【完結】いつだって二人きりがよかった

ひなごとり

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高校生の二人

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 約束の土曜日。ほとんど電車が通らない目的地の近くの駅で待ち合わせをし、そこから少し歩いた先にあるバス停から二人はバスに乗って目的地に向かった。あまり人が来ないのか、駅からの乗客は未雲と柊明の二人だけだった。
「結構山の上の方まで行くんだね」
 ガタガタ揺れる車内で、柊明が興味津々に窓の外を眺める。
「じゃなきゃ星が綺麗に見えないからな」
「まあそうか。家の近くじゃ夜でも明るくて見えないもんね」
「そろそろ着くはずだけど……あ、建物見えた」
「わあ、思ったより大きいね」
「プラネタリウムって言ったけど、本当は星専門の資料館って感じ。二階には本も沢山置かれてた気がする」
 そうこう話しているとバスは停まり、ついに目的地に辿り着いた。
 交通系ICカードが使えない車両のため柊明が手間取っていると、バスの運転手は「慌てんでいいよ」と終始優しく見守っている。
「あんまりバスの本数無いから帰りは気をつけるんだよ」
「はい、ありがとうございます」
 愛想のいい柊明に気を良くしたのか運転手は笑顔でこちらに手を振り、そのままバスは発車していった。
「待たせてごめんね」
「いいよ、俺も先に言えば良かった」
 資料館に足を踏み入れる。受付にはおじいさん一人、それ以外に人は誰もいないようだった。静かな空間に少しだけ緊張感が増す。受付でプラネタリウムのチケットを購入して挨拶もそこそこにチケットを受け取ると、柊明は待っていたように未雲の手を握った。
(――まただ)
 水族館の時もそうだったが、柊明は暗いところや静かなところに対して人より敏感なようだった。本人が言った訳でも、未雲が直接聞いた訳でもない。ただそう見えるだけ。だから未雲は未だに手を繋ぐという行動の意味も、その真意も聞けずにいた。未雲が現状分かってやれるのは、手を繋ぐという行為は柊明にとって何かしら特別な意味がある……ということだけだ。普段ならばすぐにでも振り解きたくなるが、今は正真正銘ふたりきりで、自分たちを知る目線もないから特に何も言わず許容した。
「プラネタリウムの上映時間決まってるみたいだけど、それまでどうしよっか」
「変わってなければ一階は展示室とプラネタリウムがあって、二階は図書室と休憩室かな」
「じゃあ展示室見ようよ!」
 言うが早いか柊明に引っ張られる形で二人して小さな展示室へと中へ入っていく。
 未雲にとってここに来るのは随分久し振りだが、展示内容は朧げながらも見覚えのあるものだった。昔ここに落ちたらしい隕石、その逸話を映像にして流している画面、この地域で見ることの出来る星座を並べたパネルなど、可愛らしいイラストと共に説明付きで展示されている。小さな展示室なので、じっくり見て回ってもすぐに終わってしまう。まだまだ時間はあったので次は二階に行ってみるが、目新しいものは特になく、星に関する資料で埋め尽くされた本棚がいくつかあるくらいだった。
 そういえば小学生の頃に来たときも退屈で仕方がなかったな、と未雲は今更ながら当時のことを思い出す。
「はあ……やることなんて殆どないな。プラネタリウムまでもう少しだし、座って休んでよう」
「おれは楽しかったよー。星なんて全然見ないし今まで興味もなかったから、知らないことばかりで。未雲はよく来てたの?」
「まあ、うん……母親が星とか好きで。プラネタリウムもここが初めてだったかな」
「へえ……その影響で今も星が好きだったりする?」
 未雲はしばし考え込んだ。
 柊明に場所を聞かれてこの施設を思い出すくらいには好きなのだろうか。今まであまり気にしたことのない自分の内側を探るみたいでどこか居心地が悪かった。
「そんなめちゃくちゃ大好きってわけじゃないけど」
 もごもごと口を動かしていると、ちょうど館内アナウンスがプラネタリウムの上映時間を告げる。受付で聞いたおじいさんの声が淡々と現在の時刻と予定時刻を交互に繰り返す放送に、二人は腰を上げて一階へと階段を降りていった。


 プラネタリウムの部屋は展示室よりも広く、ドーム状の天井にはいくつもの星がキラキラと輝いて偽の夜空が映し出されていた。
 客はやはり未雲と柊明しかおらず、二人は見やすい位置を何となくで選んでその少し硬い椅子に深々と腰掛けた。背もたれが後ろに倒れて視界が星で埋め尽くされ、本当に星空を見上げているように錯覚する。
 思ったより位置決めに時間がかかってしまっていたのか、二人が落ち着いたところですぐにプラネタリウム内の照明が落ち、星の光がさらに輝きを増した。キラキラと星が輝く効果音が聞こえ、それと同時に落ち着いた声が上空にある星座の紹介を始める。夏の大三角から秋の四辺形へ。
『秋の四辺形とは、ペガサス座の胴体部分の四つの星であり――』
 そんな説明とともに夜空を駆けるペガサスが映し出される。ぼんやりと上を見上げていた未雲の片方の手に、突然誰かの手が重ねられた。
「っえ、」
 ここにいるのも、隣にいるのも柊明だけだというのに。真っ暗な視界の中急にやられたものだから、未雲は驚いて思わず大袈裟なくらいビクリと手を動かしてしまう。
「あ……ごめん」
 横からポツリと聞こえた声は小さくて聞き取りづらくて、しかし未雲にははっきりと聞こえた。離れそうになる手を今度は自分から握り直す。
「大丈夫だから」
 途端、隣で息を飲む音と、服の擦れる音が聞こえたような気がした。隣のアンドロメダ座を紹介する解説がその後すぐに始まったので、自身の発した声が柊明に聞こえたかどうかは未雲にも分からなかったが。


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