唇を隠して,それでも君に恋したい。

初恋

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ボクはオトコノコ。

ボクを包むフオンなウワサ。

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ードンッ


「たっ……」



眠たいからと目を擦り,いつもより皆の後方を歩いて移動していたタイミング。

思いがけない衝撃に,僕はつい反射的に顔を歪めた。

パッと顔をあげると,短髪の男が驚いたように僕を振り返る。



「あ,わりっ……っ……」



? なに?

わざとじゃないのはもう分かっていた。

注意を逸らしていたのは僕もだし,声をあげてしまったのは大袈裟な気もして申し訳ないと思う。

でも,お互いそれで終わればいいのに。

相手は"僕の顔"を見て,更に驚いた顔をした。

知らない人,の,はず。

だけど。



「お前って,え……百合川ゆりかわの」

「カズ? 何して……って余計なこと言うなって!! 違ったらかわいそーだろ」

「でもほんとだったら」

「メーワクかけんなっって」



ユリカワ。

って,何? 人? 誰?

僕が,何なの?

用がないなら僕,もう行きたいんだけど。 
 


「ごめんなー」



ああほら,敦が僕を見てる。

スズやリューも気付いて,足を止めていた。



「伊織,どした?」



スズが空気を敏感に感じ取って,相手の顔を見ながら寄ってくる。



「んー。わかんない。でもたぶん,なんでもない」



カズ。

名前と顔だけは,一応覚えておこうと思った。



「なにそれ~,なら早く行こーぜ」



三太にも急かされて,カズとその友達を見ながらまた歩き始める。

僕は外されない視線に眉を寄せながらも,どうせ人違いだろうと思っていた。

その"勘違い"が崩されたのは,HR前の掃除場所に向かった時。

リューとも敦ともスズとも別れて,トイレと言いながらサボる気満々の三太も置いて1人で向かった時だった。

僕は扉の向こうから聞こえた声に足を止める。



「なあもしかしていつもいる女顔の方。あいつって羽村 伊織とかいう名前だったりするか?」

「羽村? そんな名字だったけ」

「そーだよぉ。私中学一緒だったから知ってる。最近噂されてるよね~」

「そうそう」



僕の


「噂?」うわさ?



僕は扉に身を隠し,もう少しだけそうしていることにした。

もしかしたら,今朝のあいつも……

何かをどこかで聞いたのか。

マスクのさりさりとした感触に,僕はハッとする。

無意識に,唇を触っていた。



百合川ゆりかわ ひめとなー。ちょっと」

「え! なに?」

「デキてるってウワサ。でも……しかも姫の方がフラれたっぽいんだよねー~」



また,出た。

余程有名な人なんだろうか。

しかもよりにもよって僕とデキてるって,なんだそれ。

僕には女子と接触する機会すら殆んど無いのに,名前も知らない女子と噂されるなんて寝耳に水過ぎる。



「え,そうなの? デキててフラれたっつーか。告ったら突き飛ばされって聞いてるけど。なんか人に触られるの嫌がるとか」

「なにそいつむかつく~!! あの姫を捨てるだの突き飛ばすだの何様だって」



あぁ,最悪だ。

完全に出ていくタイミングを無くした。

このまま出ていけば,よくて睨まれ,悪くて突っかかられるに決まってる。

否定したいけど……

噂には多分色々混ざってる。

触られるのを拒否することは往々にあるし,僕はそれについて言及されるととても困る。

でも,それで他人を,ましてや女の子を突き飛ばしたりした事はない。

僕も何がなんだかよくわからないし,掃除場所を共有している他クラスの男女も,噂を回す割りにはよく分かっていなそうだった。

本人に話を聞いてみる……?

それはそれで,人に見られたら厄介だな。

こう言うときに限って三太もいないんだから,勘弁して欲しい。

三太なら能天気に突っ込んでいって否定してアリバイも証明してくれただろうに。

不本意だけど……

僕も掃除はあの人たちに任せてサボろう。

僕は程よく時間を潰して,教室へと戻った。

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