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「オレ、その調べって続けてみようかな。助手としてはここで出番なんじゃない? だよねっ」
「暇ないってあれだけぼやいといてなんでこんなことに手を出すんだ。いいの? つーか、やめなさいって。ろくな結果にならないの、見えてるすでに」
「気分転換だよ、気分転換。こんな経験がいつか役に立つかも知れないしィ」
楊枝をくわえてそっぽを向いてる。その姿は私の中で、某野球漫画の葉っぱの男、そして実在にして見慣れた男の姿に重なった。だからさ、つまり佐々木あんたって。
「煮詰まってるわけね(あんな話だろうと)。暇なんだ。手も足も出ないから」
「うわーん」
泣きまねかよ。
突っ伏して声をあげた佐々木は、すぐにぐぁばと起き上がり、
「こんなとこからの解決早道とか知らない? スランプの脱出法、小野里ちゃん」
「ないわ、そんなもん」
「修平先生の秘伝とか、見たことないってこたないでしょ」
「そんなとこからは本当に逃げちゃうもん。脱出の方向間違ってるんだって、あの人。佐々木も知ってるとーり、ほんとに逃げて戻ってこないだけ」
「先生はそれでもいいけどさ、アマチュア作家の場合、逃げたらそれきりだもんな~。誰も追ってきてくれないし。それがプロとの大きな違いなんだよね」
そうか? それでいいかな? 違いポイントは。どうも佐々木の言うことは、根っこからズレていると思う。
しかしそろそろこの現象にも慣れた私は、ツッコミ入れずに聞き流した。先があるなら先に進もう。あるとしてもろくなもんではないと思うけど。
「調べてみるって、それさ」
佐々木はつまらなそうな顔をした。反論、入れて欲しかったんだな、このヤロウ。
「修平の捜査の続きをやるってことだよね。修平を殴った犯人を突き止める、じゃなくて」
気にせず続けると、あきらめたらしい。今度は無理八十パーセントほどにてニヒルに笑い(うどんのどんぶり目の前にして)、
「根っこは同じだと思う? 小野里ちゃんは」
「そう、だなー。実際どんな恨みで殴り飛ばしに来るんだって思うんだよね、修平のことなんて。ジャーナリストじゃあるまいし、奇想天外小説読んで、作者を恨むってこと、ある? 現実取材して書くタイプの作品てよりは、かなり社会から浮いてる方だし、さっきみたいな妄想抱き系の犯人像のことは忘れてマジメに考えてみるに」
「あれも忘れるにはもったいないと思うけど。まぁ、じゃあさ、こんなのは? ミステリ特集本とかで酷評しちゃった作家の誰かとか、新世界ミステリ大賞で酷評しちゃったアマ作家の誰かによる天誅」
「プロなら修平ごときの評なんかに怯まないで欲しいし、アマなら殴るヒマがあったらもっと書いてなさいと思う」
「そうはいかないのが恨みつらみっしょ。おさまらないワケ、このままじゃ。会社でマジメに働きながら、疲れた体で必死になって書いた話をさ、現実に即していない人間が書けていないとかって言われちゃった男がね、許さねぇ、オレの世界を壊しやがって。おまえそのものを壊してやる! とかって向かって来る」
うーん。それなら。
「あり得なく、もない?」
「修平先生の自宅なんて本気で探したら見つかるじゃん。マニア系のHPとかでネタ振ったら誰かが教えてくれたりして、あ、そこで知り合った女子高生かなんかと恋に落ちたり、あぁじゃなくて、もう付き合ってる女に結婚を迫られてて、独身自由時代の最後の渾身を貶されたりとか、あ、こういうのは? 落選して、だけどまた手を加えて、と思ってるところに同じトリックを使った作品が出ちゃって、あの時西野さえ認めてくれていたら。あぁっ、思いついた! そのトリックをパクッたのは修平先生だってやつ! どうどう? これこんなん、すごいひねってない?」
「もうあんたも家に帰って書いてろ、いっそ」
「待って待って。メモメモッ。おぉ。同じスタートで話が四本も。新人賞殺人事件だな。短編集も良いよね、どうする?」
「どうもしない」
「献辞は小野里ちゃんに捧げるねん」
「滅法いらない」
ここにいても阿呆になるばかりだな。と気付くには遅ればせすぎている。食堂の大きな窓の向こうはそろそろ暗くなってしまっているし、うどんも食べたし情報も手に入れたし(ほぼ意味はないとしたって)、今度こそ帰るべきとこだ。
そもそもこんなこと、深刻に考えることなんてないんだと思えばいいんだよ。
殴りかかられたけど、修平は無事だったわけだし、まだ危険なら兄様がちゃんと護衛をつけるだろうし、私はもらったお金でうまいものでも手に入れて、テレビでも見ながらいつもの夜を過ごせばいーんじゃん。
と、かばんをつかみ立ち上がったとこで、ガラスの向こう、廊下を歩いている美人オーラの知人を見てしまった。
「あ」
「なにさ?」
立ったことには気付かなかったのに、声には反応して手を止めた佐々木も、私と同じ方向に目を向ける。
「あれ、石塚さん。あの白い服のヒト」
「おー、なるほど美人。お見舞い速攻じゃん」
「修平のとこに来たとは限らないけど」
「アレ、小野里ちゃんたら偶然主義者? 誰かの見舞いに来た病院に、も一人知人が入院してるなんて話がありますかい?」
「そんなに確率の低い偶然じゃないって。こんな町の病院なんだから」
重なる佐々木の反論(んな大したもんじゃないけども)に言い返そうと口を開いた私の頭を、よぎって騒いだ意見が一つ。
お見舞いなんて、どうして来るものでしょう。どうしてそんなに修平なんかに親切に?
「暇ないってあれだけぼやいといてなんでこんなことに手を出すんだ。いいの? つーか、やめなさいって。ろくな結果にならないの、見えてるすでに」
「気分転換だよ、気分転換。こんな経験がいつか役に立つかも知れないしィ」
楊枝をくわえてそっぽを向いてる。その姿は私の中で、某野球漫画の葉っぱの男、そして実在にして見慣れた男の姿に重なった。だからさ、つまり佐々木あんたって。
「煮詰まってるわけね(あんな話だろうと)。暇なんだ。手も足も出ないから」
「うわーん」
泣きまねかよ。
突っ伏して声をあげた佐々木は、すぐにぐぁばと起き上がり、
「こんなとこからの解決早道とか知らない? スランプの脱出法、小野里ちゃん」
「ないわ、そんなもん」
「修平先生の秘伝とか、見たことないってこたないでしょ」
「そんなとこからは本当に逃げちゃうもん。脱出の方向間違ってるんだって、あの人。佐々木も知ってるとーり、ほんとに逃げて戻ってこないだけ」
「先生はそれでもいいけどさ、アマチュア作家の場合、逃げたらそれきりだもんな~。誰も追ってきてくれないし。それがプロとの大きな違いなんだよね」
そうか? それでいいかな? 違いポイントは。どうも佐々木の言うことは、根っこからズレていると思う。
しかしそろそろこの現象にも慣れた私は、ツッコミ入れずに聞き流した。先があるなら先に進もう。あるとしてもろくなもんではないと思うけど。
「調べてみるって、それさ」
佐々木はつまらなそうな顔をした。反論、入れて欲しかったんだな、このヤロウ。
「修平の捜査の続きをやるってことだよね。修平を殴った犯人を突き止める、じゃなくて」
気にせず続けると、あきらめたらしい。今度は無理八十パーセントほどにてニヒルに笑い(うどんのどんぶり目の前にして)、
「根っこは同じだと思う? 小野里ちゃんは」
「そう、だなー。実際どんな恨みで殴り飛ばしに来るんだって思うんだよね、修平のことなんて。ジャーナリストじゃあるまいし、奇想天外小説読んで、作者を恨むってこと、ある? 現実取材して書くタイプの作品てよりは、かなり社会から浮いてる方だし、さっきみたいな妄想抱き系の犯人像のことは忘れてマジメに考えてみるに」
「あれも忘れるにはもったいないと思うけど。まぁ、じゃあさ、こんなのは? ミステリ特集本とかで酷評しちゃった作家の誰かとか、新世界ミステリ大賞で酷評しちゃったアマ作家の誰かによる天誅」
「プロなら修平ごときの評なんかに怯まないで欲しいし、アマなら殴るヒマがあったらもっと書いてなさいと思う」
「そうはいかないのが恨みつらみっしょ。おさまらないワケ、このままじゃ。会社でマジメに働きながら、疲れた体で必死になって書いた話をさ、現実に即していない人間が書けていないとかって言われちゃった男がね、許さねぇ、オレの世界を壊しやがって。おまえそのものを壊してやる! とかって向かって来る」
うーん。それなら。
「あり得なく、もない?」
「修平先生の自宅なんて本気で探したら見つかるじゃん。マニア系のHPとかでネタ振ったら誰かが教えてくれたりして、あ、そこで知り合った女子高生かなんかと恋に落ちたり、あぁじゃなくて、もう付き合ってる女に結婚を迫られてて、独身自由時代の最後の渾身を貶されたりとか、あ、こういうのは? 落選して、だけどまた手を加えて、と思ってるところに同じトリックを使った作品が出ちゃって、あの時西野さえ認めてくれていたら。あぁっ、思いついた! そのトリックをパクッたのは修平先生だってやつ! どうどう? これこんなん、すごいひねってない?」
「もうあんたも家に帰って書いてろ、いっそ」
「待って待って。メモメモッ。おぉ。同じスタートで話が四本も。新人賞殺人事件だな。短編集も良いよね、どうする?」
「どうもしない」
「献辞は小野里ちゃんに捧げるねん」
「滅法いらない」
ここにいても阿呆になるばかりだな。と気付くには遅ればせすぎている。食堂の大きな窓の向こうはそろそろ暗くなってしまっているし、うどんも食べたし情報も手に入れたし(ほぼ意味はないとしたって)、今度こそ帰るべきとこだ。
そもそもこんなこと、深刻に考えることなんてないんだと思えばいいんだよ。
殴りかかられたけど、修平は無事だったわけだし、まだ危険なら兄様がちゃんと護衛をつけるだろうし、私はもらったお金でうまいものでも手に入れて、テレビでも見ながらいつもの夜を過ごせばいーんじゃん。
と、かばんをつかみ立ち上がったとこで、ガラスの向こう、廊下を歩いている美人オーラの知人を見てしまった。
「あ」
「なにさ?」
立ったことには気付かなかったのに、声には反応して手を止めた佐々木も、私と同じ方向に目を向ける。
「あれ、石塚さん。あの白い服のヒト」
「おー、なるほど美人。お見舞い速攻じゃん」
「修平のとこに来たとは限らないけど」
「アレ、小野里ちゃんたら偶然主義者? 誰かの見舞いに来た病院に、も一人知人が入院してるなんて話がありますかい?」
「そんなに確率の低い偶然じゃないって。こんな町の病院なんだから」
重なる佐々木の反論(んな大したもんじゃないけども)に言い返そうと口を開いた私の頭を、よぎって騒いだ意見が一つ。
お見舞いなんて、どうして来るものでしょう。どうしてそんなに修平なんかに親切に?
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