【完結】いつだって二人きりがよかった

ひなごとり

文字の大きさ
21 / 33
大学生の二人

20

しおりを挟む


 次の日、耳元で鳴るアラーム音にくらくらしながら未雲が起き上がってスマホを確認すると橘からの連絡が複数来ていた。
『今日来てないのか』
『昨日の歓迎会で何かあった?』
 まだ覚醒し切れていない脳みそが状況を理解しようとゆっくり動き出す。
 ……まさか。そう思って時計を確認すると、必修の一限がとっくのとうに始まっている時刻になっていた。
「うわぁ……やっちまった……」
 まだ一ヶ月も経っていないのに寝坊して欠席とは、笑うことしかできない。せめて二限には間に合うよう急いで準備を済ませ、慌ただしく外へ出た。駅まで走っておよそ五分、それから電車に乗って大学まで歩いて……と計算しながらスマホと睨めっこしていると、橘の通知に紛れて他の人からも連絡が来ていたことに気付く。
(他にわざわざ連絡してくるようなやついたっけ?)
 二限に間に合ってから確認しよう。未雲は覚悟を決めると、朝から息を切らしながら駅へと走っていった。

「お、やっと来た。おはよう」
「おはよう……まじで疲れた……」
 ぜえはあと肩を上下させながら二限の教室へ向かえば、定位置に橘が座って待っていた。ギリギリのところだったが、何とか間に合ってほっと息をつく。
「寝坊でもしたか?」
「そんなとこ……。まさかするとは思わなかった」
「昨日サークルの歓迎会あったんだろ? そこで何かあったのかと思ってヒヤヒヤしたぞ」
「あー、そういえば歓迎会ですごいことがあったんだけど……夢だったのかも」
「何だそれ」
「実はさ……」
 話そうとしたところで、ちょうど二限を知らせるチャイムが鳴る。その後に教授がすぐに来て授業が始まってしまったので、お喋りは中断せざるを得なかった。
「じゃあ先週の続きから始めていきます。前回は――」
 この教授の授業はただ話を聞いて各自レポートを毎回提出するだけの、いわゆる楽単と呼ばれるものだった。だからかスマホをいじっている生徒もそれなりにいるし、眠気に耐えられず居眠りしてしまう生徒もいる。未雲もその一人で、話半分で聞きながらスマホをこっそり取り出した。
(そういえば、橘の他に誰から連絡来てたんだろ)
 あとで確認しようとそのままにしていた連絡を思い出して、スマホ画面を何気なく開く。朝の橘からの連絡より少し前、『おはよう、昨日は会えて嬉しかった』というメッセージが、見慣れない黒猫のアイコンから届いていた。
「……!」
 思わず声が出そうになって、誤魔化すように咳払いをする。授業中、しかも静かな時に声でも出したら注目の的になってしまう。あまり注意をする人でもないが、教授に目でもつけられたら困る。伏せた画面をそっと覗き込む。そこには間違いなくあの名前があった。
 柊明だ……。
 忘れていたわけではない。でも、昨日のことがあまりにも夢のようで僅かに信じられなかった。これで連絡が来ていなかったら昨日のことは幻だと思っていたに違いない。
 昨日、未雲が不覚にも泣いてしまって必死に隠そうとしたところを、柊明はわざわざ影になって周りにバレないようにしてくれた。もう大丈夫だからと伝えると、柊明は心配そうにしながらもすぐに退いてくれた。それから今通っている大学の話をして――不自然なほど高校の頃の話は出てこなかった――互いに一人暮らしを始めたことを知り、その大変さを愚痴りながらたくさん笑ったことを覚えている。
 柊明とあんなに笑って会話をするのは随分久し振りだった。と言ってもまだ一年も経っていないのに、それだけ自分の中で柊明という存在が大きかったということか。あんなことになる前はほぼ毎日一緒にいたのだから、そう感じるのも仕方ないのかもしれない。
 時間はあっという間に過ぎ、いつの間にかお開きの時間になって、その時初めて自分が柊明以外と話していないことに気付いた。だから当然、話の途中で連絡先を交換したのも柊明だけだった。
「連絡先新しくしたんだ」と話す柊明に言われるがままスマホを取り出す。実は未雲も心機一転のつもりで新しくしていたので、高校の同級生で連絡先を知っているのは橘だけになっていた。スマホの連絡先にまた柊明の名前が追加され、少し不思議な気分になりながら未雲は「柊明」の文字を見つめていた。
 結局二人は他の誰とも会話をせず駅まで一緒に歩いて、帰りの路線は別々だったのでそこで別れることになった。高校生の時は一緒にバスに乗っていたのにな、とふと思い出してどことなく寂しい気持ちになる。
 改札で別れ、一人になった途端溜息が出た。色々なことが起こり過ぎて、現実逃避のようにスマホを見ないようにしていた気がする。家に帰ってからも「もしかして嘘の連絡先だったのでは?」とか悪い方向に考えてしまってうまく寝付けなかった。おかげで今日寝坊したわけだけど、昨日は夢でなかったとわかったからもうどうでもよかった。
 柊明と友人に戻れた、のだろうか。これからは自分から連絡しても許されるだろうか。星をまた一緒に見てくれるのだろうか。
 早く連絡を返さなければという焦りと連絡が来たことへの嬉しさで感情がぐちゃぐちゃになって、未雲はその日の授業に全く身が入らなかった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

処理中です...