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突然の雄叫びに驚く朱莉だが、普段とは異なりいきなり視界から消える様な速度で進んで行った幸次を見て少し安心する。
「!?……フフ、変なお兄ちゃん。でも、アレなら大丈夫かな?本当に楽しく高校生活を送れると良いのに」
少しだけ心配の表情を浮かべたまま振り返って自分の学校に向かう朱莉だが……爆進している幸次は非常に高揚していた。
「フハハハ、余の実力があれば一発よ!見よ、この素晴らしいフォームを!!」
身体強化を使っていないのだが、王族として日々鍛錬した成果が出ているのか無駄に早く自転車をこいでいる幸次は初めての乗り物に興奮しているので、どの道を進めばよいのか分からないままに爆走している。
本物の幸次からは交通ルールについて厳しく教えてもらっているので信号についても理解できており、きちんとブレーキをかけて止まる事も出来ているのだが……止まって初めて自分のいる場所が全く把握できていない事に気が付く幸次。
そもそも召喚当日は妹と共に寿司を食べに行っただけで、翌日が今日なのだから場所などわかる訳もない。
心配事の一つ目が難なく解消してしまったので、二つ目の心配に対する対処をする事なく只管爆走してしまったのだ。
「しまった。余とした事が、あまりの才能に溺れてしまい盲目になっていたか。猛省せねばなるまいな」
一応今ある知識の中で対策を取ろうと考えるのだが、できる事と言えば人に道を聞くか、同じ制服と言う名の服を着ている人物を見つけて付いて行くか……の二択だ。
「だが、余の素晴らしい所は帰宅時には問題ないと言う事よ!」
再び炸裂する大きな独り言だが、幸次は自室に王族にのみ使用する事が許される魔力が内包されている指輪二つの内の一つを置いてきている。
これさえあれば多少距離があっても身体強化を使えば気配を察知する事が出来、その気配に向かえば自宅に戻れると言う寸法だ。
しかし今は早朝であり、この時点で帰宅するなど一体何のために制服に着替えて外に出たのかと言う事になる。
「止むを得まい」
幸次は突然小さな声で呟くと身体強化を使って周囲を慎重に観察しているのだが、これは同じ制服を着た人物を見つけるための行動であり、他意はない……が、どうしても必要以上の情報を得てしまっている。
例えば遠くの通話の声も聞こえてしまうし、スマホの画面さえ幸次の方を向いていれば表示されている内容までしっかりと見えてしまう。
慎重に情報を整理しながら周囲を見回している幸次は、漸く大きな車……バスなのだが、そこに目的の人物が大勢いる事に気が付くと同時に、かなり遠くの女性の後ろから不穏な気配を漂わせたバイク、所謂原付に乗った人物の気配も感じ取ってしまった。
「なるほど。魔獣はいないが魔の心を持つ者は普通に存在する……と言う事だな。余の前で狼藉を働こうとするなど良い度胸ではないか!」
その視線は相当遠くにいる女性と背後のバイクに乗った男に固定され、勢いよくその方向に向かって……とは言っても、しっかりと信号が変わったのを確認して左右の安全確認をした後に一気に肉薄する最中、想像通りにバイクの男は女性からバックをひったくり逃走し始める。
「泥棒!!」
女性の声に周囲の視線はバイクの男に向けられるが、周囲の者達は勢いに乗ったバイクの前に出られるわけもなく、一部の者がスマホで写真を撮ろうとしているだけだ。
「フハハハハ、想像通りの下種野郎よ!この余が成敗してくれるわ!」
何とか逃亡している男の証拠を残そうとしている人物が写真か動画を撮影しようとしている目の前を、不思議な事を大声で叫びながらバイク以上の猛スピードで普通の自転車をこいで追いかけている幸次が横切る。
「え?」
一瞬の事で固まるのだが、再びバイクの方に視線を移した時には既に幸次はバイクに追いついており、有ろうことか片手で運転していた泥棒を持ち上げた状態で自転車に乗っていたのだ。
バイクはそのまま横倒しになって暫く路面を滑り停車したのだが、実は動きを全て把握した幸次が身体強化の力の一部を頭脳に分配して、誰も怪我をしないような状況を確認しての行動だったりする。
片手で少々暴れる犯人を捕まえた状態で徐々にスピードを落として停車する幸次はそのまま自転車から丁寧に降りるのだが、暴れている男からは一切手を離さないと言う不思議な状況になっている。
バックを盗られた女性は、周囲の野次馬を背後に引き連れて幸次の近くに来る。
「あ、あの。ありがとうございます。その制服、相律学園の制服ですよね?お名前を教えて頂けますか?」
幸次からしてみれば特段善行をしたつもりはないのだが、この申し出の一部に光明を見出した。
「フ……フハハハハ、やはり余はこう言った運命なのだろうな。全てが順調。順風満帆!そうだ。余は相律学園の生徒だ。名前は……特段名乗る様な者ではない。目立つ事は不利益につながる事を知っているからな。ところで一つ相談があるのだが?」
これ以上ない程目立っているので言っている内容の一部が理解できないが、恩人に対しての言葉にはできるだけ応えたいと思っている女性。
「どう言った事でしょうか?」
「何、難しい事ではない。相律学園までの道のり、教えてもらえないか?」
「!?……フフ、変なお兄ちゃん。でも、アレなら大丈夫かな?本当に楽しく高校生活を送れると良いのに」
少しだけ心配の表情を浮かべたまま振り返って自分の学校に向かう朱莉だが……爆進している幸次は非常に高揚していた。
「フハハハ、余の実力があれば一発よ!見よ、この素晴らしいフォームを!!」
身体強化を使っていないのだが、王族として日々鍛錬した成果が出ているのか無駄に早く自転車をこいでいる幸次は初めての乗り物に興奮しているので、どの道を進めばよいのか分からないままに爆走している。
本物の幸次からは交通ルールについて厳しく教えてもらっているので信号についても理解できており、きちんとブレーキをかけて止まる事も出来ているのだが……止まって初めて自分のいる場所が全く把握できていない事に気が付く幸次。
そもそも召喚当日は妹と共に寿司を食べに行っただけで、翌日が今日なのだから場所などわかる訳もない。
心配事の一つ目が難なく解消してしまったので、二つ目の心配に対する対処をする事なく只管爆走してしまったのだ。
「しまった。余とした事が、あまりの才能に溺れてしまい盲目になっていたか。猛省せねばなるまいな」
一応今ある知識の中で対策を取ろうと考えるのだが、できる事と言えば人に道を聞くか、同じ制服と言う名の服を着ている人物を見つけて付いて行くか……の二択だ。
「だが、余の素晴らしい所は帰宅時には問題ないと言う事よ!」
再び炸裂する大きな独り言だが、幸次は自室に王族にのみ使用する事が許される魔力が内包されている指輪二つの内の一つを置いてきている。
これさえあれば多少距離があっても身体強化を使えば気配を察知する事が出来、その気配に向かえば自宅に戻れると言う寸法だ。
しかし今は早朝であり、この時点で帰宅するなど一体何のために制服に着替えて外に出たのかと言う事になる。
「止むを得まい」
幸次は突然小さな声で呟くと身体強化を使って周囲を慎重に観察しているのだが、これは同じ制服を着た人物を見つけるための行動であり、他意はない……が、どうしても必要以上の情報を得てしまっている。
例えば遠くの通話の声も聞こえてしまうし、スマホの画面さえ幸次の方を向いていれば表示されている内容までしっかりと見えてしまう。
慎重に情報を整理しながら周囲を見回している幸次は、漸く大きな車……バスなのだが、そこに目的の人物が大勢いる事に気が付くと同時に、かなり遠くの女性の後ろから不穏な気配を漂わせたバイク、所謂原付に乗った人物の気配も感じ取ってしまった。
「なるほど。魔獣はいないが魔の心を持つ者は普通に存在する……と言う事だな。余の前で狼藉を働こうとするなど良い度胸ではないか!」
その視線は相当遠くにいる女性と背後のバイクに乗った男に固定され、勢いよくその方向に向かって……とは言っても、しっかりと信号が変わったのを確認して左右の安全確認をした後に一気に肉薄する最中、想像通りにバイクの男は女性からバックをひったくり逃走し始める。
「泥棒!!」
女性の声に周囲の視線はバイクの男に向けられるが、周囲の者達は勢いに乗ったバイクの前に出られるわけもなく、一部の者がスマホで写真を撮ろうとしているだけだ。
「フハハハハ、想像通りの下種野郎よ!この余が成敗してくれるわ!」
何とか逃亡している男の証拠を残そうとしている人物が写真か動画を撮影しようとしている目の前を、不思議な事を大声で叫びながらバイク以上の猛スピードで普通の自転車をこいで追いかけている幸次が横切る。
「え?」
一瞬の事で固まるのだが、再びバイクの方に視線を移した時には既に幸次はバイクに追いついており、有ろうことか片手で運転していた泥棒を持ち上げた状態で自転車に乗っていたのだ。
バイクはそのまま横倒しになって暫く路面を滑り停車したのだが、実は動きを全て把握した幸次が身体強化の力の一部を頭脳に分配して、誰も怪我をしないような状況を確認しての行動だったりする。
片手で少々暴れる犯人を捕まえた状態で徐々にスピードを落として停車する幸次はそのまま自転車から丁寧に降りるのだが、暴れている男からは一切手を離さないと言う不思議な状況になっている。
バックを盗られた女性は、周囲の野次馬を背後に引き連れて幸次の近くに来る。
「あ、あの。ありがとうございます。その制服、相律学園の制服ですよね?お名前を教えて頂けますか?」
幸次からしてみれば特段善行をしたつもりはないのだが、この申し出の一部に光明を見出した。
「フ……フハハハハ、やはり余はこう言った運命なのだろうな。全てが順調。順風満帆!そうだ。余は相律学園の生徒だ。名前は……特段名乗る様な者ではない。目立つ事は不利益につながる事を知っているからな。ところで一つ相談があるのだが?」
これ以上ない程目立っているので言っている内容の一部が理解できないが、恩人に対しての言葉にはできるだけ応えたいと思っている女性。
「どう言った事でしょうか?」
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