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(5)化けの皮が
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ダンジョン侵入後暫くすると……
「フゥ~、これで余計な人目は無くなった。おいお前、この荷物も持っておけ」
「僕のもお願いしますよ」
「当然」
「この程度しか役に立てねーだろ?」
このダンジョンは冒険者を含む全ての者が進入禁止とされており、既に魔物以外から見られる事は無くなっているので、ここぞとばかりにイリヤへの対応を厳しくする勇者一行。
四対一、更に勇者パーティーは全て貴族に名を連ねる者である為、自出の定かではないイリヤ一人がこの場で文句を言おうものなら自分の立場が非常に危ういと分かっているイリヤは、黙って荷物を担ぐ。
「今日は五階層まで進んでおくか。このダンジョン、最終階層がどれほどか不明だからな。六階層以降は慎重に行きたいが、攻略済みの場所まではその分急いでおきたい」
このダンジョンマスターである魔王が地上に進行するタイプの魔王であった場合、着々と魔物を準備している可能性がある。
その準備が終わる前に叩いてしまう方が良いと判断したために、史上最短でダンジョンに対して逆侵攻する事にしていたのだ。
勇者の宣言通り、通常の冒険者であれば少々手を焼くような魔物ですら、一瞬で始末してズンズンと進んで行く。
各自が称号を得た時に、それぞれの称号に応じた力を得ていたからだ。
もちろん<聖女見習い>は国王が勝手につけた称号であるので、この事によってイリヤが新たな力を得たという事は無い。
勇者はその力を使って並み居る魔物を苦もなく切り刻み、賢者はその名にふさわしく、極大魔法を惜しげもなく乱発している。
剣神は視認できない速さで斬撃を飛ばし、聖盾は守りだけではなく、盾を構えて突進する事によって魔物を吹き飛ばしているのだ。
魔物側は数に物を言わせて死角から攻撃を仕掛ける事も有り、併せてダンジョンの罠も巧みに使って勇者パーティーに攻撃をしているので、時折軽く勇者パーティーに攻撃が当たる事がある。
勇者パーティーが称号を得てからその力を完全に習得するまでの時間が無かったため、浅層でも攻撃を受けてしまう事があるのだが、今は正に実践訓練とも言うべき状況になっているので、このまま侵攻して行けばその力を十全に使う事が出来るようになるだろう。
そんな浅層の攻撃を受ける事がある勇者一行だが、誰一人としてかすり傷すら負っていない。
実はイリヤが、各自に対して防御魔法をかけていたのだ。
城下町の防壁すら視認できない者達が、各自に付与されている防御魔法を認識できるわけもなく、それぞれの称号によって得た力によって傷を負わなくなったと思っている四人のメンバー。
体感で半日程度……五階層まで到着してしまった。
イリヤはただひたすら荷物を背負って勇者パーティーについて行き、時折グレイブ達が打ち漏らした魔物の攻撃は防御魔法でやり過ごしていた。
勇者パーティーは自分の力に酔いしれており、他人、そう、何の攻撃力も持たないイリヤについては一切考慮していなかったのだ。
イリヤが自らに防御魔法を施していなければ、一階層で既にイリヤは死亡していた。
そうなってしまっては勇者グレイブを陥れる作戦を遂行するための駒が無くなってしまう事に今更ながら気が付いた賢者ホルド、剣神ミア、聖盾ルナは、イリヤの無事な姿を見て安堵していた。
そんな三人の表情を見て、自分の心配をしてくれていると思う程イリヤはバカではない。
仮に本心からイリヤが心配なのであれば、侵入直後から自分の安全を守るための配置になるはずだからだ。
「今日はここで終わりにしておいてやろう。何もしていない荷物持ちは疲れていないだろうが、俺達はそうじゃないからな。国家の命運を担っているんだ」
「まったくですね。僕も荷物だけを運んでいたいですよ」
「無能は困る」
「そんなもんだろ?何て言ったって見習いだぜ?」
実際は浅層で細々とした攻撃を数多く受けていたこの四人……イリヤの防御魔法が無ければ毒によって体が麻痺し、既にここまで辿り着けていないと言う事実には気が付いていない。
その魔法防壁を、王都、そしてこの四人、更には自分に行使しているイリヤは疲労困憊なのだが、その魔法自体を認識できない勇者パーティーは、荷物を運んでいるだけで疲労困憊になる能無しと言う認識でいる。
だが、王都側では既に通常とは異なる事態に気が付いている者もいた。
特に王都の安全を担う立場にいる者は、通常よりも魔物の攻撃が弱っている事に違和感を持っていたのだが、ダンジョンへの逆侵攻が行われているせいで魔物の力が弱まっているものと解釈し、誰かに報告する事も無かった。
「お前!さっさと夕食の準備をしてくれ。全く気が利かないな。俺達は連戦で多少ではあるが疲れているんだ」
「ただ単に荷物を持っているだけなのですから、疲れた振りをするのは止めて頂きたいものですね」
「フゥ~、これで余計な人目は無くなった。おいお前、この荷物も持っておけ」
「僕のもお願いしますよ」
「当然」
「この程度しか役に立てねーだろ?」
このダンジョンは冒険者を含む全ての者が進入禁止とされており、既に魔物以外から見られる事は無くなっているので、ここぞとばかりにイリヤへの対応を厳しくする勇者一行。
四対一、更に勇者パーティーは全て貴族に名を連ねる者である為、自出の定かではないイリヤ一人がこの場で文句を言おうものなら自分の立場が非常に危ういと分かっているイリヤは、黙って荷物を担ぐ。
「今日は五階層まで進んでおくか。このダンジョン、最終階層がどれほどか不明だからな。六階層以降は慎重に行きたいが、攻略済みの場所まではその分急いでおきたい」
このダンジョンマスターである魔王が地上に進行するタイプの魔王であった場合、着々と魔物を準備している可能性がある。
その準備が終わる前に叩いてしまう方が良いと判断したために、史上最短でダンジョンに対して逆侵攻する事にしていたのだ。
勇者の宣言通り、通常の冒険者であれば少々手を焼くような魔物ですら、一瞬で始末してズンズンと進んで行く。
各自が称号を得た時に、それぞれの称号に応じた力を得ていたからだ。
もちろん<聖女見習い>は国王が勝手につけた称号であるので、この事によってイリヤが新たな力を得たという事は無い。
勇者はその力を使って並み居る魔物を苦もなく切り刻み、賢者はその名にふさわしく、極大魔法を惜しげもなく乱発している。
剣神は視認できない速さで斬撃を飛ばし、聖盾は守りだけではなく、盾を構えて突進する事によって魔物を吹き飛ばしているのだ。
魔物側は数に物を言わせて死角から攻撃を仕掛ける事も有り、併せてダンジョンの罠も巧みに使って勇者パーティーに攻撃をしているので、時折軽く勇者パーティーに攻撃が当たる事がある。
勇者パーティーが称号を得てからその力を完全に習得するまでの時間が無かったため、浅層でも攻撃を受けてしまう事があるのだが、今は正に実践訓練とも言うべき状況になっているので、このまま侵攻して行けばその力を十全に使う事が出来るようになるだろう。
そんな浅層の攻撃を受ける事がある勇者一行だが、誰一人としてかすり傷すら負っていない。
実はイリヤが、各自に対して防御魔法をかけていたのだ。
城下町の防壁すら視認できない者達が、各自に付与されている防御魔法を認識できるわけもなく、それぞれの称号によって得た力によって傷を負わなくなったと思っている四人のメンバー。
体感で半日程度……五階層まで到着してしまった。
イリヤはただひたすら荷物を背負って勇者パーティーについて行き、時折グレイブ達が打ち漏らした魔物の攻撃は防御魔法でやり過ごしていた。
勇者パーティーは自分の力に酔いしれており、他人、そう、何の攻撃力も持たないイリヤについては一切考慮していなかったのだ。
イリヤが自らに防御魔法を施していなければ、一階層で既にイリヤは死亡していた。
そうなってしまっては勇者グレイブを陥れる作戦を遂行するための駒が無くなってしまう事に今更ながら気が付いた賢者ホルド、剣神ミア、聖盾ルナは、イリヤの無事な姿を見て安堵していた。
そんな三人の表情を見て、自分の心配をしてくれていると思う程イリヤはバカではない。
仮に本心からイリヤが心配なのであれば、侵入直後から自分の安全を守るための配置になるはずだからだ。
「今日はここで終わりにしておいてやろう。何もしていない荷物持ちは疲れていないだろうが、俺達はそうじゃないからな。国家の命運を担っているんだ」
「まったくですね。僕も荷物だけを運んでいたいですよ」
「無能は困る」
「そんなもんだろ?何て言ったって見習いだぜ?」
実際は浅層で細々とした攻撃を数多く受けていたこの四人……イリヤの防御魔法が無ければ毒によって体が麻痺し、既にここまで辿り着けていないと言う事実には気が付いていない。
その魔法防壁を、王都、そしてこの四人、更には自分に行使しているイリヤは疲労困憊なのだが、その魔法自体を認識できない勇者パーティーは、荷物を運んでいるだけで疲労困憊になる能無しと言う認識でいる。
だが、王都側では既に通常とは異なる事態に気が付いている者もいた。
特に王都の安全を担う立場にいる者は、通常よりも魔物の攻撃が弱っている事に違和感を持っていたのだが、ダンジョンへの逆侵攻が行われているせいで魔物の力が弱まっているものと解釈し、誰かに報告する事も無かった。
「お前!さっさと夕食の準備をしてくれ。全く気が利かないな。俺達は連戦で多少ではあるが疲れているんだ」
「ただ単に荷物を持っているだけなのですから、疲れた振りをするのは止めて頂きたいものですね」
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