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ロペス(1)
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「今日は、どの依頼にしようかな……っと」
冒険者として活動を始めている<魔王>イジスと、その横には、イジスの力で魔族になったミスクがいる。
少し前にミスクが冒険者ギルドの受付に顔を出した時には、優しい受付が泣きながらミスクを抱きしめていた。
どうやって助かったのか、どうやって戻ってきたのかをイジスの時と同様にギルドマスターのホノカから事情聴取を受けたのだが、こちらも何も覚えていないで突っぱねた。
その後こうして二人はパーティーとして、ゆるーく活動している。
その活動を行っているついでに、人族の状況、そして人族として活動しているミラバル侯爵の情報を得ているのだ。
もちろんイジスの忠実な配下であるイシュウを始めとした四人の眷属や配下のダンジョンマスター達も、それぞれの方法でダンジョンの強化、情報収取を行ってくれている。
「この薬師からの依頼、建屋の掃除なんてどうでしょうか?」
ミスクが、依頼書が張り出されているボードから一つの依頼を指し示す。
正になり立ての冒険者が行うような仕事だが、ミスクもイジスも冒険者としてのレベルを上げる事に興味はないために、このような依頼を好んで受けていた。
「ひっ……」
そこに、薄汚い恰好をした冒険者である一人が入ってきて、思わず悲鳴を上げている。
そう、すっかり誰だかわからないほどに変貌したロペスだ。
称号は剥奪され、資産は全て没収となり、かろうじて犯罪奴隷にならなかったのは称号を持っていたからだろう。
実力から行けばかなりの高難度の依頼を達成して悠々自適な暮らしができなくもないはずだが、魔族であり、人族に紛れ込んでいるミラバル侯爵の力によって妨害工作を受けているので、見た目から想像できる程度の生活を日々送っているようだ。
そのミラバル侯爵は当然冒険者ギルドに対しての情報も得ているので、ここまで公に行動するようになった魔王の称号を持っているイジスの存在についても知っているし、この騒ぎに乗じてイジスもミラバルの姿を確認している。
真の姿かどうかは分からない状態ではあるが、互いにその存在をきっちりと認識している状態になっている。
イジスは人族の活動としては特に目立つような事は何もしていないが、ダンジョン関連の魔族としての動き、ミラバル侯爵側の攻撃を全て跳ね返しているのだから、その事もあって存在が敵には公になっているのは当然だが、そもそもイジスとしては、ミラバル達に対して今更存在を隠す気が微塵もない。
それほどの力を持っていると自負している。
因みに前回自らの核を破壊されたのは、自他ともに認めるほどの油断と慢心から来るものである。
人族に扮しているミラバル侯爵はイジスが魔族であるとは口にしない……できないと言った方が正しいか。
逆襲として自身も魔族であると公にされては今迄の地位を完全に失うばかりか、欲に目が眩んだ人族の的になる可能性が高いからだ。
ミラバル侯爵が人族として、爵位の力を利用して冒険者イジスに間接的に嫌がらせをしようと企んでいたりするのだが、実際にイジスが受ける依頼は事故を装う事ができない何かのお手伝い的な依頼ばかり。
これでは嫌がらせのしようがない。
その鬱憤もあってか、自分の手の者を無駄に殺害した元<闇者>のロペスに対しては厳しい処遇を課していた。
選べる依頼は高難度の依頼だけに制限しているのだが、得られる報酬はその日暮らしが出来る程度の報酬のみ。
結果的に身の危険を冒しつつも依頼を受けなければ生活できないので、毎日死ぬ思いで活動しているのだが、その環境からかつての傲慢な態度は完全に消え去り、全てを諦めて、怯えて、この世の負の感情を一気に背負ったかのような……そんな姿だったのだ。
そんなロペスがこなした依頼の本来の報酬との差額はギルドへの寄付と言う形にしているので、今迄のロペスの行動も相まって、誰もこの対応に異を唱える者はいなかった。
もちろんギルドマスターのホノカも自分の実入りが良くなる事に異論を唱えるつもりは一切なく、積極的に冒険者を守るような人物でもないために沈黙を貫いている。
ここまで一気に自分自身を落ちた人生にした元凶であるミスクとイジスを見かけたロペスは異常なほどに怯えているのだが、最早誰に対しても怯えたような行動を取るので、特にこの行動自体怪しむ者はいなかった。
「ミスク。あいつも相当参っているようだな」
「そうですね。実は私も……進化の影響なのか、あの姿を見て今すぐにこれ以上何かしようと言う気にはならなくなっているのです。当然何も対処していない他の二人を見逃す事はしませんが……」
魔族としての力を得たミスクは、やはりイジスと同様に各種耐性が高くなっているので、復讐に対しての気持ちも薄れているのは事実だ。
元より優しい性格をしているのだから、一気に落ちぶれたロペスを確認できた以上は今すぐに更なる罰を与える気にはならなかった。
これはロイエス一行の悪行が、幸か不幸か結果的に人族のままでは決して全快する事の無かった母の命を完全復活させたきっかけになった事も、一つの要因になっているのだろう。
冒険者として活動を始めている<魔王>イジスと、その横には、イジスの力で魔族になったミスクがいる。
少し前にミスクが冒険者ギルドの受付に顔を出した時には、優しい受付が泣きながらミスクを抱きしめていた。
どうやって助かったのか、どうやって戻ってきたのかをイジスの時と同様にギルドマスターのホノカから事情聴取を受けたのだが、こちらも何も覚えていないで突っぱねた。
その後こうして二人はパーティーとして、ゆるーく活動している。
その活動を行っているついでに、人族の状況、そして人族として活動しているミラバル侯爵の情報を得ているのだ。
もちろんイジスの忠実な配下であるイシュウを始めとした四人の眷属や配下のダンジョンマスター達も、それぞれの方法でダンジョンの強化、情報収取を行ってくれている。
「この薬師からの依頼、建屋の掃除なんてどうでしょうか?」
ミスクが、依頼書が張り出されているボードから一つの依頼を指し示す。
正になり立ての冒険者が行うような仕事だが、ミスクもイジスも冒険者としてのレベルを上げる事に興味はないために、このような依頼を好んで受けていた。
「ひっ……」
そこに、薄汚い恰好をした冒険者である一人が入ってきて、思わず悲鳴を上げている。
そう、すっかり誰だかわからないほどに変貌したロペスだ。
称号は剥奪され、資産は全て没収となり、かろうじて犯罪奴隷にならなかったのは称号を持っていたからだろう。
実力から行けばかなりの高難度の依頼を達成して悠々自適な暮らしができなくもないはずだが、魔族であり、人族に紛れ込んでいるミラバル侯爵の力によって妨害工作を受けているので、見た目から想像できる程度の生活を日々送っているようだ。
そのミラバル侯爵は当然冒険者ギルドに対しての情報も得ているので、ここまで公に行動するようになった魔王の称号を持っているイジスの存在についても知っているし、この騒ぎに乗じてイジスもミラバルの姿を確認している。
真の姿かどうかは分からない状態ではあるが、互いにその存在をきっちりと認識している状態になっている。
イジスは人族の活動としては特に目立つような事は何もしていないが、ダンジョン関連の魔族としての動き、ミラバル侯爵側の攻撃を全て跳ね返しているのだから、その事もあって存在が敵には公になっているのは当然だが、そもそもイジスとしては、ミラバル達に対して今更存在を隠す気が微塵もない。
それほどの力を持っていると自負している。
因みに前回自らの核を破壊されたのは、自他ともに認めるほどの油断と慢心から来るものである。
人族に扮しているミラバル侯爵はイジスが魔族であるとは口にしない……できないと言った方が正しいか。
逆襲として自身も魔族であると公にされては今迄の地位を完全に失うばかりか、欲に目が眩んだ人族の的になる可能性が高いからだ。
ミラバル侯爵が人族として、爵位の力を利用して冒険者イジスに間接的に嫌がらせをしようと企んでいたりするのだが、実際にイジスが受ける依頼は事故を装う事ができない何かのお手伝い的な依頼ばかり。
これでは嫌がらせのしようがない。
その鬱憤もあってか、自分の手の者を無駄に殺害した元<闇者>のロペスに対しては厳しい処遇を課していた。
選べる依頼は高難度の依頼だけに制限しているのだが、得られる報酬はその日暮らしが出来る程度の報酬のみ。
結果的に身の危険を冒しつつも依頼を受けなければ生活できないので、毎日死ぬ思いで活動しているのだが、その環境からかつての傲慢な態度は完全に消え去り、全てを諦めて、怯えて、この世の負の感情を一気に背負ったかのような……そんな姿だったのだ。
そんなロペスがこなした依頼の本来の報酬との差額はギルドへの寄付と言う形にしているので、今迄のロペスの行動も相まって、誰もこの対応に異を唱える者はいなかった。
もちろんギルドマスターのホノカも自分の実入りが良くなる事に異論を唱えるつもりは一切なく、積極的に冒険者を守るような人物でもないために沈黙を貫いている。
ここまで一気に自分自身を落ちた人生にした元凶であるミスクとイジスを見かけたロペスは異常なほどに怯えているのだが、最早誰に対しても怯えたような行動を取るので、特にこの行動自体怪しむ者はいなかった。
「ミスク。あいつも相当参っているようだな」
「そうですね。実は私も……進化の影響なのか、あの姿を見て今すぐにこれ以上何かしようと言う気にはならなくなっているのです。当然何も対処していない他の二人を見逃す事はしませんが……」
魔族としての力を得たミスクは、やはりイジスと同様に各種耐性が高くなっているので、復讐に対しての気持ちも薄れているのは事実だ。
元より優しい性格をしているのだから、一気に落ちぶれたロペスを確認できた以上は今すぐに更なる罰を与える気にはならなかった。
これはロイエス一行の悪行が、幸か不幸か結果的に人族のままでは決して全快する事の無かった母の命を完全復活させたきっかけになった事も、一つの要因になっているのだろう。
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