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第二章 召喚巫女、領主夫人となる
26.夫婦の会話
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「と言う訳で、セルジュは今や男子生徒のカリスマです。」
「…」
夕食の席、向かいあって座るセルジュに語って聞かせた「今日の出来事」、締めの言葉は、勿論、彼への感謝の言葉。
「ありがとう、…子ども達に話をしてくれて。」
「いえ、私は何も…。彼らに学ぶ場を与えたのは、アオイ、あなたですから。」
「いやー、それはどうだろうねぇ…?」
(セルジュならそう言うだろうなーとは思ってたけど…)
正直、発案は私でも、それを形にしたのはセルジュだというのはどっからどう見ても疑いようのない事実。ただ、それを口にすると、セルジュが困った顔をするから─
「あ。そう言えば…」
「?」
「セルジュ、義務教育導入、最初は自分でやるって言ってたよね?」
「…はい。…今にして思えば、アオイの意志を妨げるような、」
「ないないない。」
どちらかと言うと尊重され過ぎて、たまに「あれ?」って思うくらいなのだ。
「どうやっても、それはないから安心して。」
「…」
「ただ、セルジュはどういう風に始めるつもりだったのかなーって、今更だけど気になっただけ。」
自分で始める前に参考にでも聞いておけば良かったものを、始めた当初は出来るだけ自分でと、多少、意地になっていた部分もあった。今なら、今後の参考のためにもと素直に思えるから、その疑問を口にする。
「場所とかお金とか、どういう風にクリアするつもりだった?」
「場所は…」
「うん。」
「領主館の一部を改装する予定でした。」
「え…?」
「執務棟には未使用の部屋も多いですから、それらを子どもらに開放すれば良いかと。」
「…」
セルジュの言葉に、セルジュの言う「執務棟の空き部屋」を脳裏に思い浮かべてみる。私の記憶違いでなければ、各部屋は、それこそ外からの来客の目に触れても問題の無いよう、一目で高級と分かる内装で調えられていたはず。とてもではないが、色んな意味で元気いっぱいなあの子達を招き入れるのは─
チラリと、部屋の隅、控えてくれているエバンスに視線を向けてみる。
「…」
「…」
無言で首を振られた。
(…ですよね。)
「…ちなみに、先生は誰に頼むつもりだったの?」
「一先ずは、私の空き時間を利用するつもりでいました。」
「…え?」
「開始から多くの子どもを集めることは難しいと考えていましたので、先ずは何人かを育て、軌道に乗れば、年長の子が年下を教えるという形に持っていく想定でした。」
「…それは、また…」
気の長い話。軌道に乗るまでというけれど、一体どれだけの間、領主と教師の二足の草鞋を履くつもりでいたのか。
(…ただでさえ激務なのに。むしろ、その仕事量を減らしたいって思ってるのに。)
本末転倒なセルジュの案に、小さく首を振る。
「…えーっと、それで、ちょっと聞くのが怖いんだけど、運営資金は?どうやって?」
「…アンブロスの、」
「はい!アウト―!!」
「…いえ、領の収入ではなく、家の収入の一部を、」
「どっちもダメ!身銭切り過ぎ!」
「…ですが、アオイも、学校設立にアオイ自身の資産を使って…」
「あれはいいの!あぶく銭というか、いつまでも持ってたいお金じゃなかったから!」
報奨金と言う名の慰謝料など、さっさと使ってしまった方がいいに決まっている。そういう意味では、最適な使い方をしたと自負しているくらいだ。
「だけど、家のお金は駄目でしょー?運営資金だよ?ずっと、節約生活でもするつもりだったの?」
「…食費などは、削る余地が十分に、」
「駄目ー!!セルジュがそんなこと言ったら、泣いちゃうよ!ベティさん、泣いちゃうからね!」
「…」
元から食の細いらしいセルジュに、あれやこれやの手で量を食べさせようと苦戦しているらしい料理長のベティさん。今も、目の前に並べられた料理はどれもこれも美味しそうなものばかり。勿論、王宮で出されていたような食事に比べれば、原価は違うんだろうけど、それでも、毎食飽きさせないようにという彼女の工夫が感じられる。
だというのに─
「…」
「…」
思わず、給仕の皆さんと視線を交わす。先ほどのエバンスより、よほど必死で首を振られた。
(…っ!良かった…!)
今更だけど、「自分でやる」って言って、本当に良かった!
どうやら、屋敷中を敵に回すところだった危機を、知らぬ間に回避出来ていたらしい。ホッとして、心に誓った。これからはセルジュの話は事前にちゃんと聞いておこうと。
「…」
夕食の席、向かいあって座るセルジュに語って聞かせた「今日の出来事」、締めの言葉は、勿論、彼への感謝の言葉。
「ありがとう、…子ども達に話をしてくれて。」
「いえ、私は何も…。彼らに学ぶ場を与えたのは、アオイ、あなたですから。」
「いやー、それはどうだろうねぇ…?」
(セルジュならそう言うだろうなーとは思ってたけど…)
正直、発案は私でも、それを形にしたのはセルジュだというのはどっからどう見ても疑いようのない事実。ただ、それを口にすると、セルジュが困った顔をするから─
「あ。そう言えば…」
「?」
「セルジュ、義務教育導入、最初は自分でやるって言ってたよね?」
「…はい。…今にして思えば、アオイの意志を妨げるような、」
「ないないない。」
どちらかと言うと尊重され過ぎて、たまに「あれ?」って思うくらいなのだ。
「どうやっても、それはないから安心して。」
「…」
「ただ、セルジュはどういう風に始めるつもりだったのかなーって、今更だけど気になっただけ。」
自分で始める前に参考にでも聞いておけば良かったものを、始めた当初は出来るだけ自分でと、多少、意地になっていた部分もあった。今なら、今後の参考のためにもと素直に思えるから、その疑問を口にする。
「場所とかお金とか、どういう風にクリアするつもりだった?」
「場所は…」
「うん。」
「領主館の一部を改装する予定でした。」
「え…?」
「執務棟には未使用の部屋も多いですから、それらを子どもらに開放すれば良いかと。」
「…」
セルジュの言葉に、セルジュの言う「執務棟の空き部屋」を脳裏に思い浮かべてみる。私の記憶違いでなければ、各部屋は、それこそ外からの来客の目に触れても問題の無いよう、一目で高級と分かる内装で調えられていたはず。とてもではないが、色んな意味で元気いっぱいなあの子達を招き入れるのは─
チラリと、部屋の隅、控えてくれているエバンスに視線を向けてみる。
「…」
「…」
無言で首を振られた。
(…ですよね。)
「…ちなみに、先生は誰に頼むつもりだったの?」
「一先ずは、私の空き時間を利用するつもりでいました。」
「…え?」
「開始から多くの子どもを集めることは難しいと考えていましたので、先ずは何人かを育て、軌道に乗れば、年長の子が年下を教えるという形に持っていく想定でした。」
「…それは、また…」
気の長い話。軌道に乗るまでというけれど、一体どれだけの間、領主と教師の二足の草鞋を履くつもりでいたのか。
(…ただでさえ激務なのに。むしろ、その仕事量を減らしたいって思ってるのに。)
本末転倒なセルジュの案に、小さく首を振る。
「…えーっと、それで、ちょっと聞くのが怖いんだけど、運営資金は?どうやって?」
「…アンブロスの、」
「はい!アウト―!!」
「…いえ、領の収入ではなく、家の収入の一部を、」
「どっちもダメ!身銭切り過ぎ!」
「…ですが、アオイも、学校設立にアオイ自身の資産を使って…」
「あれはいいの!あぶく銭というか、いつまでも持ってたいお金じゃなかったから!」
報奨金と言う名の慰謝料など、さっさと使ってしまった方がいいに決まっている。そういう意味では、最適な使い方をしたと自負しているくらいだ。
「だけど、家のお金は駄目でしょー?運営資金だよ?ずっと、節約生活でもするつもりだったの?」
「…食費などは、削る余地が十分に、」
「駄目ー!!セルジュがそんなこと言ったら、泣いちゃうよ!ベティさん、泣いちゃうからね!」
「…」
元から食の細いらしいセルジュに、あれやこれやの手で量を食べさせようと苦戦しているらしい料理長のベティさん。今も、目の前に並べられた料理はどれもこれも美味しそうなものばかり。勿論、王宮で出されていたような食事に比べれば、原価は違うんだろうけど、それでも、毎食飽きさせないようにという彼女の工夫が感じられる。
だというのに─
「…」
「…」
思わず、給仕の皆さんと視線を交わす。先ほどのエバンスより、よほど必死で首を振られた。
(…っ!良かった…!)
今更だけど、「自分でやる」って言って、本当に良かった!
どうやら、屋敷中を敵に回すところだった危機を、知らぬ間に回避出来ていたらしい。ホッとして、心に誓った。これからはセルジュの話は事前にちゃんと聞いておこうと。
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