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ルーカスの依頼(15)

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 今迄【癒しの雫】全員の様子をさりげなく観察していたゴルダは、このギルドは、長年の経験から少女であるギルドマスターのシアを中心として良く纏まった信頼のおけるギルドであると判断し、世間話に移行する。

 リリアの父からの命令、【癒しの雫】が信頼に足るかの判断を想定よりもはるかに早く終えたので、これ以降は完全に私的な用事、自分の興味を解決するための話に移行した。

「ところで、どなたがジュラを倒されたのですか?」

 そう、騎士隊第一隊隊長である自分でさえも遭遇した事の無いSランクの魔獣に関する話だ。

 こうして質問攻めに合っているフレナブルと、只々リアントに構い倒しているリリア、その姿をボーっと見るしかない他の【癒しの雫】の面々。

 どれ程の時間が経過したのだろうか……何をしに来たか分からないリリア一行を送り出し、何故か仕事中よりもどっと疲れた【癒しの雫】一行。

 クオウやフレナブルでさえ疲労を感じるほど、騎士隊長は無駄に熱い男だったのだ。

 そしてリリアからの被害に遭ったリアント。

 疲労が酷そうで、見た事もない程にだらしなくクテッとしており、カスミが優しく撫でている。

「フフ、お疲れ様でした。リアントちゃん!」

 既にカスミの事は完全に受け入れているリアントは、弱弱しいながらも嬉しそうに触覚を揺らしている。

 リリアの時の態度とはえらい違いだ。

「ですが、皆さんのおかげでこの【癒しの雫】、更に階段を上る事に成功しました。本当にありがとうございます!!」

 シアの嬉しそうな声には相応の理由がある。

 今回台風を巻き起こして、自分達は清々しく去っていったリリアと騎士隊長のゴルダ一行だが、その存在はやはり【癒しの雫】が思っていた通り貴族だった。

 それも、ジャロリア王国のリビル公爵家の長女、リリア・リビル公爵令嬢だったのだ。

 その人物に大いに好かれ、そして信頼すら勝ち得て見せた【癒しの雫】。

 リアントの疲労も多少は報われるだろう。

「やったな、マスター。だが俺達はこんなもんじゃねーぜ?」

「そうだな。まだここは通過点だ」

「ミハイルとロレアルも良い事を言うな!」

 鍛冶三人組を皮切りに、疲れながらも喜びを分かち合う【癒しの雫】。

 再びワイワイと騒ぎだして落ち着いた頃……

「俺はもう少しあの襲撃者の対応をするので、ここで失礼しますね」

 クオウはこの場から去って行く。

 向かったのは、ギルド地下に設置されている牢獄のような場所だ。

 そこに拘束されているペトロシア。

 【癒しの雫】を襲撃をした【闇夜の月】のペトロシアは、生まれて初めて依頼を失敗したと悟った。

 彼女は闇ギルドとして長きに渡って活動してきたが、今迄受けた依頼を投げ出したり、失敗したりした経験が無い。

 ギルドと名乗ってはいるが、実際に所属して活動しているのはペトロシアただ一人。

 誰も信じず、孤独に活動していたのだ。

 その理由は、自身の存在にある。

 彼女・・は、年齢、性別、外観、声さえも明らかにならないように行動しているが、これも自分と言う存在を明らかにしないための対策だ。

 仕事の内容からも当然の行動とは言えなくもないが、本来の目的は異なり、自分自身の存在を認識させたくない理由があったのだ。

 それは、アルフレド達も気にしていたのと同じ、種族。

 彼女の種族は、人族と魔族のハーフ。

 物心ついた頃に共に生活していたのは、人族である母親だけ。

 そこから、父親の存在を聞いたペトロシアは納得していた。

 何故目の前の母親よりも魔力が明らかに多いのか、そして使える魔術が多いのか。

 何故既に母親よりも早く動けるし、遠くを見る事が出来るのか。

 他にもまだあるが、全ての謎が解けると共に衝撃的な言葉を告げられた。

ペトロ・・・、あなたはお父さんの力を受け継いでいるのよ。だから、その力を皆の前で使っちゃダメ。何かあって貴方よりも強い人に鑑定されたら、魔族と人族のハーフとバレてしまい、迫害されてしまうわ……」

 幼かったペトロには母親の進言が正確には理解できなかったので……悲劇は起こる。

 よくある子供の喧嘩。

 その時に年上のガタイの良い男に対してペトロは軽く叩いたつもりだったのだが、容赦なく骨折させてしまったのだ。
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