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第三章 領主夫人、王都へと出向く

11.夢の名残

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夢を見ていた─

久しぶりに見る元の世界の夢。召喚される直前に歩いていた夜の繁華街、最後に見た風景の中を、フラフラと彷徨い歩く。

それが夢だと分かったのは、流れる風景に違和感を感じたから。知っているはずの町並みを歩きながら、知らない場所に身を置く心元無さを感じていた。夢特有の思い通りにならない身体。夜の街を、ただ当てもなく─

「っ!?」

「…アオイ?」

「っ!セル、ジュ…」

暗闇の中、跳ね起きたベッドの上。包まっていた毛布をはねのけてしまったせいで、隣、並んで寝ていたセルジュを起こしてしまったらしい。

「…ごめん、こんな夜中に。」

「問題ありません。そんなことより、アオイ?どうしたのですか、何か…?」

「…うん。私、私…」

夢を見ていた─

「っ!」

「アオイっ!?」

堪え切れずに溢れ出した涙、突如決壊して、泣き声が漏れた。

「アオイ、アオイ…!」

伸ばされた手、抱きしめてくれる温もり。強く強く抱きしめられて、余計に涙が止まらなくなる。声を上げて泣いた。

「私、私、夢を見たの…、元の世界の夢…!」

「っ!」

抱きしめるセルジュの腕の力が強まる。その腕の中で、必死に首を振った。

「夢だった…!起きたら、夢で、隣にセルジュがいて…、それで、私…!」

「…」

「…ホッとしたの…!夢だったって、夢で、良かったって…!」

「…アオイ?」

抱きしめる腕の力が緩む。体を離され、顔を覗かれそうになって、下を向いて首を振る。

「違ったの、…前は、王宮に居た頃は、目が覚めたら夢で、それが、苦しくて悲しくて、もう帰れない現実が怖くて…!」

たった二年前のこと、それが今はこんなにも─

「…アオイ、顔を見せてください。」

「セルジュ…」

言われて顔を上げる。

暗闇の中、こちらへ向けられる視線を感じるけれど、

「セルジュ、セルジュ、あのね…」

止まらない涙に視界がかすむ。

「私が居たい世界、いつの間にかこっちだったみたい。」

涙を手で払った。

「私、セルジュが好き。」

「っ!?」

「アンブロスが、アンブロスの皆が好き。」

「アオイ…」

「もし、さっきの夢が本当に叶うとしても、きっと、迷って迷って、それで、結局、こっちの世界、セルジュの隣を選ぶと思う。」

「…」

「いつか、もしかしたら後悔するかもしれないけど、でも…」

夢だと分かっていても、目覚めた瞬間のあの心からの安堵はもう誤魔化しようがない。

「…私、セルジュと一緒に居たい。」

「…」

ベッドの上、何も言わずに見つめ合う。見つめ合ったその人の瞳に光るもの─

「…なんで、セルジュが泣くの?」

「っ!…すみません、勝手に…」

「ううん。謝って欲しいんじゃなくて…」

手を伸ばす。頬を伝い、流れ落ちていくものに触れる。

知りたいのは、この涙の意味。

「セルジュ、セルジュは…」







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