今日も君は嘘を吐く

西出あや

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一番の噓つき

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「どうしてこんなことになっているんですか!? きちんと見ていてくださるっていう約束だったはずじゃないですか」
 救急車で病院へ搬送された数時間後、悠李くんのお母さんらしき人が病院に駆け込んでくるなり、スタッフを怒鳴りつけた。
 わたしがお父さんに連絡すると、悠李くんのマネージャーさんを通してすぐにお母さんへと連絡が行き、悠李くんの事情を知る少数のスタッフのみが病院に駆け付けた。今ここにいるのは、悠李くんのマネージャーさん、監督であるわたしの父、そしてプロデューサーさんの三人だ。
 医師の診察の結果、幸い今すぐ命にかかわるような状況ではなく、軽い貧血を起こしただけだったらしい。しばらく安静にしていれば、今日中に帰れるそうだ。
 悠李くんのお母さんへの事情説明にわたしが加わると、話がややこしくなるから出てくるなとお父さんには言われているけれど。スタッフのせいだと思われたら、このまま悠李くんは連れて帰られてしまうかもしれない。
 それはきっと、悠李くんの望んでいることではないはずだ。
 しばらくの間、離れた場所で一人ぽつんと座り、事の成り行きを見守っていたけれど、意を決して立ち上がると、わたしは悠李くんのお母さんの元へと歩み寄った。
「ごめんなさい。全部わたしのせいなんです。悠李くんに出掛けたいって言われても、体のことを考えたら、無理をさせず、きちんと止めるべきでした」
「あなた……あなたと一緒に、悠李は出掛けていたというの? いったい悠李とはどういう関係なの?」
「今回悠李くんの映画撮影を行っている星都高校生徒会長の一ノ瀬……」
 途中で遮るようにして、悠李くんのお母さんが大きなため息を吐く。
「どうして関係者でもないあなたと悠李は一緒だったの?」
「私が娘に頼みました。悠李くんを一人にするなと。今回のことは、すべて私に責任があります。誠に申し訳ございませんでした」
 お父さんが一歩前に出て、深々と頭を下げる。
「監督の、娘さん?」
 しばらくの間わたしのことをじっと見つめていた悠李くんのお母さんが、黙ったままゆっくりと首を横に振る。
「……もう、なにもかも信用できません。今すぐ撮影は中止してください。悠李は、このまま連れて帰ります」
「ダメです! あと少しで撮影が終わるって言ってました。だから、どうか最後まで……」
「だから、関係者でもないあなたが口出ししないでちょうだい!」
「でも、関係者じゃないからこそ、悠李くん、わたしにいろいろ話してくれました。映画には、たとえ自分がいなくなったとしても、ちゃんとここにいたって証だけは残せるって。『ああ、こんなやついたなー』って、みんなの心に少しでもなにか残せるような作品にしたいって。悠李くんの思いを、なかったことにしないでください。お願いします」
「――俺からもお願い。あと少しだから。だから、最後までやらせて」
 みんなが一斉に声の方を向くと、悠李くんが点滴のスタンドに捕まるようにして立っていた。顔色がまだ真っ青だ。
「悠李、なにをやっているの!?」
「母さんの声が大きすぎるからだよ」
 悲鳴のような声を上げるお母さんに、悠李くんが苦笑いする。
「まだ横になってなくちゃダメよ」
「だったら、僕の好きにさせてくれるって約束して。そうしたら、今すぐベッドに戻るから。ここで帰ったら、後悔しか残らない。だから、お願い」
 そんな悠李くんのことを、お母さんは心配そうな瞳でじっと見つめている。
 どれくらいそうしていただろう。たった数秒だったかもしれない。でもわたしには永遠に感じるくらいの長い時が過ぎ、悠李くんのお母さんが再び口を開いた。
「今度倒れたら、首に縄をつけてでも連れて帰りますからね」
「うん、わかった。そうならないように、絶対気をつける」
 事の成り行きを静かに見守っていたスタッフの間に安堵が広がり、わたしも思わず詰めていた息を吐き出した。
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