【完結】いつだって二人きりがよかった

ひなごとり

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大学生の二人

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 未雲と柊明の入った天文サークルは、月に数回ある活動の中で他の大学と合同で行うイベントは夏と冬の合宿のみらしい。そのため柊明と会うのはその時くらいかと未雲は思っていたのだが、以前の連絡を返してからお互い返信に返信を重ね一向に話題が尽きず、そのうち映画の話になって観たいものが一致していることがつい先ほど発覚した。
(これは誘っても許される状況なのか……!?)
 自分がほとんど人を誘ったことがないのを思い出しながら、映画の話題で盛り上がっているトーク画面を睨んで文字を打っては消してを繰り返す。
『よかったら今度一緒に見に行かない?』
 勇気を振り絞って打った文章を送信した後、別に書かなくてもいいのに『周りで感想言い合える人がいなくて』と言い訳じみたことを付け足した。
 既読はすぐに付く――当たり前だ、さっきからずっとやりとりをしていたのだから――その割には遅い返信にヤキモキしながら画面を握りしめていると、ほんの一分もしないで「もちろん!」と書かれた猫のスタンプと共に『おれで良ければ是非』と文章が綴られていた。
 それからは早かった。お互いに行きやすい映画館を選んで、日程も組んでそのまま電子チケットを買ってもらう。
『じゃあ来週だね、またその時に』
『ありがとう。チケットのお金はその時に渡します』
『おっけ~』
 大学生といっても一年初めは必修もあるしなかなか予定が合わないかとも思ったが、来週の平日に丁度どちらも三限終わりの日があったためその日に行くこととなった。
 久し振りに柊明と遊びに出掛ける。スケジュールに予定を書き込んで、いまだに現実味の帯びない文字列をなぞりながら来ていく服を今から考えていた。

 約束の日、三限の講義が終わっていそいそと帰り支度を始める。いつもなら橘とカフェに寄ってレポートを書いたりどうでもいいことを駄弁ったりしていたが、今日は柊明と映画を観に行くという大事な用事があるため先に断りを入れておいた。もちろんその会合のようなものは偶発的に行われるもので強制でもないが、橘は未雲が「用事があるから」と言ったことに大変驚いたらしかった。
「え、もしかして他に友達でも出来たのか……?」
 と神妙な顔つきをした橘を殴りたい衝動に駆られながら、適当にあしらって目的の電車へ乗った。
『今駅着いた、これから改札抜ける』
『了解~ さっき着いたから待ってるね』
 柊明が先に着いていることを知り、慌てて待ち合わせ場所の駅前へ小走りで向かう。どこにいるだろうかと少し辺りを見渡せば、あの真白い頭はすぐに見つかった。
 その白い髪ももちろん特徴的だが、周りより高めの身長とスタイルの良さ、負けず劣らずの綺麗な顔立ちで圧倒的な存在感を放っている。どうしたって周りの目を惹くし、柊明の周りだけ微妙に開けた空間が出来ているのも見つけやすい要因だった。
 そこに行くには少々気が引けるが、これ以上待たせるのも良くないからと恥を承知で柊明の元へ走っていく。
「……ごめん、待たせた」
「あ、おつかれー。大丈夫、おれもすぐ来たばっかだから! 今から行っても全然余裕そうだし、行こ」
「うん。それにしても、その髪初めて見た時はびっくりしたけどすぐ分かっていいね」
「でしょー? 待ち合わせすると大体相手がすぐに見つけてくれるんだよね、めっちゃ便利」
 へえ、と聞き流しつつも当たり前のように柊明には大学で新しい友人が大勢いるのだと分かって少しだけ胸が痛んだ。未雲は橘を除いて、連絡先を交換しただけでわざわざ連絡はしない友人ばかりなのに。
 しかし思い返してみれば高校時代も柊明は未雲を優先こそすれど、誰に対しても分け隔てなく接していた。たまに機嫌の悪くなったことはあっても普段は皆に笑顔を浮かべて人当たりの良い返事をしていた気がする。もしかしたら今の自分はその「皆」の中の一員で、柊明にはすでに高校の時の未雲のような優先すべき誰かがいるのだろうか。思い浮かんだ鬱屈とした考えに、有り得なくはないだろうと今にも身勝手に苦しみそうな自分に言い聞かせて慌てて気持ちを切り替える。
(折角の映画鑑賞なんだから、楽しまないでどうする)
 大学の話をして歩いていれば目的の映画館にはすぐ辿り着いた。
「本当に今日の楽しみにしてたから、なんか緊張してるかも」
「俺も……あの続編だし」
「終わったらどこか寄って感想でも言い合おうよ、絶対楽しいから」
 そんなことを話しながら、二人は映画館へと入っていった。



「……すごかったよね、あのシーン!?」
「分かる、まさかあそこで過去作のキャラクターが出てくるとは思わなかったからすごい興奮した」
「結構噂はされてたけどまさか本当だとは思わないじゃん……まじで良かった……」
 場所は変わって、チェーン店のファミレスで二人は映画の感想を語り合っていた。今回二人が観た映画はシリーズものの第三作目であり、前作が不穏な空気で終わったのに対しシリーズ最後の今作は全てが綺麗にまとまって素晴らしい大団円となっていた。観終わった時の感動は凄まじく、両者ともにとにかく早く感想を言い合いたくて、映画館から出てすぐのファミレスに駆け込んだ。
「気になるとこ何個か残ってるんだけど、これ多分前作見直したほうがいいよな……時間なくて復習してこなかったけど観るべきだった」
「なんなら一作目から通しで観たい! 早く配信とかされないかな」
「それはまじでそう。何度か見返したいシーンも多いし」
「あれ、あの時のやばくなかった? 主人公が――」
 こんなに楽しく誰かと映画について語り合ったことがない未雲は、時間も忘れて柊明と話し込む。今日観た映画の話から、だんだん自分の好きな映画の話になり、柊明がかなりの映画好きという新しい発見もあった。高校の時にも話す機会は十分あったはずなのにそんなことも知らなかったなんてと内心驚くが、もしかしたら話さなくなった期間に趣味になったのかもしれない。
「あ……時間結構経ってるね」
「え? あ、本当だ」
「映画館出たのが夕方だったもんね、それでも長居しすぎだけど」
「じゃあ今日はそろそろお開き? って感じ?」
「そうだね、明日もお互い一限から授業だし」
 まだそんなに遅い時間でもないが、明日一限があると思うとそう遅くまでもいられない。仕方ないとはいえ先程とは打って変わった気分の沈みように思わず溜息が漏れた。
「一限か……」
「未雲ってば、まだ朝弱いの?」
「え、ああ、ずっと苦手だよ早起きなんて」
「ふふ、いつもギリギリになってそう。一人暮らしだけど大丈夫なの?」
「前に一回だけ遅刻した」
「一回だけならまだ大丈夫だね」
「……馬鹿にしてる?」
 してないよ、と笑う柊明とのやり取りにどこか懐かしさを覚える。高校の頃を思い出していたであろう柊明の台詞に少しドキッとしたが、本人は至って普通だ。
「……あ、路線別だからここでお別れか。じゃあ、また機会があったら」
「うん。今日は楽しかった、ありがとう」
「こちらこそ! 誘ってくれて嬉しかった!」
 そう言って二人は駅前で別れて、別々の改札へと向かって行った。
 楽しかったなあ、としみじみと改めて思う。また機会があったらと去り際に柊明は言っていたが、今度はいつになるのだろうか。自分からもう一度誘っても許されるだろうか。
(今日のお礼言って、また連絡続けられるかな……)
 そんな邪な考えを抱きつつ、未雲はスマホを取り出して柊明とのトーク画面を開く。なんて連絡をしようかと悩んでいると、ぽこん、とメッセージの通知音が鳴る。丁度画面を開いていた柊明からのメッセージだった。
 画面を開きっぱなしだったので、もちろん既読がすぐに付く。思わず手が滑りそうになりながら、慌てて送られてきた文面を読むが理解するまでにしばしの時間を有した。
『今日はありがとう! すごい楽しかったです。今度は互いの家に行って映画鑑賞もいいかもね』
 まるで昔に戻れたような気がして、視界が滲んで見えなくなった文章を、未雲は何度も頭で復唱しては胸がいっぱいになるのを感じていた。


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