20 / 63
(20)頼りない楔
しおりを挟む
褒賞によって強制的に互いを縛ると言う、命を懸けた作戦に対しては心もとない信頼関係になっているのだが、それほど深い溝が出来ていたグレイブ一行。
ルナとしても自分が離脱をすると、国王の言う称号持ちによる相乗効果が現れなくなる事を危惧して渋々ではあるが了承した。
戦力減の状態で魔王に勝利できるわけもなく、一人だけここに残っても魔王が襲い掛かってきた場合に対処できないので、了承する他ない。
「では、再度ダンジョンに潜む魔王討伐、任せたぞ」
国王の一言でこの場は解散となる。決行は五日後。
あまり時間をかけてしまうと、前回の勇者パーティーによる攻撃に対しての反撃がなされる恐れがあるからだ。
国王としては、ルナの言う事は嘘ではないと思っているが、討伐実績として魔核が存在している以上、浅くはないダメージを負っていると判断していた。
その傷が癒しきらない内には地上の侵攻はないだろうと考え、五日後の出撃としている。
その決定がなされた翌日、少しでも互いを理解するためにパーティーとしての行動をとるように指示されているので、全員が共に城下町にいる中で、唐突に聖女スサリナがこう述べた。
信頼感がないパーティーに一人放り投げられたような形になっているスサリナは、本当に何の気なしに思った事を口に出したのだ。
決して聖女としての立ち振る舞いを意識したわけではなく、何となく……
「では、私は本当の聖女として、見習いであった方の弔いを行いたいと思います」
聖盾ルナが帰還して魔王一行も無事であるとの情報は得ているが、聖女見習いのイリヤの無事は確認されていない。
つまりそう言う事だと理解しているので、形だけでも慰問しようと口にした。
立ち位置的に王女であるスサリナの言葉に反論する事も無く、勇者、賢者、剣神、聖盾も後に続いて行く。
寂れた場所に向かって進み、やがて古ぼけた教会が視界に入ると、五人の目に入ってきたのは古びた教会だけではなく、その周囲に列を作って並んでいる人々の多さだ。
「何故あれほどの人が並んでいるのでしょうか……ホルド様、何かご存じですか?」
「スサリナ様、申し訳ありませんが分かりません。以前はイリヤによって癒しを無償で行えていたとの事ですが、癒しの力を使える人材はイリヤと神父以外にはいなかったはずですので、神父一人ではあれほどの列は……炊き出しでもしているのかもしれませんね」
賢者ホルドの回答に、聖盾ルナも思ったままを口に出す。
「イリヤが戻っているんじゃねーか?」
あっさりとした感想だったのだが、自分が無事に地上に戻れて魔王も無事であれば、イリヤが無事でもおかしくないと考えた。
その言葉を聞いたスサリナは嬉しそうにする。
ルナの言う通りにイリヤが戻っていれば、全ての仕事をイリヤに押し付ける事が出来るし、自分自身の安全確保だけにその力を使える可能性が高いと思ったからだ。
ルナの発言を聞いたスサリナ以外はそのような事は一切思っておらずに、渋い顔をしている。
自分達の悪行が半ば公になっている中で、その被害者である聖盾ルナも加害者でもあるが、立場が立場であるのでこうして再び行動する事が出来ている。
だがイリヤだけは違う。本当の被害者だ。
平民であるが故に発言力、信頼性共に無いのだが、今の自分達の置かれた状況から考えると、火のない所に煙は立たぬと言われかねない。
先ずは、その不安を払拭する事が重要だと考えて黙ってスサリナの後に教会に入る。
入口に向かって長蛇の列ができているのだが、平民である者達は完全に無視……列を無視して中に入ったのだ。
彼らの見た目から高位の貴族である事は理解している教会の周囲で並んでいる人々は、内心舌打ちしつつも、何も文句を言わない。いや、言えない。
「神父!この列はなんだ!」
教会内部に入るなり、周囲を見回しつつも大声を張り上げる勇者グレイブ。
教会の中に入ると人々の列が三列になっており、その先にはベールをかぶった人物が治癒を行っているのは直ぐに理解できる。
既に周囲の状況から長蛇の列の原因は明らかだが、改めて神父に確認を求めると共に、イリヤの存在が無いかを確認しているのだ。
その声を聞いた神父ホリアスは、奥の方から勇者一行の前に進み出て来た。
「これはこれは、スサリナ様を始めとして……皆様どうなされましたでしょうか?」
神父は自分の娘と思っているイリヤを裏切り、剰え殺害しようとしたのが目の前の<勇者>一行であると知っているのだが、ここで騒ぎを起こすと民に被害が出る事を知っているので穏便に済ませようとする。
「癒し手はイリヤと貴方しかいなかったはずですが?あの三人はどうしたのですか?」
この勇者パーティーの頭脳とも言える賢者ホルドが、グレイブに代わって神父に質問する。
「今の所イリヤは帰ってきていないので、教会で活動する事は出来ていません。皆さんの方が良くご存じですよね?その惨状を理解して下さっている善意の協力者です」
ルナとしても自分が離脱をすると、国王の言う称号持ちによる相乗効果が現れなくなる事を危惧して渋々ではあるが了承した。
戦力減の状態で魔王に勝利できるわけもなく、一人だけここに残っても魔王が襲い掛かってきた場合に対処できないので、了承する他ない。
「では、再度ダンジョンに潜む魔王討伐、任せたぞ」
国王の一言でこの場は解散となる。決行は五日後。
あまり時間をかけてしまうと、前回の勇者パーティーによる攻撃に対しての反撃がなされる恐れがあるからだ。
国王としては、ルナの言う事は嘘ではないと思っているが、討伐実績として魔核が存在している以上、浅くはないダメージを負っていると判断していた。
その傷が癒しきらない内には地上の侵攻はないだろうと考え、五日後の出撃としている。
その決定がなされた翌日、少しでも互いを理解するためにパーティーとしての行動をとるように指示されているので、全員が共に城下町にいる中で、唐突に聖女スサリナがこう述べた。
信頼感がないパーティーに一人放り投げられたような形になっているスサリナは、本当に何の気なしに思った事を口に出したのだ。
決して聖女としての立ち振る舞いを意識したわけではなく、何となく……
「では、私は本当の聖女として、見習いであった方の弔いを行いたいと思います」
聖盾ルナが帰還して魔王一行も無事であるとの情報は得ているが、聖女見習いのイリヤの無事は確認されていない。
つまりそう言う事だと理解しているので、形だけでも慰問しようと口にした。
立ち位置的に王女であるスサリナの言葉に反論する事も無く、勇者、賢者、剣神、聖盾も後に続いて行く。
寂れた場所に向かって進み、やがて古ぼけた教会が視界に入ると、五人の目に入ってきたのは古びた教会だけではなく、その周囲に列を作って並んでいる人々の多さだ。
「何故あれほどの人が並んでいるのでしょうか……ホルド様、何かご存じですか?」
「スサリナ様、申し訳ありませんが分かりません。以前はイリヤによって癒しを無償で行えていたとの事ですが、癒しの力を使える人材はイリヤと神父以外にはいなかったはずですので、神父一人ではあれほどの列は……炊き出しでもしているのかもしれませんね」
賢者ホルドの回答に、聖盾ルナも思ったままを口に出す。
「イリヤが戻っているんじゃねーか?」
あっさりとした感想だったのだが、自分が無事に地上に戻れて魔王も無事であれば、イリヤが無事でもおかしくないと考えた。
その言葉を聞いたスサリナは嬉しそうにする。
ルナの言う通りにイリヤが戻っていれば、全ての仕事をイリヤに押し付ける事が出来るし、自分自身の安全確保だけにその力を使える可能性が高いと思ったからだ。
ルナの発言を聞いたスサリナ以外はそのような事は一切思っておらずに、渋い顔をしている。
自分達の悪行が半ば公になっている中で、その被害者である聖盾ルナも加害者でもあるが、立場が立場であるのでこうして再び行動する事が出来ている。
だがイリヤだけは違う。本当の被害者だ。
平民であるが故に発言力、信頼性共に無いのだが、今の自分達の置かれた状況から考えると、火のない所に煙は立たぬと言われかねない。
先ずは、その不安を払拭する事が重要だと考えて黙ってスサリナの後に教会に入る。
入口に向かって長蛇の列ができているのだが、平民である者達は完全に無視……列を無視して中に入ったのだ。
彼らの見た目から高位の貴族である事は理解している教会の周囲で並んでいる人々は、内心舌打ちしつつも、何も文句を言わない。いや、言えない。
「神父!この列はなんだ!」
教会内部に入るなり、周囲を見回しつつも大声を張り上げる勇者グレイブ。
教会の中に入ると人々の列が三列になっており、その先にはベールをかぶった人物が治癒を行っているのは直ぐに理解できる。
既に周囲の状況から長蛇の列の原因は明らかだが、改めて神父に確認を求めると共に、イリヤの存在が無いかを確認しているのだ。
その声を聞いた神父ホリアスは、奥の方から勇者一行の前に進み出て来た。
「これはこれは、スサリナ様を始めとして……皆様どうなされましたでしょうか?」
神父は自分の娘と思っているイリヤを裏切り、剰え殺害しようとしたのが目の前の<勇者>一行であると知っているのだが、ここで騒ぎを起こすと民に被害が出る事を知っているので穏便に済ませようとする。
「癒し手はイリヤと貴方しかいなかったはずですが?あの三人はどうしたのですか?」
この勇者パーティーの頭脳とも言える賢者ホルドが、グレイブに代わって神父に質問する。
「今の所イリヤは帰ってきていないので、教会で活動する事は出来ていません。皆さんの方が良くご存じですよね?その惨状を理解して下さっている善意の協力者です」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
122
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる