能ある酉は、ひめかくす

黒猫子猫

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7・酉の習性

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 サキはホルスに浴室で手早く清められた後、早々に彼の寝室に連れ込まれ、夜通し愛された。朝、目が覚めても、サキはもう文句を言う気力も起きず、また毛布に包まったが、傍らに座るホルスは悠々としたものだ。

「お前は初心でもなんでもない。私の前では淫らなものだ」
「だ、れの……せ……っ」
「安心しろ。今後も私が隠し通してやる」

 にっこりと笑ったホルスに、サキは半泣きになった。

 サキの祖母は、孫に族長家を委ねて、国境に近いこの街に屋敷をかまえ、のんびりと隠居暮らしをしていた。近頃は足腰も弱くなって外出もままならず、買い物や用事の大半は使用人が担っていた。
 既にサキとホルスが婚約する事は族長から書簡で知らされていたが、公になる前に一度二人揃って挨拶をしたいと訪れていた。

 祖母は二人の婚約をとても喜んで――――何しろ嫁の行き先が無いのではと悩まれていた孫娘であったから尚更で――――婚約祝いに『藍玉』のブローチを贈ろうとした。

 かつて亡き夫から婚約に際して贈られた品で、宝石自体も古いせいか色が褪せ、周りの金具も脆くなっていたので、補修の為に店に預けていた。

 だが、使用人が仕上がった品を受け取って店を出ようとした矢先、店がディクトル達に襲われてしまった。彼らは店内の者はもちろん、客の持ち物まで取り上げた。使用人は受け取った品が主人にとって大切な品であることを知っていたから必死で抵抗し、その際に盗賊の顔を見てしまったのだ。

 騒ぎに気づいた警備兵が駆けつけてきた事で口封じされずに済んだものの、ブローチは奪われてしまった。

 思い出の品であっただけに祖母の心痛は大きく、事態を知ったサキとホルスは当然ながら盗賊達に激怒した。サキは祖父母の思い出の品を身に着けて、婚約披露の宴に出ると決めて支度もしていた。

 なんとしても無事に取り戻さなければならなかったし、それも急がれた。

 ブローチ自体は決して高価なものではなく、他の盗まれた宝石類からすれば、大きく見劣りする。盗賊達が捨ててしまう可能性もあった。

 盗賊達は一網打尽にし、ブローチも取り戻し、祖母にもホルスがその旨を知らせにいかせている。

 だから、サキは心置きなくホルスと結婚できるのだが、今からこうも嫉妬深く尚且つ熱烈に求められると、結婚してから身が持たない気がした。


 ようやく起き上がったサキは、真剣に悩んだ。

 既にホルスは、完璧に身支度を終えている。ディクトルに野暮と言われた男の影も形も無く、族長の右腕と言われて相応しいだけの風格のある男が立っていた。

 だが、そんな麗しい婚約者を前にして、サキは言わずにはいられない。

「ちょっと考え直したくなってきたわ……婚約の解消って、最近の流行りらしいわよね⁉ 知ってる?」
「存じておりますが、一方的に破棄されるのは女性と決まっています」

「だから、私を可哀想なお姫様にしてみてちょうだい。故郷から追放される事もあるんですって」
「追放……ですか。まさか、そんな……」

「好き勝手に出歩けるんでしょう? 何だか楽しそうじゃない!」

 サキは酉の一族の地以外、行った事が無い。何をやらかすか分からないから駄目だ、と族長が許さないのだ。
 だが、そんな兄よりも遥かに高い壁が、サキの前にはあった。

 ホルスは驚いたように彼女を見返したまま、真剣そのものの顔で答えた。

「姫様……私がそんな自由を一瞬たりとも貴女に与えてあげる訳がないじゃないですか」
「ひどいわ!」

「ああ、もしや流行りの台詞を言ってみたいのですか? 仕方ありませんね」

 くすくすと笑ったホルスは、再びがらりと口調を変えた。

「『お前との婚約は解消する、二度と顔を見せるな!』――――さあ、言ってみろ」
「な、なにを……」
「巷で流行っているという台詞だ。まあ、言ったところで、もう遅いがな」

 サキは頬を染めた。
 今更、結婚を止めるなど言えるはずがない。
 またしても言い負かされている事に気づき、それでも何か言ってやろうと考えていたが、ホルスの方が思考も口も早い。

「それに、そんな事を言われたら……私が面白い事になるぞ?」
「ひい⁉」
「どうする?」

 実に楽しそうに意地悪い笑みを浮かべられ、サキは何度も首を横に振った。

 言ったが最後、この男は酉ではない、何か違う生き物になる気がする。

「お前は一生、籠の鳥だ。都に戻ったら結婚式の準備を続けるぞ。初夜の練習も、引き続き毎日だ」
「それ、絶対いらないって言ってるのにいいいぃ!」

 絶叫した最愛の婚約者を見返して、ホルスはくすくすと笑った。

 この型破りな姫は昔から色々と騒動を起こすが、非常に情に厚い娘だったとホルスは思っていた。
 彼女の祖母が婚約祝いに贈ろうしていた藍玉は決して高価なものではなかったが、サキは値段よりも、祖父母の思い出の品を、何としても無傷で取り返したいと願っていた。

 物の真贋や価値を正確に見抜く確かな目を持ちながらも、本当に大切なものを彼女は見誤らない。

 兄の頭痛の種であろうが、臣下達の評価が低かろうが、ホルスは彼女が素晴らしいものを持つ女性だと思う。

 だから、誰にも渡したりはしない。
 彼女が逃げようとしても無駄である。

 酉の一族の鋭い爪は、仕留めた獲物を離さない。

【了】
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