込んだロペス。

　通常のデヒルであればその動きを完全に阻害する事が出来るので、翌日には体内から他の物と共に排出されるはず……だった。

　その間にミスクの要求を聞いて強制的に操られているふりをして地上に戻り、バミアの裏切りも含めて全てを明らかにして、国家を上げて＜水の都＞に攻め込もうと思っていたのだ。

　かなりの悪行を行ったとしても称号を得るほどの力をもつロペスは、ミスクやイジスが最早人族ではなく、＜水の都＞に関連する者である事位は理解していたからだ。

　その思惑の全ては、ミスクの一言で全て無駄だったと思い知らされる。

　直後……腹部に激痛が走った。

「！？痛い。止めて……痛い！痛い！」

「何を言っているのですか？私のお願いは一切聞いてくれなかったくせに。そうそう、その痛み、体内のデヒルを少々動かしてみました。貴方の魔法程度では無効にできないと説明しましたが、疑い深い貴方にその身をもって理解して頂こうかと思いまして……親切心からの行いですから仕方がありませんね。逆に感謝して貰いたい位です。は～、貴方が余計な事をするのが悪いのですからね。どうですか？理解できましたか？」

　無意識に自分のお腹に手を持って行ってしまうバミア。

　イジスは復讐にはあまり興味がなさそうな事を言っているが、今の所どう見てもミスクは違う。

　そのミスクの機嫌を損ねるような事があれば、次は我が身なのだから……

　実際に目の前でのたうち回りながら異常に苦しみ続けるロペスを見させられているバミア。

　ロペスはミスクの言葉を聞く余裕など一切なく、ひたすら激しい痛みと戦っている、と言うよりも、一方的にやられている。

「バミアさん。貴方も余計な事をすればこうなりますからね？」

　そこにミスクから突然追撃があったので、手は腹部にあるまま高速で首を上下に動かしていた。

「そろそろやめましょうか。話ができませんからね」

　その言葉で痛みが一気に引いたのか、蠢いていたロペスの動きが止まるが……体内の水分と言う水分をまき散らしており、この短い時間で見るに堪えない外観に様変わりしていた。

　奇麗な長髪の黒髪は地面をのたうち回った時に灰色に変色しており、着ている服も所々破けている。

　すっかり変わってしまったロペスを見ても、冷たいミスクの視線は一切変わらないばかりか、追撃のように驚愕の命令が出る。

　漸く痛みが引いた事で苦しみから解放されたロペスに対して、ミスクは容赦ない指示を出す。

「薄汚い、相応しい外観になりましたね。それでは貴方に対する指示です。もちろん私とイジス様の事、手段を問わずに伝えようとした時点でデヒルは今以上の苦しみを貴方に与え続けます」

　涙や涎でぐちゃぐちゃな顔のまま、ロペスは目を見開いて頷いている。

「殊勝な態度は好感が持てますね。まぁ、ほんの少しだけですけれど。それで、貴方に対する指示は……貴方の婚約者、婿に来る者の殺害です。それも暗殺は認めません。公の場で殺害して頂きます。平気で人を裏切る事ができるのですから、その程度は貴方にとってみれば造作もない事ですよね？寧ろご褒美と言っても良いのかもしれません」

　流石に自分の予想を軽く超えてくる指示であったため、固まってしまうロペス。

「できなければあなたが苦しんで死ぬだけですから、強制はしませんよ？貴方と違って優しい私は選択肢を与えてあげます」

　突然恐ろしい事を言われているロペスにとっては強制以外の何物でもないが、人を囮にするような人物であればある程自らの命には異常に執着するので、ミスクからの指示を拒否できるわけもなかった。

「近いうちに婚約発表があるのでしょう？おめでたいですよね。その裏でどれだけの人達が犠牲になったのか……その記念として、婚約発表の場で一気に行きましょうか。健闘を祈りますよ。バミアさん、もう結構です」

　その言葉と共に、バミアの結界が解かれて魔物達も静かに安全地帯近辺から姿を消す。

「順調に進んでいるな、ミスク」

「はい。イジス様のお力添えを頂いていますので」

　絶望のロペスとは対照的に、ミスクとイジスは楽しそうに会話をしている。

　その姿を暫く見させられているバミアとロペスだが、やがてミスクから帰還の命令が出た。

「では、お二人ともお帰り下さい。魔物の襲撃は無いようにしてありますから、頑張ってくださいね。ロペスさん！楽しみにしていますから！！この度は、婚約おめでとうございます！」

　背後からの楽しそうな声を聞きつつ、本来は安全であるはずの上層階に向かってまるで死地に赴くかのような足取りで進むロペスだ。