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【勇者の館】とギルド本部ツイマ

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 一応ギルドレベルは上昇したのだが、その直前の降格と言う事実を伝えられていないためにスピナ二体と迎撃依頼に対する報酬だけを受け取ったと認識している【勇者の館】所属の冒険者達。

 一部の者達が誤解による恨みを晴らすために【癒しの雫】に攻撃すらしていた。
 結果は何も被害を与える事が出来ていないが……

 そんな【勇者の館】だが、建屋の再建もスピナ関連の費用で充分に補う事が出来ており、建屋が修復完了し次第、本格的な活動再開を行う事にしていた。

 一応国内でAランクギルドとして活動しているが、国王に啖呵を切ったように、他国に移籍する事は考えていない。

 引き抜きであれば話は別だが、自ら移籍する他国では、このジャロリア王国での名声はなにも実績にはならず、余程新たな所属先の国家に対して信頼されていない限りは国家承認の不要なBランクスタートとなる可能性が極めて高いからだ。

 せっかくAランクに復帰したのに、再びBランクから実績を積む事は出来ないと諦めているルーカス。

 ギルド建屋再建に人手を使いつつ、規模を小さくした依頼を受けていた。
 巨大組織であるが故、何も依頼を受けていない状態では完全な赤字になってしまうのだ。

 割の良い依頼を受けようとギルド本部に向かったルーカスに、元本部ギルドマスターで、現受付のツイマが慌てて走り寄ってくる。

「ルーカス様。大変申し訳ありませんが、そろそろ以前のダンジョン内でのルーカス様捜索の書類をご提出いただきたいのですが」

 前【勇者の館】担当であったミバスロアが同じ内容をルーカスに指摘した際には、その行いを理不尽に厳しく叱責したツイマだったが、最早提出書類がなければ二進も三進も行かなくなっているこの状況では、ひたすらに下手に出てお願いするしかなかった。

 自分がギルドマスターであった頃には、受付とは別にある個室にふんぞり返って済んでいたツイマだが、今のギルドマスターであるラクロスは受付の後ろの位置で業務をしているので、不備があると即指摘されるのだ。

 今も、受付の奥からツイマとルーカスを厳しい視線で見つめている。

 ツイマとしても、きちんとした成果を出せなければ首と国王より宣言されている以上、踏ん張るしかない。

「フン。今更お前が何を言い出す?それほど書類が必要であれば、お前が雛形を作って持ってこい。穴埋め程度であればその場で書き込んでやる」

 既にかなりの時間が経過しており、このままルーカスは書類提出を無視する様だ。

 少し前のスピナに関してはギルド本部からの緊急依頼であり、ルーカスが言ったように雛形が【勇者の館】に送られ、所々穴埋めすれば良い形の書面が送付されていた。

 それと同じ事をしろと言っているのだ。

「そ、そんな特例は……ギルド本部や国家からの緊急依頼であればこちらで準備するのですが、ルーカス様の捜索をルーカス様のギルドが依頼したのですから、書面も準備して頂かないと。緊急性が高いと言う事で、その場での書面は免除されているのですから、そうでなければ二度と緊急依頼を受付できなくなりますよ?」

「あ?お前、偉くなったなぁ、ツイマ!」

 ツイマは後がないので正論を述べているが、今のルーカスには通じない。

 そんなやり取りを、鼻で笑うかのように見ているミバスロアを始めとしたギルド本部の受付達。

 丸く収めるにはツイマ自身が雛形を準備すれば良いのだが、拘束時間外に無償で作業する必要があるうえ、十分な知識がないと作成する事は出来ない。

 一つのギルドを必要以上・・・・に融通する事を厳しく禁止しているラクロスがギルドマスターになっている為、知識があるギルド職員には、一受付のツイマとしては頼めない。

 もちろんツイマに穴埋め形式の書類を作る知識はないので、やりたくとも出来ない。

 気の毒なほど汗を流しながらルーカスと交渉しているツイマだが、今迄の行いから誰一人として助け舟を出そうとする者はいなかった。

「しつこいぞ、ツイマ。お前が雛形を持ち込まない限り、書類が提出される事はない!」

「そ、そんなぁ~」

 このままでは首になる未来しかなく、意気消沈するツイマ。

「よし、今日はこれで行くか」

 もう話は終わったとばかりにツイマを一切気にも留めずに完全に無視する形で、本部のボードに出されている依頼を渡すルーカス。

 こう言った緊急性の無い通常の依頼であれば、中身は雑だが、辛うじてツイマでも修正できる範囲で収まる出来の悪い報告書を上げて来る【勇者の館】。

 以前クオウが提出した書類をまねて書けば良いので、体裁だけは辛うじて保った形で提出できている。

 今までは、その全てをミバスロアが修正し、提言し、進めていたのだ。

 漸くここにきてミバスロアを含む受付の有能さに気が付いたツイマだが、時すでに遅く、誰も【勇者の館】やツイマに関わろうとはしなかった。

 意気揚々とギルドを出て行ったルーカスを恨みがましい目で見ていたツイマが自分の席に戻ると、現ギルドマスターであるラクロスから忠告が飛ぶ。

「ツイマ。わかっているとは思うが、お前が【勇者の館】担当だ。と言うよりも、そのギルドしか担当していないだろう?たった一つのギルドすら真面に処理できないのであれば、そのような無能はこのジャロリア王国のギルド本部には必要ないぞ」

「わ、わかっております」

 こうなれば、なりふり構わずに元部下達に雛形の作成を頼み込むしかないと決断するツイマ。

 元とは言え上司であった自分が必死で頼み込み、更には報酬を差し出せば、彼女達の実力があればそれほど苦労しない仕事である為に一人くらいは引き受けてくれるはずだと言う思いがあった。

 その日の業務が終了し、遅番と変わる時がやってきた。

 無駄に真面目な元騎士のギルドマスターであるラクロスは、夜も仕事をするために今は個室に入って仮眠をとっているようで、ここがチャンスと見たツイマは立ち上がる。

 各ギルドからの依頼達成や失敗、相談等の処理は一区切りついており、受付近辺に各ギルドの関係者はいない。

「皆、聞いてくれ」

 突然立ち上がって声を出すので、業務が終わった受付、これから業務を開始する受付共にツイマに視線を集める。

「ご存じの通り、【勇者の館】によってこのジャロリア王国はスピナの脅威から守られた。そんな【勇者の館】がこのジャロリア国王の守護神として居続けて貰うためには、以前の未納となっている報告書を提出してもらう必要がある。しかし、彼らの仕事は多岐にわたり、魔王討伐と言う人類の希望とも言える仕事もしており、そこまで手が回らないようだ。今回に限り、スピナ襲来から我らを守り通してくれた【勇者の館】に恩を返すべく、ルーカス様探索の緊急依頼に対する書類の雛形を作ってやりたいと思っているが、どうだろう?」

「確かに、今回助かったのは事実ですね。良いのではないですか?」

 最初に返事をしたのは、前【勇者の館】担当のミバスロアであり、ツイマはこれで首を回避できたと安堵した。

「ですが、私達は担当じゃありませんから、現担当者が進めるべきですね。余計な横やりを入れてしまっては御迷惑でしょうから、頑張ってください」

 ミバスロアはそう言って同僚と共にさっさと帰宅し、遅番は業務を始めてしまった。

「お、おい、誰か助けてくれないのか?」

「ご自分でどうぞ」

 残った遅番に助けを求めるが、そっけなく返されて止む無く泊まり込みで雛形を作るのだった。
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