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大学生の二人
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しおりを挟む歓迎会が始まってすぐ、未雲は変な汗をかきながら今の状況を飲み込めずにいた。
もうすでに多くの学生が飲んでいたり食べていたり、はたまた会話に花を咲かせていたりと楽しそうな笑い声がそこかしこから聞こえる。だというのに、未雲の周囲はどことなく異様で、皆が微笑ましいものでも見るような表情でこちらを見守っていた。
「まさか、未雲がこのサークルにいると思ってなかったからびっくりした!」
隣で風貌の変わった柊明が能天気に話しかけてくる。自分があれだけ忘れようと思っていた相手がまさか来るなんて、一体誰がそんなことを予想できようか。
柊明に名前を呼ばれた後、どう反応していいか分からず困っていると、柊明と一緒に来ていた学生が「髪染めたから気付いてないんじゃね?」と助け舟を出してくれた。
そうだ、もしかしたら似ているだけで全く別人という可能性も……と思ったのも虚しく、白い髪を揺らしながら彼は否定する。
「未雲が忘れるわけない。柊明だよ、覚えてるでしょ?」
それに対して、自分はなんて返答をしたのか。もう思い出せない。
柊明は積もる話があるからとさっきまで一緒に来ていたグループから外れて未雲の隣へと着席した。朗らかに笑いながら「久し振り」と言う彼に、ちゃんと笑い返せたか正直怪しい。
「ひ、久し振り。急に真っ白になってたから一瞬分からなかった」
「いいでしょ、イメチェンしたんだ」
「うん……かっこいい、と思う」
「ほんと? 嬉しい」
思う、なんて付けておきながら久しぶりの柊明に未雲は目が離せなかった。元から色素が薄めだったが、真っ白の髪色とそれに合わせたメイクもしていて綺麗だし、何よりそれが似合っている。目を逸らすことすら許されない感じだ。
見惚れて気圧されるがままに会話をしてしまっているが、本当は混乱と疑心暗鬼で心臓が飛び出てきそうなほど脈を打っていた。もしかして橘が柊明に教えたんじゃないか、とか、柊明は一体何を考えてこうして接してきているのか、とか。
常識的に考えれば過去のことは綺麗さっぱり流して話しかけてくれたのだろうが、やはり柊明の真意はわからなかった。高校の時のように関わらないようにすることもできたのに、そうしないのは何か理由でもあるのだろうか。
「えーと、天文サークルに入った理由とか、聞いてもいい?」
未雲は当たり障りのない質問で探ってみることにした。
警戒心が抜けないのは学生の頃の名残と柊明への期待だ。
未雲はどこまでも往生際が悪く、まだ柊明を諦めきれていなかった。忘れようとどれだけ思ってもあの時の幸福感は甘美で簡単には手放せない。そんな未雲の前に、夢にまで見るほど忘れられない、もう出会うことはないと思っていた相手が、突然姿を現して以前のように話しかけてくる。もし叶うのなら、もう一度彼の隣で歩いてみたかった。
友人としてでいいから柊明との関わりをもう手放したくない。自分に声をかけたのも、高校当時の様々なものが吹っ切れたからだと信じたかった。
「理由? いいよ、ちょっと恥ずかしいんだけど……。実は未雲と星を見に行ったのがきっかけで興味持ってさ。それでこのサークル入ったんだ」
「え……」
「あの時色々教えてもらって楽しかった。夜に外歩いてると自然と顔が上を向いてね、ほとんど見えないけど夏の大三角とか冬の大三角見つけて未雲のこと思い出してたよ」
予想外の返答に呆然としていたら、目の奥が熱くなって涙が出てきそうになった。気付かれまいと手で目元を押さえて慌てて俯く。
「また、一緒に星見れたらいいなぁって今も思ってるよ」
「っお、俺も、」
結局目の端に溜まった涙は堪えきれずに頬を伝った。
柊明が「なんで泣いてるの」と困ったように眉を下げて、しかし嬉しそうに笑っているのが見えて、未雲はまた涙が溢れるのを感じた。
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