騎士のオトナな秘密と新入りのオ××な秘密

黒猫子猫

文字の大きさ
3 / 24

他に好きな女がいる

しおりを挟む
 この短時間に、一体何が起こったのだ。アルベルトは訳が分からない。

「夜中にそんな悲鳴をあげるな!」

 疲れは最高潮で、アルベルトも堪忍袋の緒が切れそうになった。自分も十分大声を出しているというところまでもう頭が働かない。
 だが、このまま帰ったところを誰かに目撃でもされたら、自分はさながら押し入った暴漢である。通報されかねない。騎士団の恥だ。

 眉間の皺を押さえつつ仕方なく中に入って、ロディネの元に歩み寄った。

「おい、どうした」
「⋯⋯入りたくありません」
「ああ?」

 自分の家だろうと怪訝に思いつつ、視線を部屋に向ける。廊下の灯りだけだから何とも言えないが、人の気配はしないし、物音もしない。静かなものである。

 だが、ロディネが悲鳴を上げた理由はあるはずで、もしかして泥棒でも潜んでいたら大変だ。アルベルトは警戒しながら、室内の灯りをつけてみた。

 室内はお世辞にも広いとは言い難く、独り身用の部屋らしかったが、やはり整理整頓が行き届いていた。小さいながらも台所があり、居間にはソファーと丸いテーブルが置かれ、箪笥もある。ロフト付きの物件らしく、木製の梯子がかけられていた。

 部屋の隅まで行って上を見てみたが、寝床らしきものが置かれているだけで、誰かが潜んでいる様子はない。念のため掃き出し窓も見てみたが、鍵がしっかりかかっていた。

「誰もいないぞ」

 安全確認をしている間に、ロディネは手探りでソファーを探し当てて座っていたので、声をかけながら歩み寄ると、彼女はまたぽつりと呟いた。

「⋯⋯そう。独りぼっちなんです⋯⋯」
「別にそういう意味じゃないんだが⋯⋯」

 あまりに寂しそうに呟くものだから、アルベルトは焦る。見れば、ロディネは目に一杯涙をため、ぶるぶると身体を震わせていた。
 まずいことを言ったかと思ったが、その瞬間、彼女は勢いよく顔を上げて、きっと彼を見据えた。

「あなた、ちょっと、お座りください!」
「いや、俺はもう帰りたい――」
「お座りください!」
「⋯⋯分かったよ」

 勢いに呑まれて応じたは良いが、座る場所と言えば、ロディネの隣か、床である。

 一応同じ職場にはなるが、何の関係もない彼女の隣に座る事も憚られたが、さりとて床に座って、散々迷惑をこうむっている酔っ払いから見下ろされるのも気分が悪い。

 ロディネが手でペシペシと隣を叩き、ここに座れと言わんばかりであったので、アルベルトは小さくため息をついて、出来るだけ端に身体を寄せて座った。

「今度はなんだ」

 そう問いかけると、ロディネの目からぽろぽろと涙が落ちたのを見て、アルベルトはぎくりと身を固くする。

「どうして⋯⋯別れないといけなかったの!」
「何のことだ」
「とぼけないで! 私は納得したけど、実はしていないわよ!」

 ――――この女、もう嫌だ。今日は厄日か。

 心からそう思い、冷淡に返してあしらったのだが、ロディネはどこをどう見ても真剣そのものである。

「あー⋯⋯恋人と別れたのか?」
「ええ⋯⋯他の人がいいなんて⋯⋯ひどいわ! あんまりだわ!」
「そういう事もあるだろ」

 他に好きな女が出来た、というのは別れる理由ではよくあるものだ。ソファーの手すりには、どう見ても男物のジャケットがかかっているのが、ロディネ越しに見えた。

 どうやら彼女は、恋人に振られたばかりだったらしい。

 服はこの部屋に出入りしていた男の忘れ物といったところか。部屋に入った時に目について、思い出して泣いてしまったようだった。それは羽目も外して飲みたくもなるだろうと、アルベルトは少し同情する。しかも、ロディネはぽつぽつと漏らした。

「⋯⋯お金の事は良いのよ。本望だわ。三年間、私は本当に幸せだった」

 かなりの額を男につぎ込んで、貢いでいたらしい。その上、三年もの間だというから、かなりの入れこみようだ。これはちょっと意外でもあった。仕事ぶりは至って真面目だと聞いていたからだ。

「でも⋯⋯あの人と一緒にいる姿は⋯⋯見たくなかったわ⋯⋯」

 彼女が街で突然硬直し、家に帰るなり泣き出してしまった理由を察し、アルベルトは表情を和らげた。
 初対面の女性の部屋をあまり見るのは悪いだろうと思っていたが、どうしても視界に入る。整然とされた部屋ではあったが、所々小さな可愛らしい置物もあった。
 良い匂いがした。部屋に生活感はあるが、清潔で、整っている。
 もう疲れたから帰りたかったはずなのに、なんだか居心地がいい。見れば、顔だちは群を抜いて可愛らしく、身体も華奢だ。男達に絶賛されていただけある。

 彼女ならば男は放っておかないだろうし、また新しい恋ができるだろう。

 アルベルトは疲れた体に鞭打って、
「その内、もっといい奴が見つかる」
と、優しく声をかけたのだが、酔っ払いはきっと睨みつけてきた。まだ相当酔っているのか、視線は泳いでまったく合わないが、その大きな目は鋭い。

 しかも恩知らずな事に、怨みがましい声で詰ってきた。

「それはいつデスか!」
「あ?」
「いつなのよおおおお」
「お前は⋯⋯虎か」
「ええ、そうですよおお」
「訂正する。まずその酒癖を直せ⋯⋯聞いてるか?」

 うんざりしつつ声をかけたが、むせび泣く酔っ払いに何を言っても無駄だとすぐに悟り、天を仰いだ。

 疲れた。もういっそ、ここで寝るか。いや、だめに決まっているだろう。
 何を考えているんだ、俺は。よっぽど疲れているに違いない。

 こいつとあいつのせいだ。どうしてくれようか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

山賊な騎士団長は子にゃんこを溺愛する

紅子
恋愛
この世界には魔女がいる。魔女は、この世界の監視者だ。私も魔女のひとり。まだ“見習い”がつくけど。私は見習いから正式な魔女になるための修行を厭い、師匠に子にゃんこに変えれた。放り出された森で出会ったのは山賊の騎士団長。ついていった先には兄弟子がいい笑顔で待っていた。子にゃんこな私と山賊団長の織り成すほっこりできる日常・・・・とは無縁な。どう頑張ってもコメディだ。面倒事しかないじゃない!だから、人は嫌いよ~!!! 完結済み。 毎週金曜日更新予定 00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

完結·異世界転生したらアザラシ? でした〜白いモフモフでイケメン騎士たちに拾われましたが、前世の知識で医療チートしています〜

恋愛
ネットでアザラシを見ることが癒しだった主人公。 だが、気が付くと知らない場所で、自分がアザラシになっていた。 自分が誰か分からず、記憶が曖昧な中、個性的なイケメン騎士たちに拾われる。 しかし、騎士たちは冬の女神の愛おし子を探している最中で…… ※小説家になろう、Nolaノベルにも投稿しています ※完結まで毎日投稿します

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

恐怖侯爵の後妻になったら、「君を愛することはない」と言われまして。

長岡更紗
恋愛
落ちぶれ子爵令嬢の私、レディアが後妻として嫁いだのは──まさかの恐怖侯爵様! しかも初夜にいきなり「君を愛することはない」なんて言われちゃいましたが? だけど、あれ? 娘のシャロットは、なんだかすごく懐いてくれるんですけど! 義理の娘と仲良くなった私、侯爵様のこともちょっと気になりはじめて…… もしかして、愛されるチャンスあるかも? なんて思ってたのに。 「前妻は雲隠れした」って噂と、「死んだのよ」って娘の言葉。 しかも使用人たちは全員、口をつぐんでばかり。 ねえ、どうして?  前妻さんに何があったの? そして、地下から聞こえてくる叫び声は、一体!? 恐怖侯爵の『本当の顔』を知った時。 私の心は、思ってもみなかった方向へ動き出す。 *他サイトにも公開しています

ヒロインだと言われたって知るか!

ふにゃー
恋愛
乙女ゲームをしたことの無いヒロインに転生したら、どう生きるかって、悔いない様に生きるのよ! 恋愛フラグを折りながら、自分好みの男性を探します! 地位よりお金、格好良いにこした事はないけど、貧弱よりは鍛えられた体躯、だけど頭まで筋肉は要らない! 王子様を見たら、矯正力を恐れ、逃げる一択! 自由を愛する自分と一緒に歩いてくれる方を希望します! 恋愛に至るまで、凄く掛かる予定なので、ご自愛ください

堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
第零騎士団諜報部潜入班のエレオノーラは男装して酒場に潜入していた。そこで第一騎士団団長のジルベルトとぶつかってしまい、胸を触られてしまうという事故によって女性とバレてしまう。 ジルベルトは責任をとると言ってエレオノーラに求婚し、エレオノーラも責任をとって婚約者を演じると言う。 エレオノーラはジルベルト好みの婚約者を演じようとするが、彼の前ではうまく演じることができない。またジルベルトもいろんな顔を持つ彼女が気になり始め、他の男が彼女に触れようとすると牽制し始める。 そんなちょっとズレてる二人が今日も任務を遂行します!! ――― 完結しました。 ※他サイトでも公開しております。

処理中です...