14 / 19
一番の噓つき
4
しおりを挟む
「ちょっと二人で話したいんだけど」
悠李くんに指名され、わたしはおずおずと悠李くんのいる個室へと足を踏み入れた。
点滴に繋がれ、ベッドに横たわる悠李くんを見る。さっきよりはましになったみたいだけど、まだ若干顔色が悪い。
「まさか一番の嘘つきが日菜だったとはな」
悠李くんが、冷たい声で言う。
「……」
わたしはなにも言い返すことができず、両手をぎゅっと握りしめ顔をうつむかせた。
「知ってたんだろ、俺の病気のこと。余命半年ってのが、役じゃなくてリアルだってことも。今さら噓吐いても無駄だからな。全部聞こえてた」
「細かくは知らない。それは本当。でも……騙すようなことをして、本当にごめんなさい」
「監督が父親だったのか。ってことは、母親は俳優の一ノ瀬澪さんか。はぁ~、どうりで演技がうまいわけだ」
「別にわたし、演技をしていたつもりなんか……」
「いやに俺の言いなりになってくれると思ったんだよな。なにも知らないフリして、可哀そうな俺に付き合ってくれてたってわけか」
「そんなつもりじゃ……!」
「それに真面目な生徒会長ヅラだって。あんた、中学までは芸能人が多く通う学校だったんだろ? 中学んとき一緒だったってやつに、あんたの噂、聞いたことある。事務所に所属してないのに、中学んときからかなり目立ってたらしいじゃん。なんでこんな田舎町にいるんだよ。なんでこんなとこでそんな冴えない演技して自分騙して暮らしてんだよ」
「……そんなの、芸能界がわたしの家族を壊したからに決まってるじゃない。芸能界なんて、大っ嫌い。芸能界にいる人間も大っ嫌い。みんなわたしみたいな一般人のことなんかどうでもよくって、自分勝手で、自分の都合で平気で嘘を吐く。お父さんも、お母さんも。……そんな人間に自分がなりたいだなんて、思うわけないじゃない」
「まあ、自己中なやつが多いってのは否定できないかもな」
今まで心の中にずっと溜め込んできた思いをぶちまけるわたしに、苦い顔をしながらも悠李くんが相槌を打つ。
「最初は、悠李くんが噓ばっか吐くのを見て、やっぱり芸能界の人はみんなそうなんだって思ってた。けど……今は違う。悠李くんと一緒に過ごすうちに、芸能界の人って一括りにして、悠李くんのことをちゃんと見てなかったって気付いたの。そうしたら、悠李くんのことが、もっと知りたくなった。一人の人間としての悠李くんを、ちゃんと知りたいって思うようになったの」
それに、悠李くんの言った通り、わたしだって無邪気に芸能界に憧れていたときもあった。いつかお母さんみたいに、テレビや映画に出て、みんなを感動させられるような人になりたいって。
でも、両親の仲がどんどん悪くなっていって、離婚して。そうしたら、そんな気持ちも、いつの間にかどこかに行ってしまっていた。
でも、自分の仕事に一生懸命な悠李くんや満元さんと出会って、昔の気持ちを思い出してしまったの。
悠李くんの険しかった目が柔らかくなる。
「じゃあ、最後のワガママ聞いてくれる? 今度の月曜日の夜。最後のデートして」
「なに言ってるの? もうダメだよ。本当に撮影を中断してでも、お母さんに連れ戻されちゃう」
「うん。だから、俺が泊まってるホテルの庭で待ってる。それならいいだろ? 日菜が来るまで、いつまででも待ってるから」
真剣な表情でじっと見つめられたけれど、結局返事ができないまま、わたしは病室を後にした。
そのまま一人で病院を出ると、キャップを目深に被った誰かが、こちらに向かって大股で歩いてきているのに気がついた。
そっと視線を逸らし、その人の横を通り過ぎようとした瞬間、かぁっと頬に熱が走り、反射的に頬を押さえて足を止めた。
その人の方を見ると、ギラギラした瞳でわたしのことを見上げる満元さんがいた。
「なんで悠李の邪魔をするの!? 悠李がどれだけこの映画に懸けてるか、知ってたんでしょ? わたし、この前ちゃんと言ったよね、もうこれ以上悠李と関わらないでって」
満元さんの声が、怒りに震えている。
満元さん、ひょっとして悠李くんの病気のこと、知ってるの?
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
ずっと堪えていた涙がぼろぼろと零れ落ち、コンクリートの地面に黒いシミを作っていく。
悠李くんのそばには、ちゃんと心配してくれる人がいる。だったら、わたしが悠李くんのそばにいる必要はなかったんだ。
もう、本当に終わりにしよう。しなくちゃいけないんだ。
悠李くんに指名され、わたしはおずおずと悠李くんのいる個室へと足を踏み入れた。
点滴に繋がれ、ベッドに横たわる悠李くんを見る。さっきよりはましになったみたいだけど、まだ若干顔色が悪い。
「まさか一番の嘘つきが日菜だったとはな」
悠李くんが、冷たい声で言う。
「……」
わたしはなにも言い返すことができず、両手をぎゅっと握りしめ顔をうつむかせた。
「知ってたんだろ、俺の病気のこと。余命半年ってのが、役じゃなくてリアルだってことも。今さら噓吐いても無駄だからな。全部聞こえてた」
「細かくは知らない。それは本当。でも……騙すようなことをして、本当にごめんなさい」
「監督が父親だったのか。ってことは、母親は俳優の一ノ瀬澪さんか。はぁ~、どうりで演技がうまいわけだ」
「別にわたし、演技をしていたつもりなんか……」
「いやに俺の言いなりになってくれると思ったんだよな。なにも知らないフリして、可哀そうな俺に付き合ってくれてたってわけか」
「そんなつもりじゃ……!」
「それに真面目な生徒会長ヅラだって。あんた、中学までは芸能人が多く通う学校だったんだろ? 中学んとき一緒だったってやつに、あんたの噂、聞いたことある。事務所に所属してないのに、中学んときからかなり目立ってたらしいじゃん。なんでこんな田舎町にいるんだよ。なんでこんなとこでそんな冴えない演技して自分騙して暮らしてんだよ」
「……そんなの、芸能界がわたしの家族を壊したからに決まってるじゃない。芸能界なんて、大っ嫌い。芸能界にいる人間も大っ嫌い。みんなわたしみたいな一般人のことなんかどうでもよくって、自分勝手で、自分の都合で平気で嘘を吐く。お父さんも、お母さんも。……そんな人間に自分がなりたいだなんて、思うわけないじゃない」
「まあ、自己中なやつが多いってのは否定できないかもな」
今まで心の中にずっと溜め込んできた思いをぶちまけるわたしに、苦い顔をしながらも悠李くんが相槌を打つ。
「最初は、悠李くんが噓ばっか吐くのを見て、やっぱり芸能界の人はみんなそうなんだって思ってた。けど……今は違う。悠李くんと一緒に過ごすうちに、芸能界の人って一括りにして、悠李くんのことをちゃんと見てなかったって気付いたの。そうしたら、悠李くんのことが、もっと知りたくなった。一人の人間としての悠李くんを、ちゃんと知りたいって思うようになったの」
それに、悠李くんの言った通り、わたしだって無邪気に芸能界に憧れていたときもあった。いつかお母さんみたいに、テレビや映画に出て、みんなを感動させられるような人になりたいって。
でも、両親の仲がどんどん悪くなっていって、離婚して。そうしたら、そんな気持ちも、いつの間にかどこかに行ってしまっていた。
でも、自分の仕事に一生懸命な悠李くんや満元さんと出会って、昔の気持ちを思い出してしまったの。
悠李くんの険しかった目が柔らかくなる。
「じゃあ、最後のワガママ聞いてくれる? 今度の月曜日の夜。最後のデートして」
「なに言ってるの? もうダメだよ。本当に撮影を中断してでも、お母さんに連れ戻されちゃう」
「うん。だから、俺が泊まってるホテルの庭で待ってる。それならいいだろ? 日菜が来るまで、いつまででも待ってるから」
真剣な表情でじっと見つめられたけれど、結局返事ができないまま、わたしは病室を後にした。
そのまま一人で病院を出ると、キャップを目深に被った誰かが、こちらに向かって大股で歩いてきているのに気がついた。
そっと視線を逸らし、その人の横を通り過ぎようとした瞬間、かぁっと頬に熱が走り、反射的に頬を押さえて足を止めた。
その人の方を見ると、ギラギラした瞳でわたしのことを見上げる満元さんがいた。
「なんで悠李の邪魔をするの!? 悠李がどれだけこの映画に懸けてるか、知ってたんでしょ? わたし、この前ちゃんと言ったよね、もうこれ以上悠李と関わらないでって」
満元さんの声が、怒りに震えている。
満元さん、ひょっとして悠李くんの病気のこと、知ってるの?
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
ずっと堪えていた涙がぼろぼろと零れ落ち、コンクリートの地面に黒いシミを作っていく。
悠李くんのそばには、ちゃんと心配してくれる人がいる。だったら、わたしが悠李くんのそばにいる必要はなかったんだ。
もう、本当に終わりにしよう。しなくちゃいけないんだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
背徳のミラールージュ(母と子 それぞれが年の差恋愛にのめり込んでいく鏡写し)
MisakiNonagase
恋愛
24歳の市役所職員・中村洋平には、自慢の恋人がいた。2歳年上の小学校教師、夏海。誰もが羨む「正解」の幸せの中にいたはずだった。
しかし、50歳になる母・美鈴が21歳の青年・翔吾と恋に落ちたとき、歯車は狂い出す。
母の恋路を「不潔だ」と蔑んでいた洋平だったが、気づけば自分もまた、抗えない引力に引き寄せられていた。
その相手は、母の恋人の母親であり、二回りも年上の柳田悦子。
純愛か、背徳か。4年付き合った恋人を捨ててまで、なぜ僕は「彼女」を求めてしまうのか。
交差する二組の親子。歪な四角関係の果てに、彼らが見つける愛の形とは――。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結
まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。
コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。
「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」
イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。
対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。
レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。
「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ!」
レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。
「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」
私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。
全31話、約43,000文字、完結済み。
他サイトにもアップしています。
小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位!
pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。
アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。
2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる