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最終章 領主夫人、再び王都へ

11.理由

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「…ごめん、セルジュ。」

「いえ。アオイが無事であれば、何も問題はありません。」

「…いや、それは…。…うん、でも、ありがとう。」

アイシャが部屋から連れ出された後、王太子妃に事態を確認したいという王太子の命で、セルジュの待つ部屋へと戻された。案内したサキアが、あの場でのことに触れることはなかったので、自分の口から事の次第を説明したのだけれど、私の失態─主に、禁書の中身をベラベラしゃべってしまったこと─を、セルジュが責めることはなかった。

(…本当、申し訳ない。)

調子に乗ってしゃべり過ぎた。腹が立って、何がなんでも言い負かしてやりたくて─

(…反省。)

王太子に責められたら、そこは素直に謝罪しよう。失態を盾に無茶を言われたら、勿論、断るけれど。

悶々と考え続ける中、扉を叩く音がした。再び現れたサキアに案内され、セルジュと二人、王太子の待つ執務室へと向かう。








「…大方の話はシルヴィアより聞いた。彼女にも非はあるだろうが…」

部屋へ入室すると同時、頭を下げたこちらにかけられた王太子の言葉。その言葉に、更に頭を深くする。

「はい。禁書の内容を明かしたのは私ですから、私の失態でもあります。…申し訳ありませんでした。」

「…」

頭を下げるが、無言の返答に、そのままの姿勢をキープする。数拍の間があってから聞こえたため息。

「…アンブロス夫人、顔を上げてくれ。」

「はい…」

言われた通りに頭を上げ、チラリと周囲を見回す。数時間前、王都に着いて直ぐに連れてこられたのとほぼほぼ同じ状況。だけど、そこにない人の存在に、騒動の顛末を王太子に尋ねた。

「…あの、アイシャ様は…?」

「…」

「…何か、お咎めがあるのでしょうか?」

この場に居るはずのガイラスが居ないということは、恐らく、彼女に付き添っているということ。例え、あの錯乱が収まっているとしても、彼女を置いて、という訳にはいかないだろう。

(…何しろ、尊き御j身に掴みかかっちゃってるから…)

発端が、「ガイラスを身代わりにした」という私の発言だという事実が、ほんの少しだけ、罪悪感を生む。

「…シュティルナー夫人には、後日、改めて話を聞くことになっている。…夫人が落ち着くのに、多少、時間が必要だろうからな。」

「そう、ですか…」

頷いて、王太子がそれ以上は口にするつもりがない様子に、少しだけ躊躇ってから─

「あの。もし、私の証言も必要でしたら、」

「いい加減にしろっ!!」

「っ!?」

言いかけた言葉は最後まで言えぬまま、突如、部屋の奥から響いた怒声にかき消される。

声のした方へと視線を向ければ、憤怒の形相の男。アンバー・フォーリーンがフラリと立ち上がった。

「巫女!貴様の戯言などどうでもいい!そんなものにいつまでも付き合っていられるかっ!」

「…」

「とっとと用意をしろっ!最低限、召喚陣の経路くらいは理解できるようになれ!鈍い貴様が陣を理解するのにどれほどの時間がかかると思っている!?」

一方的に叫び続けるアンバー・フォーリーン、その瞳は、こちらの姿を映しているようで、どこか遠くを見ている。

「…私、王太子殿下の要請にお応えするとはまだ一度も、」

「五月蠅いっ!貴様の意志など聞いていない!貴様はただ、私に言われた通りに動けばいい!その魔力を私に寄こせっ!」

「…」

(…ちょっと、怖いんだけど…)

元から、こちらの話など一笑に伏して終わる男ではあったけれど、今は、こちらを「人」として認識しているのかどうかも怪しい。

話の通じそうにない男から視線を外し、目の前の王太子へと視線を向ける。少なくとも、アンバー・フォーリーンの防波堤にはなってくれそうだから。

「…殿下、要請のあった件ですが…」

「…ああ。」

僅かに、疲弊した様子。こちらの返答が既に分かっているのだろう、返す返事にも生気が感じられない。

(…でも、まぁ、こればっかりは…)

一つ、息を吸ってから、自身の結論を口にした。

「私は、クリューガー伯爵令嬢の救出に助力することは出来ません。」

「…そう、」

「っ!?貴様ぁああっ!!」

王太子の言いかけた言葉に被せるように響いたアンバー・フォーリーンの声。

「…アンバー、止せ。」

こちらに近づいて来ようとした男の動きを、王太子が制する。彼の言葉に、サキアがアンバー・フォーリーンの前へと立ち塞がった。そこで男が動きを止めたことを確認して、王太子が改めてこちらへと向き合う。

「…アンブロス夫人、理由を聞いてもいいだろうか?」

「え…?」

「あなたが助力を断る理由。…禁書の閲覧を許可してなお、あなたがその結論に行きついた理由を聞かせて欲しい。」

「…」

(…びっ、くりしたぁ…)

まさか、理由を聞かれるとは思っていなかった。

王太子妃やアンバー・フォーリーンのように、頭ごなしに命じる、もしくは、取引条件を持ち出すだろうと考えていたのに。

(ちゃんと、理由、聞くんだ…)

それが当然と言えば当然だから、こちらの感覚もだいぶおかしくなってしまっていたらしい。

(…まぁ、一応、誠意ある対応?ってことになるのかな?)

だったら、こちらも、それなりの対応をすべきだろう。

結論は変わらないし、こちらの「理由」を彼らが受け入れられるかは未知数だが─

「…私、夢を見たんです。」







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