辺境の娘 英雄の娘

リコピン

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第一章 

5-1.

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5-1

ユニファルアが学校を去ってから三ヶ月が過ぎた。高位貴族の彼女の取り巻きだった者達はしばらく混乱の内にあったが、それもやがては静まり、学内には平時と変わらぬ時が流れていた。

サリアリアを誹謗ひぼうする噂も、その発信源とされた一人が突然消えたことで、様々な憶測をよびながらも一応の終息をみせた。

そうした中、サリアリアに関して新たに一つの噂が流れた。曰く、「サリアリア・アンブロシアが階段から突き落とされ、大怪我を負った」と。

しかしそれも、その信憑性のなさから悪意あるいたずら、デマの類いとして、多くのものが静観するに留まった。

が、ことここに来て、そこに新たな情報が加わることになる。

―サリアリア・アンブロシアが学校に来ていない

早々に、少なくない数の学生がこの状況を認めることとなる。サリアリアの周囲は、その本人も含めて非常に目立つ集団である。常にその中心にある少女の不在に、学内がまた騒がしくなり始めた頃―

「ヴィアンカ・ラスタード、君に呼び出しだ。ついてこい」

校内を歩いていたところを呼び止める冷ややかな声。銀縁の眼鏡の奥からのぞく怜利な瞳に浮かぶは、暗い憎悪のほむろか。黒目黒髪の長身がこちらを睥睨へいげいする。

「…呼び出しとは?何の用だ?」

このタイミング、常にサリアリアの傍にある、宰相家の麒麟児―クレスト・ハインシュタック―みずからの呼び出しとあっては、面倒ごとは避けられそうにない。事前通告が無いことを理由に断ってしまいたいところだが―

「副校長がお呼びだ。彼の執務室まで出頭しろ」

言うだけ言うと、背を向けて歩き出してしまう。士官学校の最高権力者からの呼び出しから逃げるのも、後々面倒を呼ぶことになりそうだ。ならば、面倒ごとはさっさと終わらせてしまうに限る。

―こちらを気にする気配のない背を追って、一歩踏み出した。




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