今日も君は嘘を吐く

西出あや

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偶然で必然な出会い

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『悠李くんは、目を離すとすぐふらっとどこかへ行く癖があるんだ。だから、彼から目を離さないようにして欲しい。この映画は、彼にとってすごく大切なものになるはずだから。必ず最後まで無事撮り終えたいんだ』
 そう言って映画監督の父・佐伯さえきたかしに頭を下げられたのは、今年のゴールデンウィークのことだった。

 父といっても、今は一緒には住んでいないし、苗字も違う。
 わたしが中学を卒業するタイミングで、両親は離婚。仕事の忙しい母とも離れ、わたしは母方の祖父母の住むこの田舎町で、高校の三年間を過ごすことにした。
 ちなみに、大学はまた東京に戻って、一人暮らしをする予定だ。
 もう、いろいろなことに振り回される生活はごめんだから。だったら、一人の方がよっぽどいい。

 校内をあちこち探し回ったあと、グラウンドに向かう途中で、ぼーっと運動部の活動を眺める男子生徒を発見した。
 全身が透き通って見えるかのような、透明感のある立ち姿。特徴的な金髪が、さらりと風になびいている。
 きっと双葉さんに違いない。
「勝手に一人で校内を歩き回らないでください」
「……高校生って、こうやって青春すんだなー」
 双葉さんに駆け寄って声を掛けると、わたしの方を見もせず、双葉さんがつぶやくように言う。
「双葉さんも、同じ高校生じゃないですか」
 わたしの話をまったく聞いていないことに多少イラっとしながらも、必死にその感情を押し込め、淡々と返す。
「俺にそんな時間あるように見える?」
 苦笑いしながら、やっとわたしの方を見た。
「そうですね。……すみませんでした」
「ははっ。そんな素直に謝んなって。でも、実際俺の高校生活って、ほとんどが映画やドラマの中だからさ。もし普通の高校生だったら、何部に入ってたんだろーとか、どんなバイトしてたんだろーとか。ふっと考えたりするんだよね」
 そう言いながら、再び視線をグラウンドへと向ける。
『運動がお好きなんですか?』
『昔、なにか運動をなさっていたのですか?』
 いろいろな言葉が頭に浮かんでは、音にできないまま消える。
「わかりました。では、見学に行かれても結構ですが、騒ぎになって活動の妨げになるのは困りますので、生徒会長として同行させていただきます」
 そう言うわたしをまじまじと見つめていた双葉さんが、突然ぷはっと吹き出した。
「あくまでも、俺がファンに絡まれないようにじゃなく、部活動を守るためなんだ。一ノ瀬さん、だっけ? あんた、案外ちゃんとした生徒会長なんだな」
「案外は余計です」
 本当に失礼な人。
「ねえ、ずっとそんな固いしゃべり方してて疲れない?」
「慣れていますので。問題ありません」
「まあ、別にどーでもいいけど。そんじゃお言葉に甘えて、生徒会長様に体育館まで案内してもらおっかな」
「一応確認ですが、まだ撮影に戻らなくても大丈夫なんですね?」
「ああ。次は、依茉たち女子だけのシーンだから」
「そうですか。わかりました」

 体育館の入り口付近ですれ違った女子生徒が、双葉さんの方をチラッと見てから、わたしに会釈をして通りすぎていく。
 体育館の入り口を入ってすぐのところで双葉さんと並んで見学している間も、こちらをチラチラ見ながらヒソヒソ話す声は聞こえてきても、部活動自体は滞りなく進んでいるようだ。
 今のところ、心配していたように、双葉さんがファンに囲まれることもない。
「なにあんた、ひょっとして怖がられてんの? 俺がこんなとこに突っ立ってて騒ぎにならないってのが、逆に信じられないんだけど」
 隣に立つ双葉さんが、こそっと耳打ちしてくる。
 なんというか、ものすごい自信だ。
「さあ、どうでしょう」
「もっとみんなと仲良くすればいいのに。そんなんで、学校生活楽しい?」
「たった三年ですから。なにも問題ありません」
「たった三年……か。そうだよな。三年なんて、あっという間だよな」
 双葉さんの声に、一瞬寂しげな色が混じる。
 ああ、しまった。言葉選びを間違えた。
 そう思ったけれど、それ以上は特に気にした様子もなく、双葉さんがもう一度明るく口を開いた。
「そうだ。その後ろでぎゅっとひとつに束ねてる髪を下ろしたら、少しは怖くなくなるんじゃない? せっかくそんなキレイな黒髪してんのに、もったいない。それに、その銀縁メガネもやめて、コンタクトにしたら――」
「ですから、わたしの友人関係まで心配していただかなくて結構です。部活動の邪魔になりますので、これ以上の私語は謹んでください」
「はいはい、わかったよ」
 淡々と返すわたしに、双葉さんは肩をすくめ、諦めたように言った。
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