記憶を無くした最強魔王の復活劇

焼納豆

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ロペス(3)

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 冒険者として登録したばかりの若手達は、本当の厳しい現実を一切見えていないのか、ほぼ全員が目をキラキラと輝かせながら仲間と談笑している。

 その中に決して若手とは言えない年齢であり、痩せて薄汚れているロペスが一人で宿泊している。

 ロペスの今の収入ではこの場所以外には泊まれる所がないし、痩せているのも、食事もあの報酬ではまともにできないのだから、仕方がない。

 そんな風貌のロペスに話しかける様な人物はいないかと思ったのだが、どこの世界にも悪が存在するように、心が清らかな者も存在する。

 いくら若手で成り立て冒険者と言え、ロペスと言う存在がどういう者なのか位はこの場にいる全員が知っているので、誰からも話しかけられる事は無かったのだが……突然一人の幼い女性が話しかけてきたのだ。

「あの……ロペスさんですよね。もしよければ、コレ……食べて下さい」

 差し出されたのは量としては少ないが、立派な肉。

 恐らく新人冒険者であれば、かなり贅沢な買い物と思われる肉だったのだ。

「これを……私に?」

 思わず問いかけてしまうロペスだが、少女は微笑みながら頷いて半ば強制的にロペスに肉を渡すと、仲間の元に走って行ってしまった。

 突然なり立て冒険者の少女とも言える人物から、肉を渡されたロペス。

「おい、お前。今日は初依頼達成で贅沢して買った肉だろ?」

「そうよ。それをあんな凶悪な犯罪者に渡すなんて、どうしたの?いくら何でも、それはないんじゃない?」

 実力の高い冒険者であるロペスには、この喧騒の中でも少し距離の離れた少女とその仲間達のやり取りが聞こえていた。

「確かに犯罪者かもしれないけど……良いの。今日の私の成果を上げたくなったの。ハイ、もうこの話はお終にしましょう!」

「しょうがねーな。じゃあ俺の食事を分けてやるよ。お前、あの肉が夕飯のつもりだったんだろ?」

「そうよね、私のご飯もあげるわ。一緒に食べましょう!」

 記念すべき初依頼達成のご褒美、そして自分自身の夕飯の全てをロペスに渡していたのを明確に聞き取ってしまった。

 その事実を把握して、優しくその少女をフォローする仲間達。

 そんな声を聞きながら少女から渡された手の中にある肉を見つめているロペスだが、次第に肉が歪んで見えなくなった。

 自分自身のかつての態度も含めて、あまりにも自分が組んでいたパーティーとは異なっていたからだ。

 ここに来て漸く虐げられる側の気持ち、そんな時に優しくされる嬉しさを心の底から思い知ったのだが、今の状況はロペスの自業自得。

 しかし、以前ロペスがロイエス達と共に対応した数々の荷物持ち、もちろんイジスやミスクを含むのだが、彼らにとってみれば何も悪い事をしていないのに理不尽な行動をされたのだ。

 それに比べれば今の自分は相当に恵まれていると思い、本当に遅いが、やっと人として普通の心を知る事が出来たロペス。

「でも……遅すぎですね。これ以上惨めは晒せません。全てを受け入れましょう。ですが、ありがとうございます」

 少女の方に向かって深くお辞儀をして、渡された肉を食べるロペス。

 かつて豪勢な生活をしていた時と比べればその肉はかなり質の悪い肉で非常に硬く、筋も多いものだったのだが、今迄食べたどんな肉よりも美味しく感じた。

 この日ロペスは少女の暖かさ、そして少女の仲間達の思いやりを直接目にする事によって心が満たされたのか、本当に久しぶりにゆっくりと眠る事が出来ていた。

 翌日以降も生活のために依頼を受けるが、当然のように高レベルの依頼しか回ってこないが今迄とは異なり、絶望の表情を一切浮かべる事無く、むしろ吹っ切れたような表情をしながら依頼を受けてギルドを出て行った。

 受付はその態度の大きな変化に一瞬不思議そうな顔をするが、何れにせよ大罪人である事は間違いないので、その日の買い取りもいつも通りにかなり中抜きした費用だけを渡すに留めている。

「いつもありがとうございます」

 そこでも、明らかに正当な報酬ではないと分かっている状況で今迄のように絶望した様な顔をしなかった上に、お礼すら伝えて来た。

 劇的な変化を遂げたロペスは毎日依頼をこなしている中で、依頼を達成してギルドに戻る途中に偶然肉をくれた少女パーティーを発見した。

 新人らしく、森の浅い最弱の魔物と戦闘していたのだ。

 ロペスから見ればかなり危なっかしい戦闘だが、助言などできる立場ではないので陰から見守っている。

 無事に戦闘が終わった事を見届けると、ギルドに向かう街道に高レベルの魔物の一部を置いて行ったのだ。

 あの時の肉に対して、せめてものお礼と言う気持ちで……

 そんな行動は、ギルドの受付には直ぐわかってしまう。
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