3 / 19
偶然で必然な出会い
3
しおりを挟む
***
撮影が始まってから、五日が過ぎた。
特に大きな事件が起こることもなく、たまに双葉さんに付き添って校内を案内するくらいの、簡単なお仕事だ。
これなら別にわたしじゃなくてもよかったのでは? と思うこともあったけれど、やはり行く先々で双葉さんに注がれる好奇の眼差しを考えると、芸能人にまったく興味のないわたし以上の適任者はいないのかもしれない。
お昼休憩は、そんな雑務から唯一解放される、安息の時間だ。
わたし以外に誰もいない生徒会室で、家から持参したお弁当をのんびり食べていると、コンコンコンと誰かが扉をノックした。
「はい、どうぞ」
「しっつれいしまーす」
ガラガラっと勢いよく扉を開けて入ってきたのは、双葉さんだった。
わたしの安息の時間終了。
思わず吐きそうになったため息を、ぐっと堪える。
「なあんだ。いっつも昼になるといなくなると思ったら。こんなとこで一人で弁当食ってたんだ」
「ここが一番落ち着きますので」
「俺も、ここでちょっと休憩させてもらってもいい?」
そう言いながら、わたしの返事を聞く前に、その辺にあった折りたたみイスにどさりと腰を下ろす。
そんな双葉さんの方をチラッと見ると、十分ほど前に現場で最後に見たときの生き生きとした表情は姿を消し、とても疲れたような表情をしていた。
さすがにこんな表情を見せられて追い出せるほど冷酷ではない。
「……構いません」
とりあえずいないものとして淡々とお弁当を食べていると、双葉さんがわたしのお弁当を覗き込んできた。
「うわっ、でっかいミニトマトだな」
「ミニトマトではなくて、中玉トマトです。祖父が庭で育てていて。ミニトマトよりこっちの方がおいしいからって言うんですけど、お弁当用にしては、少し大きすぎて食べにくいんですよね」
「へえ、そうなんだー」
軽く相槌を打ちながらも、双葉さんの視線はトマトに注がれたまま。
「……よかったら、食べてみますか?」
「マジでいいの? 俺、トマト大好物なんだよね」
「実はわたし、ちょっと苦手なんです」
「じゃあ、お互いの利害が一致したっつーことで」
わたしが差し出したお弁当箱の中から嬉しそうにトマトをつまむと、大きな口を開け、二口で食べ切った。
「うまっ。マジでうまいな、これ。太陽みたいな味がする」
――ああ、この人って、こんな顔で笑うんだ。
数日間一緒に過ごしてきたけれど、初めて本当の笑顔を見たような気がする。
「そういえばあんた、やけに芸能人慣れしてんね。今も『キャーッ! 双葉悠李くんと二人っきりなんてどうしよう~』なんて全然考えてないでしょ」
「そうですね」
むしろ、昼休みくらい一人で静かに休ませて欲しいとすら思っている。
初日にも思ったけれど、まったく自意識過剰な人だ。
というより、この人が今まで置かれてきた環境が異常だったというべきか。
そのとき――コンコンコン。
再び遠慮がちに扉をノックする音がする。カラカラカラとゆっくり扉を開けて入ってきたのは、満元さんだった。
無言で室内に入ってくると、そのままなにも言わず双葉さんの腕を引く。
「わかった。行くよ。行けばいいんだろ」
小さくため息を吐く双葉さんに向かって、満元さんがニコッと微笑む。
最初に挨拶を交わしたときは、感じのいい人だなと思ったのだけど。
一言くらい、わたしにもなにか言えばいいのに。
一般人のわたしとは、話もしたくないってことね。
そんなモヤッとした気持ちを押し込め、「午後の撮影も、お二人とも頑張ってくださいね」と言うと、満元さんは、わたしに向かってニコッと笑ってぺこりと頭を下げた。
はぁ。芸能人なんかにイライラしたって時間の無駄。
バカバカしい。もういいや。
撮影が始まってから、五日が過ぎた。
特に大きな事件が起こることもなく、たまに双葉さんに付き添って校内を案内するくらいの、簡単なお仕事だ。
これなら別にわたしじゃなくてもよかったのでは? と思うこともあったけれど、やはり行く先々で双葉さんに注がれる好奇の眼差しを考えると、芸能人にまったく興味のないわたし以上の適任者はいないのかもしれない。
お昼休憩は、そんな雑務から唯一解放される、安息の時間だ。
わたし以外に誰もいない生徒会室で、家から持参したお弁当をのんびり食べていると、コンコンコンと誰かが扉をノックした。
「はい、どうぞ」
「しっつれいしまーす」
ガラガラっと勢いよく扉を開けて入ってきたのは、双葉さんだった。
わたしの安息の時間終了。
思わず吐きそうになったため息を、ぐっと堪える。
「なあんだ。いっつも昼になるといなくなると思ったら。こんなとこで一人で弁当食ってたんだ」
「ここが一番落ち着きますので」
「俺も、ここでちょっと休憩させてもらってもいい?」
そう言いながら、わたしの返事を聞く前に、その辺にあった折りたたみイスにどさりと腰を下ろす。
そんな双葉さんの方をチラッと見ると、十分ほど前に現場で最後に見たときの生き生きとした表情は姿を消し、とても疲れたような表情をしていた。
さすがにこんな表情を見せられて追い出せるほど冷酷ではない。
「……構いません」
とりあえずいないものとして淡々とお弁当を食べていると、双葉さんがわたしのお弁当を覗き込んできた。
「うわっ、でっかいミニトマトだな」
「ミニトマトではなくて、中玉トマトです。祖父が庭で育てていて。ミニトマトよりこっちの方がおいしいからって言うんですけど、お弁当用にしては、少し大きすぎて食べにくいんですよね」
「へえ、そうなんだー」
軽く相槌を打ちながらも、双葉さんの視線はトマトに注がれたまま。
「……よかったら、食べてみますか?」
「マジでいいの? 俺、トマト大好物なんだよね」
「実はわたし、ちょっと苦手なんです」
「じゃあ、お互いの利害が一致したっつーことで」
わたしが差し出したお弁当箱の中から嬉しそうにトマトをつまむと、大きな口を開け、二口で食べ切った。
「うまっ。マジでうまいな、これ。太陽みたいな味がする」
――ああ、この人って、こんな顔で笑うんだ。
数日間一緒に過ごしてきたけれど、初めて本当の笑顔を見たような気がする。
「そういえばあんた、やけに芸能人慣れしてんね。今も『キャーッ! 双葉悠李くんと二人っきりなんてどうしよう~』なんて全然考えてないでしょ」
「そうですね」
むしろ、昼休みくらい一人で静かに休ませて欲しいとすら思っている。
初日にも思ったけれど、まったく自意識過剰な人だ。
というより、この人が今まで置かれてきた環境が異常だったというべきか。
そのとき――コンコンコン。
再び遠慮がちに扉をノックする音がする。カラカラカラとゆっくり扉を開けて入ってきたのは、満元さんだった。
無言で室内に入ってくると、そのままなにも言わず双葉さんの腕を引く。
「わかった。行くよ。行けばいいんだろ」
小さくため息を吐く双葉さんに向かって、満元さんがニコッと微笑む。
最初に挨拶を交わしたときは、感じのいい人だなと思ったのだけど。
一言くらい、わたしにもなにか言えばいいのに。
一般人のわたしとは、話もしたくないってことね。
そんなモヤッとした気持ちを押し込め、「午後の撮影も、お二人とも頑張ってくださいね」と言うと、満元さんは、わたしに向かってニコッと笑ってぺこりと頭を下げた。
はぁ。芸能人なんかにイライラしたって時間の無駄。
バカバカしい。もういいや。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
背徳のミラールージュ(母と子 それぞれが年の差恋愛にのめり込んでいく鏡写し)
MisakiNonagase
恋愛
24歳の市役所職員・中村洋平には、自慢の恋人がいた。2歳年上の小学校教師、夏海。誰もが羨む「正解」の幸せの中にいたはずだった。
しかし、50歳になる母・美鈴が21歳の青年・翔吾と恋に落ちたとき、歯車は狂い出す。
母の恋路を「不潔だ」と蔑んでいた洋平だったが、気づけば自分もまた、抗えない引力に引き寄せられていた。
その相手は、母の恋人の母親であり、二回りも年上の柳田悦子。
純愛か、背徳か。4年付き合った恋人を捨ててまで、なぜ僕は「彼女」を求めてしまうのか。
交差する二組の親子。歪な四角関係の果てに、彼らが見つける愛の形とは――。
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結
まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。
コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。
「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」
イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。
対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。
レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。
「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ!」
レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。
「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」
私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。
全31話、約43,000文字、完結済み。
他サイトにもアップしています。
小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位!
pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。
アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。
2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる