前世も今世も裏切られるが、信頼できる仲間と共に理想の世界を作り上げる

焼納豆

文字の大きさ
121 / 170
二度目の戦闘

私はレイラ(2)

しおりを挟む
 私を抱きしめ続けて下さっていたヤリス様を始めとした王族の方々に、これ以上私の為に手を煩わせるわけにはいきません。
 それに、私には伝えなければならない情報があるのです。

「皆様、私の為にありがとうございます。私は大丈夫です。幻獣部隊の皆は任務を遂行することができました。先ほどウェインより<念話>があり、皆様にお伝えすべき情報が伝えられたのでご報告致します」

 そう伝えると、ヤリス様の私を抱く力が少し強まりました。
 何故かはわかりませんが、私は報告を続けなければなりません。

「その報告とは、今回襲撃をしてきた<シータ王国>の5名の召喚者の内、<反射攻撃>と<魔力強奪>については排除することに成功したとのことです。この情報を次の作戦に使って欲しいと・・そう言って彼は、彼らは散っていきました」

 何故かこれ以上話すことができません。
 
 ダン様が、

「もういい、もういいんだレイラ。今は少し休んでくれ。おい、ラム」

 そう言って、祭りで仲良くして頂いたラム殿を呼んでくださいました。
 私はラム殿に手を引かれるまま、この5階層の別の部屋に連れて行かれ、ラム殿の淹れて下さった飲み物を飲ませて頂いています。
 
 私などが、この非常事態にこんなにゆっくりしていていいのでしょうか?
 そう思っていると、

「レイラ、あなたは今ゆっくりすることが仕事なの。そして、ゆっくりして元気を取り戻したら、今度はジン様の元気を取り戻せるように一緒に頑張るのよ。そのためにはまず、あなたが元気にならいと駄目よ」

 エルフ族である美しいラム殿は、笑顔で私に話かけて下さっている。
 そう、ジン様。ジン様に元気を出していただかなくては!そう思い立ち上がろうとする私を、ラム殿は上から押さえてきました。

「こ~ら、今言ったばかりでしょ。レイラ!あなたが元気にならないと、ジン様を元気にすることなんてできないわ。まずは落ち着いて、ね?お願いよ」

 ラム殿も少し目から何かが流れている。ここで無理をしてはいけない気がして、私は大人しく席に着いて飲み物を改めて飲んでみました。
 改めて飲んだこの飲み物は、幻獣部隊の皆と楽しく話をしていた時に感じたように、心がポカポカしてきます。不思議な気持ちになっていると、よほど体と心が疲れてしまったのでしょうか?睡眠をとる必要はないのですが、だんだんと意識が朦朧としていき、やがて深い闇にのまれるように意識を手放しました。

「レイラ、ジン様の為に本当にありがとう。そして辛い思いをさせてごめんなさい」

 そうラム殿が言っている声が聞こえたような気がします・・・・・



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 その同時刻、<神狼>の町では・・・・召喚者のリーダである北野がその場を仕切っている。

「おい、ドルロイ、いつまでそんな隅っこで小さくなってるんだ。あいつらは全員逃げたしもう攻撃は受けねーぞ」

「うむ、わかってはいるのだがそこの獣の力に少しやられてしまってな」

「あぁ、確かに凄まじい力だった。最後に残ったやつら、とんでもない美人三人もいたが、とてつもない力を秘めていたな。対処に少々手こずるかと思っていたら、まとめて3人も瞬殺するレベルだからな」

 そう言いながら北野はモモを見た。
 モモは血の涙を流し続けている。

「ッチ。うぜぇ」

 そういって、北野はモモに蹴りを入れた。
 しかし、神獣であるモモには何のダメージもなっていないが、心のダメージにはなっている。

 この時点でモモを制御しているのは召喚者である佐藤が持つ<強制隷属>であり、北野は万が一にも佐藤が裏切らないように、すでに佐藤に対して<心身操作>を行っているのだ。

 そんな北野はドルロイと話を続ける。

「確かにドルロイの言う通りエルフは美人だったが、そのエルフにも負けない程の美人がいたな。もう消滅しているがな・・まあいい、約束通り早くエルフを連れて来いよ。それと、これから俺達はどこで生活するんだ?あの廃墟のような俺達が召喚された町は勘弁しろよ。丁度この町は人はいないが栄えているようだから、このあたりで良い所を見つけて拠点とするか?」

「それが良いだろう。そもそもここら一帯は<シータ王国>の領地であったのだからな。で、エルフだったな。我が王都に避難してきた奴隷商によると、王都の商店地下に数人置いたままにしているそうだ。そこに行ってみるか?」

「おい、ここからまた王都まで移動するのかよ?」

 今回の旧辺境東伯領を取り戻し<アルダ王国>の面々を撤退させる作戦は、召喚者2人を失ったが、明らかに<アルダ王国>の主要戦力にも多大な被害を与えており、概ね成功と言える。
 そのため、北野の気分は上々で、ドルロイとも友好的になりつつある状況だ。

「ふむ、そうだな。その間にやつらがまたここを拠点とすると面倒だ。う~む、どうするか」

「それだったらお前たちが行って連れて来いよ」

 一応ドルロイの近くには近衛として、辺境伯の子供であるアレン、ブゴウ、ショリーがいるのだが、北野を始めとした召喚者にとっては、何の障害にもならない。そのため、北野はこの3人に王都まで往復しろと言っているのだ。

 3人は北野が<アルダ王国>の規格外の力を持つ者を退け、そして神狼フェンリルまで制御している状況を理解しているため、断る選択肢など存在しない。

 コクコクと頷くと、高いステータスに物を言わせてあっという間見えなくなってしまった。
 
「ドルロイ、あいつら逃げたりしないだろうな?」

「そこは大丈夫だ。既に奴隷紋を刻んでいるのでな」

「奴隷?何か制約を与える契約があるのか?」

「ああ、その通りだ。だが、例えばそこの獣のようにあまりにも強大な力を持つ者には奴隷紋を刻むことはできんぞ。そしてこの紋章を刻ませるにはスキル<魔眼>が必要になる。いま、<魔眼>持ちは王都にもいないので、必要であれば追って考えるが・・」

「いや、少し興味があって聞いただけだ。そもそも俺は<心身操作>があるからそんな物は必要ない」

 二人の間には、召喚されて指輪を嵌めさせられた直後の蟠りのようなものはなくなっているように見える。
 それ程、今回の作戦成功は両者の心を満たしたのだろう。
 
 北野に至っては、同郷の2人を既に失っているのだが、彼にとって手駒が減ったくらいの感覚で、一切気に病んでいないのだ。

「んじゃ、これからどのあたりを拠点にするか、それと宿泊場所でも探すか。できれば風呂にでも入りたいんだがな」

「そうだな。以前の辺境東伯領であればある程度の知識はあったのだが、全く様変わりしているから、軽く探索しながら探すのはどうだ?」

「まあ、軽く見て回りたかったからちょうどいいな。こいつに探させようとも思ったけど、今回は自分で行くか」
 
 北野はモモに探索をさせようと思っていたようだが、自ら探す方に方針を変更した。
 そして、ドルロイと北野が話しながら散策し、その後ろを佐藤、悠里、モモがついて行く。

 やがて<神狼>の地下迷宮ダンジョンにたどり着いた。

「ここは世界四大地下迷宮ダンジョンと言われる物の一つで、かなり高いステータスでないと危険な場所だ。あいつらにこの領地を奪われてからどのようになっているか全くわからなくなったが・・」

 そう言って、ドルロイは一階層の入口を覗こうとしたが入ることができなかった。何やら見えない膜のような物に阻まれているのだ。
 それを見た北野が、

「おい、獣!お前入ってみろ」

 モモにそう命令する。
 モモはこの<神狼>の管理補助者であり、この結界も本来は意味がない。
 だが、モモも同様に結界に阻まれて侵入することができなかった。

「こいつで入れないんじゃ、誰も入れないんだろう。中から何も出てくる気配もないし、そもそも何かがいる気配もないから、どうでも良いんじゃねーか?」

「うむ、何があったかはわからんが、ここは活動停止になっているようだ」

 実は、本来モモはここに入ることができるのだが、その場合ジン達が避難している<魔界森>とも再度直結させて、北野達が弱っているジンの元に追撃を加えてしまうかもしれない。
 
 そう思った水晶さんが、ほぼ全てのリソースを使って本来は行う事のない制御をしているために、モモすら侵入することができなかったのだ。
 もちろんジンが殆ど管理しないので全ての権限を持っているのだが、管理補助者を進入禁止にするなど前代未聞なのだ。
 
 そのために、水晶さんはジンと連絡を取ることもできずに、仮にジンからの連絡があっても回答できる状態ではなくなってしまっているのだ。
 こんな状況でなければ、ジンに対して有効なアドバイスをできるのだが・・・。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...