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本編
18.逃亡 Side E
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「え!?ダ、ブルですか!?ツインじゃなくて!?」
ロートへの国外逃亡への途中、宿の受付で悲鳴を上げるステラに内心の笑いをこらえて、表情を取り繕う。
「…ダブルでは不満か?ロートまではまだかなりの距離がある。費用を抑えるという意味ではダブル、…譲歩してシングルをとるべきだと思うが…」
「譲歩してシングル!?」
「ああ。まぁ、何とかなるだろう?」
ステラは未だに気づいていないが、ステラの部屋での実績もある。より密着できるという意味では、シングルが最適だとは思うが、
「ダブルで!」
「…分かった。」
実際、譲歩なんて一切していない選択肢、混乱しているステラは気づいていないのか、案外、あっさり共寝を認めてしまった。目が泳ぎっぱなしの姿に込み上げる笑いは全てのみ込んで、
「…安心しろ。」
「っ!?」
耳元に落とした声、反射で伸びたステラの背に触れる。
「俺はお前の奴隷だ。お前の望まないことはしない。」
「っ!!」
「…望めば、何でもしてやる。」
「っ!?っ!?っ!?」
両手で耳を押さえたステラがこちらを振り仰ぐ、羞恥のためか、真っ赤に染まった顔で睨まれても、劣情を煽られるだけ。
結局、堪え切れずに笑いが零れた。
「っ!?」
「…ステラ?」
「っ!!っ!!」
「?」
何が彼女に止めを刺したのか、半泣きになりながら、何も言わずに逃走したステラ。借りた部屋の鍵を握り締め、二階への階段を駆け上がって行く。
(…やり過ぎたか?)
こちらの言葉一つ一つに反応するステラが面白くて、止め時を見失ってしまった。これはもう、部屋からの締め出しもあり得るなと思いながら追いかけた二階、部屋の扉はあっさりと開いたが─
「…ステラ?」
「…」
「何をしている?」
籠城先が見つからなかったのか、寝台の上に座り込み、頭から掛布をかぶるステラのうかつさに、多少、呆れながらも、その隣に腰を下ろす。
「…ステラ、悪かった。…顔を出してくれ。」
「無理。…今、心頭を滅却してるところだから。」
「いつになったら、顔を見せてくれる?」
「…エリアスが、半径一メートルに近づかないでくれたら。」
「それは、難しいな…?」
言って、ついでにステラを掛布ごと抱き込んでみた。腕の中、身を震わせたステラの柔らかさを堪能しながら、今後についてを口にする。
「…まぁ、じゃあ、このままでいいから聞いてくれ。」
「…」
「このあと、少し出て来るから、」
「なんでっ!?」
弾かれたようにこちらを見上げてくるステラ、弾みで掛布が落ちた。すがる視線に見上げられて、身の内が震える。
「…逃走資金が心もとないだろう?」
「それは…」
「その辺りで雑用でもこなして資金を稼いでくる。ロートまではまだ多少、距離があるからな。」
「…」
ステラの手が、こちらの服を握り締める。不安ゆえか、震えている指先を包み込んだ。
「…安心しろ、直ぐに戻ってくる。」
「…やだ。駄目。…だって、もし見つかったら…」
「追っ手がかかるにしても、まだ猶予はある。それに、追われるなら俺ではなくステラの方だろう?俺なら、」
「ダメダメ!だって、ミリセントに見られてるんだよ!?人目のあるところで働くなんて、絶対ダメ!」
「…それは、命令か?」
「っ!」
問いかけに、途端、ステラが黙り込んだ。どうやら、隷属、一方的な支配による命令に忌避を感じているらしいステラは、己の身を買っておきながら、決して「禁じる」ことをしようとしない。
(…「許可」系統の命令は全て出したのにな…)
おかげで、ステラを害する以外の大抵のことはステラの命なしで行えるようになってしまった。今ならば、ステラの元から逃げ出すことさえ容易い。これでは「奴隷」の意味などない気がするのだが─
「…命令、じゃなくて、お願い。…行かないで。」
「…分かった。」
泣きそうな顔で言われてしまえば、それ以上を乞うことは出来ずに嘆息する。
それでも、
(…早く、堕ちてこい…)
矜持も正義も何もかもを投げ捨てて、ただ己だけを求めるステラが見たい。
ロートへの国外逃亡への途中、宿の受付で悲鳴を上げるステラに内心の笑いをこらえて、表情を取り繕う。
「…ダブルでは不満か?ロートまではまだかなりの距離がある。費用を抑えるという意味ではダブル、…譲歩してシングルをとるべきだと思うが…」
「譲歩してシングル!?」
「ああ。まぁ、何とかなるだろう?」
ステラは未だに気づいていないが、ステラの部屋での実績もある。より密着できるという意味では、シングルが最適だとは思うが、
「ダブルで!」
「…分かった。」
実際、譲歩なんて一切していない選択肢、混乱しているステラは気づいていないのか、案外、あっさり共寝を認めてしまった。目が泳ぎっぱなしの姿に込み上げる笑いは全てのみ込んで、
「…安心しろ。」
「っ!?」
耳元に落とした声、反射で伸びたステラの背に触れる。
「俺はお前の奴隷だ。お前の望まないことはしない。」
「っ!!」
「…望めば、何でもしてやる。」
「っ!?っ!?っ!?」
両手で耳を押さえたステラがこちらを振り仰ぐ、羞恥のためか、真っ赤に染まった顔で睨まれても、劣情を煽られるだけ。
結局、堪え切れずに笑いが零れた。
「っ!?」
「…ステラ?」
「っ!!っ!!」
「?」
何が彼女に止めを刺したのか、半泣きになりながら、何も言わずに逃走したステラ。借りた部屋の鍵を握り締め、二階への階段を駆け上がって行く。
(…やり過ぎたか?)
こちらの言葉一つ一つに反応するステラが面白くて、止め時を見失ってしまった。これはもう、部屋からの締め出しもあり得るなと思いながら追いかけた二階、部屋の扉はあっさりと開いたが─
「…ステラ?」
「…」
「何をしている?」
籠城先が見つからなかったのか、寝台の上に座り込み、頭から掛布をかぶるステラのうかつさに、多少、呆れながらも、その隣に腰を下ろす。
「…ステラ、悪かった。…顔を出してくれ。」
「無理。…今、心頭を滅却してるところだから。」
「いつになったら、顔を見せてくれる?」
「…エリアスが、半径一メートルに近づかないでくれたら。」
「それは、難しいな…?」
言って、ついでにステラを掛布ごと抱き込んでみた。腕の中、身を震わせたステラの柔らかさを堪能しながら、今後についてを口にする。
「…まぁ、じゃあ、このままでいいから聞いてくれ。」
「…」
「このあと、少し出て来るから、」
「なんでっ!?」
弾かれたようにこちらを見上げてくるステラ、弾みで掛布が落ちた。すがる視線に見上げられて、身の内が震える。
「…逃走資金が心もとないだろう?」
「それは…」
「その辺りで雑用でもこなして資金を稼いでくる。ロートまではまだ多少、距離があるからな。」
「…」
ステラの手が、こちらの服を握り締める。不安ゆえか、震えている指先を包み込んだ。
「…安心しろ、直ぐに戻ってくる。」
「…やだ。駄目。…だって、もし見つかったら…」
「追っ手がかかるにしても、まだ猶予はある。それに、追われるなら俺ではなくステラの方だろう?俺なら、」
「ダメダメ!だって、ミリセントに見られてるんだよ!?人目のあるところで働くなんて、絶対ダメ!」
「…それは、命令か?」
「っ!」
問いかけに、途端、ステラが黙り込んだ。どうやら、隷属、一方的な支配による命令に忌避を感じているらしいステラは、己の身を買っておきながら、決して「禁じる」ことをしようとしない。
(…「許可」系統の命令は全て出したのにな…)
おかげで、ステラを害する以外の大抵のことはステラの命なしで行えるようになってしまった。今ならば、ステラの元から逃げ出すことさえ容易い。これでは「奴隷」の意味などない気がするのだが─
「…命令、じゃなくて、お願い。…行かないで。」
「…分かった。」
泣きそうな顔で言われてしまえば、それ以上を乞うことは出来ずに嘆息する。
それでも、
(…早く、堕ちてこい…)
矜持も正義も何もかもを投げ捨てて、ただ己だけを求めるステラが見たい。
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