騎士のオトナな秘密と新入りのオ××な秘密

黒猫子猫

文字の大きさ
13 / 24

見てはいけない

しおりを挟む
 ロディネは、アルベルトに手を引かれるまま夜道を歩いた。普段であれば人の目を気にするところであるが、今はそれどころではない。

 どうしよう、どうしたらいいだろうという事ばかりで頭はいっぱいである。だが、アルベルトの手はしっかりと握り締めてきていて、痛くはないが、解くことはできそうにない。

 離しては、いけないような気がした。

 ロディネは前を行くアルベルトの広い背中を見つめ、頬を薄っすらと赤く染める。この後の事は頭では理解していても、突然のことに対する緊張からか心臓の高鳴りが止まらない。

 でも、嫌ではなかった。
 本当に、嬉しかったのだ。

 だから、ロディネは本当に今、泣きたかった。出来る事なら、今朝に戻ってやり直したい。
 せめて、着替えて出直したかった。

 ――――なんで、よりにもよって⋯⋯今日、この下着を着ちゃったのかしら⋯⋯!

 この短い間で、何度そう嘆いたか分からない。

 朝、アルベルトを更に待たせてはいけないと慌てて着替えをしたのだが、焦るあまり、下着にまで注意が向かなかった。
 結果、上下が色もデザインも違う上に、下に至っては全くと言っていい程色気のない、地味な代物だった。これをアルベルトに見られたら、全くやる気を感じられないと呆れられやしないだろうか。

 かといって、往来で話せるような内容ではない。

 半べそをかいている間にも、大きな建物へとついてしまった。閑静な高級住宅地の一角にあった、二階建ての集合住宅だったが、玄関らしき扉はなんと四か所しかない。

 上と下の階にそれぞれ二軒ずつ入っているといったところだろう。外観からして一軒に割り当てあれる部屋の広さを察することができる。
 以前、アルベルトの家の鍵を見た事があるが、納得してしまうようなお家である。

 アルベルトは外階段へと向かい登り始めたが、やっぱりロディネと手を繋いだままだ。家の扉を前にして、鍵を開けなければならなかったから、そこで初めて離した。

 扉を開けて、先に中へと入ると、玄関の灯りを点す。そして、立ち尽くしているロディネを見返して、
「入れよ」
と、促した。

 ここまで来ると、ロディネももう色々と覚悟を決めるしかない。小さく頷いて、中へと足を踏み入れると、アルベルトが手を伸ばして扉を閉めた。

 背後から鍵が閉まる音が聞こえて、ロディネは俄かに緊張したが、そんな彼女を見つめたアルベルトは、こらえきれずに抱きしめた。

「もう、帰るなんて⋯⋯言わないよな?」
「⋯⋯は⋯⋯い」

 なんとかロディネが声を絞り出して返事をすると、アルベルトは微笑んで、軽く頭の上にキスを落とし、部屋の中に招き入れた。


 小半時後、ロディネは自分の家の倍はあろうかと言う広さの居間で、相変わらず苦悩していた。
 いかにも高価そうな大きなソファーは座り心地は抜群に良かったが、全く落ち着かない。ローテーブルの上には、アルベルトが用意してくれたお茶があったが、喉を通らない。

 アルベルトは先にお風呂に入らせてくれたが、脱衣所でロディネは改めて、残念な自分の下着を見てしまったのだ。
 もういっそ、先に脱いでおきたいくらいだったが、それはそれで彼にどう思われるか分からない。

 着替えも持ってきていなかったので、色気の欠片もない下着を身に着けるしかなく、アルベルトが風呂から出てくるのを待っている次第である。

 ロディネは半泣きになり、現実逃避よろしく、室内へと目を向けた。

 統一された高級そうな家具が揃い、無垢材が使われているという床には傷一つない。外観からして、まだ新しい家だったが、室内も整然としているので、より美しく見える。

 兄の部屋は本当に汚くて、男の汗の臭いが充満していることもあったので、これもまた意外だ。あまりに綺麗なものだから、ロディネは自分がまるで場違いなような気がして落ち着かない。

 それもあって風呂から出て、ソファーに座ってから動けなくなっていたわけだが、アルベルトが居間へと戻って来て、彼を見返した瞬間、飛び上がりそうになった。

「あ、あの⋯⋯っ⁉」

 声はどうしても上ずった。
 アルベルトは下に黒のトラウザーズこそ穿いていたが、上の白いシャツは羽織っただけで、前のボタンを止めていなかった。そのため、鍛え抜かれた裸体の一部がもう既に見えている。

 真っ赤になったロディネに、アルベルトは彼女が言わんとすることを察し、くすりと笑った。

「すぐに全部、見ることになるんだぞ?」

 艶然と笑うアルベルトは、街中を出歩いていた時とあまりに違った。男の色香にあてられて、ロディネはよくぞ自分が正気を保てたと思いつつ、彼とは真逆の自分に絶望する。

 ――――本当に、私はどうしたらいいのかしら。

 思考停止寸前のロディネが固まっているのを見返したアルベルトは、自分が風呂に入る前に淹れたお茶が手つかずで残っているのも見て取った。
 このままここで時間を費やしても、ロディネの緊張は取れないだろうと理解する。

「立てるか?」

 歩み寄り、手を差し伸べる。ロディネが躊躇いつつも伸ばしてきた手を、アルベルトは再び握り締めた。そして、そのまま奥の部屋へと――――寝室へと連れて行った。


 アルベルトの家は寝室もまた広く、彼自身が長身ということもあってか、大きなダブルベッドが置かれていた。
 そこに寝かされたロディネは、柔らかな感触と洗い立てのシーツの良い香りに一瞬気が緩んだが、アルベルトに頬へキスをされて、再び硬直する。

 天井の灯りは消えたままだったが、悲しい事に、ベッドの傍に灯りがつけられたせいで、全て見えてしまう状況である。

「あ⋯⋯灯りを⋯⋯っ」
「消したら見えないだろ」

 ロディネと付き合って一か月。ようやく彼女に触れられると、アルベルトは完全に火がついている。
 真っ赤になっている初心な彼女が愛らしくて、額や頬へのキスが止まらなくなっていた。

 ――――消さないと見えてしまうんです⋯⋯!
 という、ロディネの嘆きは届かない。

 もうこうなったら、最終手段にでるしかない。

 ロディネは悲壮な決意を固めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

彼は政略結婚を受け入れた

黒猫子猫
恋愛
群島国家ザッフィーロは臣下の反逆により王を失い、建国以来の危機に陥った。そんな中、将軍ジャックスが逆臣を討ち、王都の奪還がなる。彼の傍にはアネットという少女がいた。孤立無援の彼らを救うべく、単身参戦したのだ。彼女は雑用を覚え、武器をとり、その身が傷つくのも厭わず、献身的に彼らを支えた。全てを見届けた彼女は、去る時がやってきたと覚悟した。救国の将となった彼には、生き残った王族との政略結婚の話が進められようとしていたからだ。 彼もまた結婚に前向きだった。邪魔だけはするまい。彼とは生きる世界が違うのだ。 そう思ったアネットは「私、故郷に帰るね!」と空元気で告げた。 よき戦友だと言ってくれた彼との関係が、大きく変わるとも知らずに。 ※関連作がありますが、これのみで読めます。 ※全13話です。

【完結】 「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります

廻り
恋愛
羊獣人の伯爵令嬢リーゼル18歳には、双子の兄がいた。 二人が成人を迎えた誕生日の翌日、その兄が突如、行方不明に。 リーゼルはやむを得ず兄のふりをして、皇宮の官吏となる。 叙任式をきっかけに、リーゼルは皇帝陛下の目にとまり、彼の侍従となるが。 皇帝ディートリヒは、リーゼルに対する重大な悩みを抱えているようで。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

処理中です...