今日も君は嘘を吐く

西出あや

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一番の噓つき

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「ちょっと二人で話したいんだけど」
 悠李くんに指名され、わたしはおずおずと悠李くんのいる個室へと足を踏み入れた。
 点滴に繋がれ、ベッドに横たわる悠李くんを見る。さっきよりはましになったみたいだけど、まだ若干顔色が悪い。
「まさか一番の嘘つきが日菜だったとはな」
 悠李くんが、冷たい声で言う。
「……」
 わたしはなにも言い返すことができず、両手をぎゅっと握りしめ顔をうつむかせた。
「知ってたんだろ、俺の病気のこと。余命半年ってのが、役じゃなくてリアルだってことも。今さら噓吐いても無駄だからな。全部聞こえてた」
「細かくは知らない。それは本当。でも……騙すようなことをして、本当にごめんなさい」
「監督が父親だったのか。ってことは、母親は俳優の一ノ瀬澪さんか。はぁ~、どうりで演技がうまいわけだ」
「別にわたし、演技をしていたつもりなんか……」
「いやに俺の言いなりになってくれると思ったんだよな。なにも知らないフリして、可哀そうな俺に付き合ってくれてたってわけか」
「そんなつもりじゃ……!」
「それに真面目な生徒会長ヅラだって。あんた、中学までは芸能人が多く通う学校だったんだろ? 中学んとき一緒だったってやつに、あんたの噂、聞いたことある。事務所に所属してないのに、中学んときからかなり目立ってたらしいじゃん。なんでこんな田舎町にいるんだよ。なんでこんなとこでそんな冴えない演技して自分騙して暮らしてんだよ」
「……そんなの、芸能界がわたしの家族を壊したからに決まってるじゃない。芸能界なんて、大っ嫌い。芸能界にいる人間も大っ嫌い。みんなわたしみたいな一般人のことなんかどうでもよくって、自分勝手で、自分の都合で平気で嘘を吐く。お父さんも、お母さんも。……そんな人間に自分がなりたいだなんて、思うわけないじゃない」
「まあ、自己中なやつが多いってのは否定できないかもな」
 今まで心の中にずっと溜め込んできた思いをぶちまけるわたしに、苦い顔をしながらも悠李くんが相槌を打つ。
「最初は、悠李くんが噓ばっか吐くのを見て、やっぱり芸能界の人はみんなそうなんだって思ってた。けど……今は違う。悠李くんと一緒に過ごすうちに、芸能界の人って一括りにして、悠李くんのことをちゃんと見てなかったって気付いたの。そうしたら、悠李くんのことが、もっと知りたくなった。一人の人間としての悠李くんを、ちゃんと知りたいって思うようになったの」

 それに、悠李くんの言った通り、わたしだって無邪気に芸能界に憧れていたときもあった。いつかお母さんみたいに、テレビや映画に出て、みんなを感動させられるような人になりたいって。
 でも、両親の仲がどんどん悪くなっていって、離婚して。そうしたら、そんな気持ちも、いつの間にかどこかに行ってしまっていた。
 でも、自分の仕事に一生懸命な悠李くんや満元さんと出会って、昔の気持ちを思い出してしまったの。

 悠李くんの険しかった目が柔らかくなる。
「じゃあ、最後のワガママ聞いてくれる? 今度の月曜日の夜。最後のデートして」
「なに言ってるの? もうダメだよ。本当に撮影を中断してでも、お母さんに連れ戻されちゃう」
「うん。だから、俺が泊まってるホテルの庭で待ってる。それならいいだろ? 日菜が来るまで、いつまででも待ってるから」
 真剣な表情でじっと見つめられたけれど、結局返事ができないまま、わたしは病室を後にした。


 そのまま一人で病院を出ると、キャップを目深に被った誰かが、こちらに向かって大股で歩いてきているのに気がついた。
 そっと視線を逸らし、その人の横を通り過ぎようとした瞬間、かぁっと頬に熱が走り、反射的に頬を押さえて足を止めた。
 その人の方を見ると、ギラギラした瞳でわたしのことを見上げる満元さんがいた。
「なんで悠李の邪魔をするの!? 悠李がどれだけこの映画に懸けてるか、知ってたんでしょ? わたし、この前ちゃんと言ったよね、もうこれ以上悠李と関わらないでって」
 満元さんの声が、怒りに震えている。
 満元さん、ひょっとして悠李くんの病気のこと、知ってるの?
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
 ずっと堪えていた涙がぼろぼろと零れ落ち、コンクリートの地面に黒いシミを作っていく。

 悠李くんのそばには、ちゃんと心配してくれる人がいる。だったら、わたしが悠李くんのそばにいる必要はなかったんだ。
 もう、本当に終わりにしよう。しなくちゃいけないんだ。
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