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嫌い
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「夕飯も食べていきなさい」というおじいちゃんの一言で、四人で食卓を囲むことになった。
いつもは三人だけの食卓の、ぽっかり空いていた席が埋まる。それだけで、ものすごく賑やかな食卓になった気分だ。
食卓の上には、採れたて野菜たちが、所狭しと並ぶ。
「うげっ、ピーマン……」
隣から、そうつぶやく声が聞こえてくる。
「ピーマン、苦手なんですか?」
こっそり尋ねると、「ああ……でも、食べてみるわ」と返ってきた。
焼きピーマンに、鰹節と醤油をかけただけの、シンプルな一品。
悠李くんが、顔を若干引きつらせながらも、目をつぶって一口で放り込む。
「苦っ……あれっ? でも、うまい。採れたてだからかなあ。素材の味が濃くて、スーパーのやつと全然違う」
なんだかんだ言いながらも、もう一切れ、もう一切れとどんどん食べていく。
「あれっ、俺、ピーマン大丈夫んなったかも」
「あら、すごいじゃない。偉いわよ、悠李くん」
おばあちゃんに、小さな子どもみたいに褒められ、悠李くんがまんざらでもなさそうな顔をする。
そのとき――パーン!
大きな破裂音が、遠くの方から聞こえてきた。
「あら。そういえば、今日だったわね。花火大会」
***
「キレイだなあ」
「ここって、実は隠れた花火鑑賞スポットなんですよ」
夕飯をぱぱっと済ますと、わたしたちは縁側に座布団を敷いて並んで座った。
「うん、たしかに。ここに来るまで、結構急な坂上ってきたもんな。遮るものがなにもないから、めちゃキレイに見える」
「……来年も、一緒に見たいです」
花火を見上げる悠李くんのキレイな横顔を見ていたら、自然とそんな言葉が零れた。
なに言ってるんだろう、わたし。そんなこと、絶対に無理なのに。
一瞬辛そうに顔をゆがめた悠李くんが、ふっと表情を戻すと、わたしに向かって抗議の声を上げる。
「おい、勝手に設定を無視すんな。来年の夏には……いねえんだよ、俺は」
「そうでしたね。すみません。お付き合いしている二人なら、きっとこういう会話になるのかな、なんて考えていたら、勝手に口から出てしまって」
縁側の上についていたわたしの右手に、悠李くんの左手が重なる。
「付き合ってる二人なら、きっとこうやって見るんだろ、最後の花火」
最後だなんて言わないでよ。
溢れそうになった涙を、わたしは必死に堪えた。
***
翌日の昼休みの終わりがけに、満元さんが一人で生徒会室を訪ねてきた。
「双葉さんは、もう戻られましたよ」
「わかってるわよ、そんなこと。もうすぐ悠李のシーンのリハが始まるから来たの」
満元さんが、むすっとした顔で言う。
「ねえ、あなた本気で悠李と付き合ってるつもりじゃないわよね?」
「え……そ、そんなわけないじゃないですか」
咄嗟に否定したけれど、たしかに本気で付き合っているわけではない。
あくまでも役作りのための、嘘の彼女役――という設定なのだから。
「悠李、『知り合いにもらった』とか言って、スタッフにトマト配って回ってたんだけど。それって、この前言ってた、あなたのおじいさんの畑で採れたものなんじゃないの?」
「そう……ですけど」
ひょっとして、あのときの生徒会室での会話、全部聞かれていたの?
「とにかく。悠李とこれ以上関わらないで。わかった?」
机にばんっと手を突いて、満元さんが低い声で言う。
撮影が始まると、役にのめり込むタイプだなんて悠李くんは言っていたけれど。
違う。これは、役になりきっているわけじゃない。
ああ、そっか。満元さんは、きっと本気で悠李くんのことが好きなんだ。
いつもは三人だけの食卓の、ぽっかり空いていた席が埋まる。それだけで、ものすごく賑やかな食卓になった気分だ。
食卓の上には、採れたて野菜たちが、所狭しと並ぶ。
「うげっ、ピーマン……」
隣から、そうつぶやく声が聞こえてくる。
「ピーマン、苦手なんですか?」
こっそり尋ねると、「ああ……でも、食べてみるわ」と返ってきた。
焼きピーマンに、鰹節と醤油をかけただけの、シンプルな一品。
悠李くんが、顔を若干引きつらせながらも、目をつぶって一口で放り込む。
「苦っ……あれっ? でも、うまい。採れたてだからかなあ。素材の味が濃くて、スーパーのやつと全然違う」
なんだかんだ言いながらも、もう一切れ、もう一切れとどんどん食べていく。
「あれっ、俺、ピーマン大丈夫んなったかも」
「あら、すごいじゃない。偉いわよ、悠李くん」
おばあちゃんに、小さな子どもみたいに褒められ、悠李くんがまんざらでもなさそうな顔をする。
そのとき――パーン!
大きな破裂音が、遠くの方から聞こえてきた。
「あら。そういえば、今日だったわね。花火大会」
***
「キレイだなあ」
「ここって、実は隠れた花火鑑賞スポットなんですよ」
夕飯をぱぱっと済ますと、わたしたちは縁側に座布団を敷いて並んで座った。
「うん、たしかに。ここに来るまで、結構急な坂上ってきたもんな。遮るものがなにもないから、めちゃキレイに見える」
「……来年も、一緒に見たいです」
花火を見上げる悠李くんのキレイな横顔を見ていたら、自然とそんな言葉が零れた。
なに言ってるんだろう、わたし。そんなこと、絶対に無理なのに。
一瞬辛そうに顔をゆがめた悠李くんが、ふっと表情を戻すと、わたしに向かって抗議の声を上げる。
「おい、勝手に設定を無視すんな。来年の夏には……いねえんだよ、俺は」
「そうでしたね。すみません。お付き合いしている二人なら、きっとこういう会話になるのかな、なんて考えていたら、勝手に口から出てしまって」
縁側の上についていたわたしの右手に、悠李くんの左手が重なる。
「付き合ってる二人なら、きっとこうやって見るんだろ、最後の花火」
最後だなんて言わないでよ。
溢れそうになった涙を、わたしは必死に堪えた。
***
翌日の昼休みの終わりがけに、満元さんが一人で生徒会室を訪ねてきた。
「双葉さんは、もう戻られましたよ」
「わかってるわよ、そんなこと。もうすぐ悠李のシーンのリハが始まるから来たの」
満元さんが、むすっとした顔で言う。
「ねえ、あなた本気で悠李と付き合ってるつもりじゃないわよね?」
「え……そ、そんなわけないじゃないですか」
咄嗟に否定したけれど、たしかに本気で付き合っているわけではない。
あくまでも役作りのための、嘘の彼女役――という設定なのだから。
「悠李、『知り合いにもらった』とか言って、スタッフにトマト配って回ってたんだけど。それって、この前言ってた、あなたのおじいさんの畑で採れたものなんじゃないの?」
「そう……ですけど」
ひょっとして、あのときの生徒会室での会話、全部聞かれていたの?
「とにかく。悠李とこれ以上関わらないで。わかった?」
机にばんっと手を突いて、満元さんが低い声で言う。
撮影が始まると、役にのめり込むタイプだなんて悠李くんは言っていたけれど。
違う。これは、役になりきっているわけじゃない。
ああ、そっか。満元さんは、きっと本気で悠李くんのことが好きなんだ。
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