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まぁ、石塚さんは他の誰も目指すことなく、修平のために訪れていた。私は二人のご歓談が終わるのを、廊下の端に立ちっぱなしで待っているのである。
もう三十分もこのままで、行き交う看護師さんたちの不審なまなざしは結構痛い。結構、容赦ないよね、看護士さんて。
ホントは少し先の給湯室から見張ると目立たないんだけど、そうするとドア前の巡査(だ、そうです)さんに見つかってしまうのだ。同じ不審と思われるんなら、警察さんより看護士さんの方がマシだと思う。ねぇ。
やっと病室のドアがスライドしたとき、私は角から一歩を踏み出した。なかなかこれは……、――佐々木じゃないけど、ちょっとイケてる。
そんなことを思ってしまい、踏み出した一歩を意識していた。(ちなみに佐々木はまだ食堂でプロットメモを続けていると思われし)
「あ」
「あ、石塚さん」
声は意外と上ずらない。私もなかなかの面の皮だ。こんな私に誰がした。
「お見舞いに来てくれたんですね。わざわざ、ありがとうございます」
「とんでもないです。ご心配でしょう」
「いいえー、スミマセン。人騒がせなんですよ、いつものことですけど」
何をやらせてもですけど。
「石塚さんは」
「はい?」
「修平がケガしたのって、どこで聞いたんですか? もしかしてもう、町中の噂だとか?」
「えぇ、本屋さんで店員さんたちが話していました」
「本屋さん。啓明堂です?」
「えぇ」
――なんだ、躊躇いもしない。怪しくない。
説明がついてしまった。この廊下の窓から今しも見えている啓明堂のご主人は、名高い噂主様なのである。病院にも出入りだから、顔見知りには事欠かないし、もちろん救急車の出入りにも敏感だ。
私も何度か自分のこの目で、サンダル履きで走っている王様の姿を目撃している。町の誰だかの一大事なら、時には家族より早く知っちゃってるという具合。
情報をゲットして店に戻った王様が、店員君たちに話しているのを聞いたんだろう。本屋ほど、たまたま居て不自然じゃない店ってないよね。
たまたまケーキ屋とか言ったら、甘いものが苦手なAがなぜその日は? みたいな展開もできるけど、本が嫌いなBでもCでも、本屋さんなら行くのだ、誰でも。
全然怪しくなくなってしまった。お見舞いに来る理由がない、わけじゃない。自分に責があるからお詫びに、だの、犯人だから首尾を確認、でなくたって、ただ知り合いだからお見舞いなんだよ。
お。
もしかして修平に好意を持ってくれちゃったなんてことは在り得ない? だから、見舞いはちょーチャンス?
いや、ちょー待て静佳、なんでそう計算づくなわけよ、女子高生が。ピュアピュア。好きなあの人が心配なのよっ。ねぇっ、女の子ですものねっ。
とかって、きらきら盛り上がってみたとこで、この人はそんな打算もピュアに持っていけちゃう、魔性の女だったんだっけと思い出す。
だけど絢子ちゃんは『つかっち』はヤメロと言っていたけれど、修平にならそんな女の方が良いくらいなんだから、いいんじゃないだろうか、これは。(←私も結構良くないと思う。この発想ってかなり)
「手紙、探せなくなってしまいましたね。石塚さん」
「……そうね」
「だけどもともと修平に任せておいても見つけたとは思えないし、石塚さんの損害は少ないと思います」
「そう、かしら」
不安げだ。未練がましげに病室を振り返ってみたりしている。
本当に修平を助けてくれる人間だと思っちゃっているんだろうか。見えているものは真実か? まるで嘘には見えないけれど、自分の判断に自信ない。
こんな時は思い切って、本人さんに訊いてみよう。
「石塚さんて、本当に脅迫されるかもなんて思っているんですか? 失くしたのってラブレターなんですか? もしヤバい内容の手紙なんだとしても、拾った人がみんな脅迫するわけないと思うんですけど。そんなに心配しなくても」
「水が紙を溶かしきるのには、どれくらいの時間が必要なのかしら」
「は。そりゃ紙の質にもよると思いますけど。トイレットペーパーならすぐだろうし、画用紙だったら時間かかりそう」
ってこれって、なんの話になったんだ?
「そんなことも考えてしまうの。書くべきじゃなかった。書いちゃいけなかったのよ、あんな手紙。あの日私はどうかしていて、血迷ってしまって、眠れなくて、ずっと。何かしないではいられなかった」
血迷……ったのか? 凄絶。ヒトは日常生活であまし簡単に血迷ったりはしないだろう。
「どうせなら渡したかったわ」
もう三十分もこのままで、行き交う看護師さんたちの不審なまなざしは結構痛い。結構、容赦ないよね、看護士さんて。
ホントは少し先の給湯室から見張ると目立たないんだけど、そうするとドア前の巡査(だ、そうです)さんに見つかってしまうのだ。同じ不審と思われるんなら、警察さんより看護士さんの方がマシだと思う。ねぇ。
やっと病室のドアがスライドしたとき、私は角から一歩を踏み出した。なかなかこれは……、――佐々木じゃないけど、ちょっとイケてる。
そんなことを思ってしまい、踏み出した一歩を意識していた。(ちなみに佐々木はまだ食堂でプロットメモを続けていると思われし)
「あ」
「あ、石塚さん」
声は意外と上ずらない。私もなかなかの面の皮だ。こんな私に誰がした。
「お見舞いに来てくれたんですね。わざわざ、ありがとうございます」
「とんでもないです。ご心配でしょう」
「いいえー、スミマセン。人騒がせなんですよ、いつものことですけど」
何をやらせてもですけど。
「石塚さんは」
「はい?」
「修平がケガしたのって、どこで聞いたんですか? もしかしてもう、町中の噂だとか?」
「えぇ、本屋さんで店員さんたちが話していました」
「本屋さん。啓明堂です?」
「えぇ」
――なんだ、躊躇いもしない。怪しくない。
説明がついてしまった。この廊下の窓から今しも見えている啓明堂のご主人は、名高い噂主様なのである。病院にも出入りだから、顔見知りには事欠かないし、もちろん救急車の出入りにも敏感だ。
私も何度か自分のこの目で、サンダル履きで走っている王様の姿を目撃している。町の誰だかの一大事なら、時には家族より早く知っちゃってるという具合。
情報をゲットして店に戻った王様が、店員君たちに話しているのを聞いたんだろう。本屋ほど、たまたま居て不自然じゃない店ってないよね。
たまたまケーキ屋とか言ったら、甘いものが苦手なAがなぜその日は? みたいな展開もできるけど、本が嫌いなBでもCでも、本屋さんなら行くのだ、誰でも。
全然怪しくなくなってしまった。お見舞いに来る理由がない、わけじゃない。自分に責があるからお詫びに、だの、犯人だから首尾を確認、でなくたって、ただ知り合いだからお見舞いなんだよ。
お。
もしかして修平に好意を持ってくれちゃったなんてことは在り得ない? だから、見舞いはちょーチャンス?
いや、ちょー待て静佳、なんでそう計算づくなわけよ、女子高生が。ピュアピュア。好きなあの人が心配なのよっ。ねぇっ、女の子ですものねっ。
とかって、きらきら盛り上がってみたとこで、この人はそんな打算もピュアに持っていけちゃう、魔性の女だったんだっけと思い出す。
だけど絢子ちゃんは『つかっち』はヤメロと言っていたけれど、修平にならそんな女の方が良いくらいなんだから、いいんじゃないだろうか、これは。(←私も結構良くないと思う。この発想ってかなり)
「手紙、探せなくなってしまいましたね。石塚さん」
「……そうね」
「だけどもともと修平に任せておいても見つけたとは思えないし、石塚さんの損害は少ないと思います」
「そう、かしら」
不安げだ。未練がましげに病室を振り返ってみたりしている。
本当に修平を助けてくれる人間だと思っちゃっているんだろうか。見えているものは真実か? まるで嘘には見えないけれど、自分の判断に自信ない。
こんな時は思い切って、本人さんに訊いてみよう。
「石塚さんて、本当に脅迫されるかもなんて思っているんですか? 失くしたのってラブレターなんですか? もしヤバい内容の手紙なんだとしても、拾った人がみんな脅迫するわけないと思うんですけど。そんなに心配しなくても」
「水が紙を溶かしきるのには、どれくらいの時間が必要なのかしら」
「は。そりゃ紙の質にもよると思いますけど。トイレットペーパーならすぐだろうし、画用紙だったら時間かかりそう」
ってこれって、なんの話になったんだ?
「そんなことも考えてしまうの。書くべきじゃなかった。書いちゃいけなかったのよ、あんな手紙。あの日私はどうかしていて、血迷ってしまって、眠れなくて、ずっと。何かしないではいられなかった」
血迷……ったのか? 凄絶。ヒトは日常生活であまし簡単に血迷ったりはしないだろう。
「どうせなら渡したかったわ」
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